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カレン誕生



 俺が二歳になった頃。


 我が家に、新しい家族が増えた。


「ほら、アレン。妹だぞ」


 父さんに呼ばれて、俺は母さんの腕の中を覗き込んだ。


 そこには、小さな赤ん坊がいた。


 まだ髪も少なく、手も足も小さい。


 俺も二年前は、こんな姿だったのだろう。


「かわいいでしょう?」


 母さんが優しく笑う。


「……うん」


 俺は妹の顔をじっと見つめた。


 そして、この子には――カレンという名前がつけられた。


 カレンは眠そうに目を開けると、小さな手を動かした。


 そして――。


 俺の指を握った。


(……妹か)


 前世では一人っ子だった俺にとって、妹という存在は初めてだった。


 なんだか、不思議な気分だった。


 それからというもの、俺はカレンの様子をよく見るようになった。


 泣いている。


 寝ている。


 母さんに抱かれている。


 時々、意味の分からない声を出している。


 まだ生まれたばかりなのだから、当然だ。


 そんなカレンを眺めながら、俺はあることを考えるようになった。


(この子にも、魔力はあるんだよな)


 この世界の人間なら、誰でも魔力を持っている。


 それは村人たちを見てきたことで、ほぼ間違いないと思っている。


 もちろん、魔力を持っているからといって魔法が使えるわけではない。


 少なくとも、村では魔法を使える人を見たことがない。


 だから俺自身が魔法を使えることも、家族には秘密にしている。


 そんなある日。


 母さんと父さんが別の部屋にいる間、俺とカレンだけになる時間があった。


 カレンはベッドで眠っていた。


 俺は少し離れたところで遊んでいたのだが――。


「ふぇ……」


 カレンが目を覚ました。


「ふぇぇ……」


 小さな顔を歪める。


(あ、泣く)


 俺は急いでカレンのそばへ行った。


「よしよし」


 頭を撫でる。


「大丈夫だぞ」


 もちろん、二歳児の俺が言っても、まともな言葉として伝わっているかは分からない。


 それでも、できるだけ優しく声をかける。


 だが――。


「ふぇぇぇ……!」


(駄目か)


 泣き止まない。


 抱き上げようとしても、まだうまく扱えない。


 頭を撫でても駄目。


 声をかけても駄目。


 俺は困り果てた。


(どうする……)


 そして、ふと思い出す。


(……魔法なら?)


 以前、一人で練習しているときに小さな光を出したことがある。


 もしかしたら、これを見せれば気が紛れるかもしれない。


 もちろん、両親が戻ってくる前に終わらせる必要がある。


 俺は部屋の入り口を確認した。


 父さんも母さんもいない。


 大丈夫。


 俺はカレンの前に手を出した。


 そして――。


 ぽっ。


 小さな光が生まれた。


「……」


 カレンの泣き声が止まった。


(……え?)


 カレンは目を丸くして、俺の手元を見ている。


 小さな光をじっと見つめている。


 俺は少しだけ光を動かしてみた。


 右へ。


 左へ。


 するとカレンの視線も、光を追いかける。


「……あぅ」


(興味を持った?)


 さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。


 俺はさらに光を少しだけ大きくする。


 カレンが小さな手を伸ばす。


(おいおい、触るなよ)


 俺は慌てて光を消した。


 するとカレンが、不満そうな声を出した。


「うー……」


(そんなに気に入ったのか?)


 俺は思わず笑ってしまった。


 そして、ふと考える。


(……もしかして)


 カレンも魔法を使えるんじゃないか?


 この世界の人間なら、誰でも魔力を持っている。


 ならば、正しい訓練をすれば魔法を使える可能性もある。


(確かめてみるか)


 カレンはまだ赤ん坊だ。


 自分で魔力を動かすことなんてできない。


 ならば、まずは俺が魔力を感じさせてみればいい。


 俺はカレンの小さな手を握った。


 カレンも俺の指を握り返してくる。


 俺は自分の魔力を動かした。


 手のひらから、カレンの身体へ。


 ゆっくり。


 ほんの少しだけ。


 まるで水を一滴ずつ分けるような感覚で魔力を流す。


(……あった)


 カレンの中にも、ちゃんと魔力が存在している。


 普段はほとんど動いていない。


 だが、俺の魔力が触れると――。


 微かに反応した。


(やっぱり……)


 カレンの魔力が揺れる。


 俺はそこで一度、魔力を流すのを止めた。


 カレンの様子を見る。


 苦しそうではない。


 泣いてもいない。


 特に変化はないようだ。


(大丈夫そうだな)


 それから俺は、何日かに一度だけ同じことを試してみた。


 カレンの手を握る。


 魔力をほんの少し流す。


 カレンの魔力がどう反応するのか確認する。


 そして、すぐにやめる。


 無理はさせない。


 あくまで観察だ。


 最初の頃は、特に変化はなかった。


 だが、ある日。


 カレンの魔力を確認していた俺は、違和感を覚えた。


(……ん?)


 以前よりも大きい。


 カレンの中にある魔力の総量が、明らかに増えている。


(気のせいじゃない……)


 俺は何度も確認した。


 間違いない。


 カレンの魔力は、以前より増えている。


(どういうことだ?)


 もちろん、カレン自身が成長している。


 生まれたばかりの頃より身体も大きくなっている。


 だから魔力が増えていても不思議ではない。


 しかし――。


 俺は、自分が魔力を流してきたことを思い出す。


(俺が刺激したからなのか?)


 それとも、ただ成長しただけなのか。


 今の俺には判断できない。


 魔力を流すことで魔力の総量が増えるのか。


 それとも、誰でも成長とともに自然に増えていくのか。


 まだ比較する材料が足りない。


 俺はカレンの小さな手を見つめた。


(……面白い)


 前世の知識を持っている俺でも、この世界の魔力について分からないことは多い。


 ならば――。


 自分で調べるしかない。


 カレンに魔法を教えるのは、まだ先でいい。


 今は観察する。


 カレンの魔力が、これからどう成長していくのか。


 俺の魔力を刺激し続けた場合、何か変化が起きるのか。


 そして――。


 この子は、本当に魔法を使えるようになるのか。


「……」


 眠っているカレンを見つめる。


 小さな胸が、規則正しく上下している。


(まあ、焦る必要はないか)


 まだカレンは生まれたばかりだ。


 時間なら、いくらでもある。


 俺はカレンの頭をそっと撫でた。


 こうして俺は、カレンと一緒に、魔力についての実験を始めた。

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