露天風呂
リサに魔法を教えてほしいと頼まれた俺は、まず魔法を使うために必要な魔力について説明することにした。
「魔法を使うには、自分の中にある魔力を感じられるようになる必要があるんだ」
「魔力って……どうやって感じるの?」
「それが難しいんだよね」
俺自身は、前世の記憶を取り戻してから少しずつ魔力を感じられるようになった。
けれど、リサは何度試しても自分の魔力を感じることができなかった。
「うーん……何も分からない」
「もう一回やってみよう」
「うん」
リサは目を閉じて集中する。
しばらく待ってみるが、やはり何も感じられないようだった。
「やっぱり分からない……」
「じゃあ、別の方法を試してみようか」
「別の方法?」
「俺が少しだけ魔力を流してみる。それで、身体の中に何か変化を感じるか試してみよう」
「分かった!」
俺はリサの手を取った。
そして、できるだけ少ない量の魔力をゆっくりと流していく。
「……どう?」
「…………」
リサはじっと目を閉じている。
俺が少しずつ魔力を流していくと――。
「……あっ」
リサの身体がびくっと動いた。
「何か感じた?」
「うん……! なんだか、身体の中を何かが通ったみたい!」
「それが魔力だよ」
「これが……魔力……」
リサは嬉しそうにしている。
しかし、次の瞬間だった。
「ひゃっ!」
「えっ?」
魔力の刺激に驚いたリサが、身体をびくっと震わせた。
「だ、大丈夫?」
「…………」
リサは急に黙り込んだ。
そして、顔を赤くして俯いてしまう。
「どうしたの?」
「……失敗しちゃった」
どうやら驚いた拍子に、お漏らしをしてしまったらしい。
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。俺も急に魔力を流したのがよくなかった」
「怒らない?」
「怒らないよ」
リサは少し安心したようだった。
「それより、このままだと気持ち悪いでしょ」
「……うん」
「じゃあ、お風呂に入ろう」
「お風呂?」
「こっちにあるんだ」
俺が案内したのは、畑の近くに作っておいた露天風呂だった。
マイルームの中で風呂を作ることもできるが、外でゆっくり湯に浸かれる場所が欲しくなり、少しずつ準備していたのだ。
もちろん、誰かに見つからないよう、人目につかない場所を選んである。
「わぁ……!」
露天風呂を見たリサの顔が一気に明るくなった。
「これがお風呂?」
「そうだよ」
「外なのに?」
「そう。露天風呂っていうんだ」
「へぇ……!」
リサは興味津々といった様子で風呂を眺めている。
「じゃあ、ゆっくり温まっておいで」
「うん!」
しばらくすると、リサは気持ちよさそうに息を吐いた。
「はぁ……」
「気持ちいい?」
「うん! すごく気持ちいい!」
さっきまで落ち込んでいたとは思えないほど、リサは嬉しそうだった。
「こんなお風呂、初めて」
「そう?」
「うん。また入りたい!」
「魔法の練習が終わったら、また入ればいいよ」
「本当!?」
「うん」
「やった!」
リサは嬉しそうに笑った。
その日は魔法の練習を中止して、風呂から上がったあと、少し休んでから家へ帰ることにした。
結局、魔力を感じる練習は失敗してしまった。
けれど、完全な失敗というわけでもない。
リサは初めて、俺の魔力を通して「魔力が身体の中を流れる感覚」を知ることができた。
次はもっと慎重にやろう。
そう思いながら、俺はリサを見送った。
――それからというもの。
リサは魔法の練習をするために、度々俺のところへ来るようになった。
「アレン、今日も魔法の練習しよう!」
「うん。今日は自分の魔力を感じる練習からね」
「分かった!」
最初の頃はなかなか魔力を感じられなかったリサも、少しずつ感覚を覚えていった。
そして、魔法の練習が終わると――。
「アレン、お風呂入ろう!」
「また?」
「だって、あのお風呂好きなんだもん!」
いつの間にか、露天風呂に入ることも二人の習慣になっていた。
魔法の練習をして、露天風呂で疲れを取る。
そんな日々を繰り返すうちに、リサとの距離も少しずつ近くなっていった。
そして俺はまだ知らなかった。
この小さな露天風呂と魔法の練習が、後になって俺たちにとって大切な場所になっていくことを。




