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リサ登場



 二歳になってしばらく経った頃。


 俺は、ついに一人で歩き回れるようになっていた。


 まだ走ることはできない。


 少し長く歩くと疲れるし、転ぶこともある。


 それでも、これまでとは世界の見え方がまるで違った。


(歩けるって、こんなに楽しいのか)


 前世では当たり前だったことが、今の俺にとっては新鮮だった。


 自分の足で家の中を歩く。


 庭に出る。


 母さんについて、家の外まで行く。


 そんな小さなことだけでも楽しかった。


 そして――。


 俺には、ずっと待っていたものがある。


(今なら……開けられる)


 あの扉だ。


 女神から与えられたスキル。


 ――マイルーム。


 俺は家族の目を盗み、誰もいない場所へ移動した。


 そして、目の前に扉を出現させる。


 以前は、この扉を開けることすらできなかった。


 だが今は違う。


 小さな手を伸ばして、取っ手を握る。


 ゆっくりと引く。


 ガチャリ。


 扉が開いた。


(……開いた!)


 俺は思わず興奮した。


 扉の向こうには、俺だけの部屋がある。


 恐る恐る中へ入る。


 すると――。


「……すごい」


 そこは、前世の自分が知っている「部屋」に近かった。


 床があり、壁があり、天井がある。


 家具も用意されている。


 何より、外の世界とは明らかに違う。


 俺だけの空間。


(これが……マイルーム)


 しばらく部屋の中を見回していた。


 そして、一つ気づいた。


(……ここに入っている間、外から俺はどう見えるんだ?)


 俺は慌てて外へ戻った。


 そして、もう一度マイルームへ入る。


 数秒後。


 また外へ出る。


(……やっぱり)


 外から見ると、俺は突然その場から消えている。


 つまり――。


 俺がマイルームに入っている間、両親からすれば、俺は忽然と姿を消したことになる。


(これ……神隠しじゃないか?)


 俺が家の中で突然消えたら、父さんも母さんも当然大騒ぎする。


 ましてや、俺はまだ二歳。


 どこへ行ったのか説明することもできない。


(絶対に使う場所を選ばないと……)


 マイルームは便利だ。


 だが、今の俺にとっては非常に危険なスキルでもある。


 少なくとも、両親の目の前では絶対に使えない。


 家の中でも危険だ。


 俺が突然消えてしまえば、家族にとっては本当に「神隠し」にしか見えない。


 だから俺は、マイルームを使うときには細心の注意を払うことにした。


 誰も見ていない場所。


 近くに人がいないこと。


 そして、すぐに戻れる状況。


 それが条件だ。


 マイルームの中を自由に使えるようになったとはいえ、好き勝手に出入りできるわけではない。


(便利だけど……使いどころが難しいな)


 俺はそう思いながら、扉を閉じた。


 そして、もう一つ。


 歩けるようになったことで、俺の行動範囲も少しずつ広がっていった。


 両親と一緒に、家の近所を散歩する。


 村の道。


 畑。


 近所の家。


 少し離れたところにある林。


 これまで抱かれて見るだけだった景色を、自分の足で歩いて見る。


 それだけで楽しかった。


 そして、その散歩の途中。


「こんにちは」


 声をかけられた。


 振り返ると、そこには俺と同じくらいの年齢の女の子がいた。


「……?」


 俺が見つめていると、女の子が笑う。


「私、リサ」


 リサ。


 それが、この子の名前だった。


 俺は自分を指差した。


「アレン」


「アレン?」


「うん」


 リサが嬉しそうに笑う。


「アレン、一緒に遊ぼう!」


「いいよ」


 こうして、俺には初めての友達ができた。


 リサと遊ぶようになってから、村での生活はさらに楽しくなった。


 一緒に走ったり。


 草花を見つけたり。


 石を拾ったり。


 時には何をしているのか分からない遊びをしたり。


 前世の記憶を持つ俺にとって、同年代の子供と遊ぶというのは久しぶりのことだった。


 そして、そんな日々の中でも、魔法の鍛錬は続けていた。


 もちろん、人には見られないように。


 以前よりも魔力の扱いには慣れてきた。


 火を出す。


 消す。


 また出す。


 魔力を少しずつ増やす。


 光を出す。


 明るさを調整する。


 水を出す。


 量を調整する。


 毎日少しずつ繰り返していく。


 その成果は、確実に出ていた。


 特に火魔法は大きく変わった。


「……よし」


 手のひらに魔力を集める。


 火をイメージする。


 すると――。


 ゴォッ。


「……!」


 以前のような、ろうそく程度の小さな炎ではない。


 炎は勢いよく噴き出した。


 まるでバーナーの火のようだ。


(すごい……!)


 最初の頃とは比べ物にならない。


 魔力の量も増えた。


 そして、魔力を一つの場所へ集める技術も上達している。


 火を消す。


 次は光。


 手のひらに魔力を集める。


 光をイメージする。


 ぽうっ。


 周囲が明るくなる。


(これも……かなり明るくなったな)


 以前は豆電球程度だった。


 今では、蛍光灯くらいの明るさがある。


 暗い場所なら、部屋全体を照らせるくらいだ。


(順調だ)


 魔力そのものが増えている。


 そして、魔法の出力も上がっている。


 まだ幼い身体なので無理はできない。


 長時間使えば疲れる。


 それでも、少しずつ成長していることが実感できた。


 俺は手のひらを見つめる。


(この調子で鍛えていけば……もっと強くできる)


 ただし、今はまだ誰にも知られるわけにはいかない。


 家族にも。


 村人にも。


 そして――。


 新しくできた友達、リサにも。


 俺には、まだ秘密がある。


 マイルーム。


 魔法。


 そして、カレンの魔力についての実験。


 秘密が少しずつ増えていく。


 けれど、それと同じくらい。


 この世界で大切なものも、少しずつ増えていた。


 家族。


 妹のカレン。


 そして――初めてできた友達、リサ。


 俺はそんな日々を楽しみながら、誰にも知られないように魔法の鍛錬を続けていった。

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