始めての依頼
「アレン君、薬草採取を受けるのかにゃ?」
冒険者ギルドの受付で、獣人のお姉さんが俺に尋ねてきた。
「ああ。冒険者が最初に受けるのにふさわしいのは、どぶ掃除か薬草採取だよね」
「なんでその二択にゃ?」
「なんとなく、冒険者の新人ってそういう依頼から始めるイメージがあるんだよ」
「まあ、いいけどにゃ」
受付嬢は薬草採取の依頼書に目を通す。
「薬草は今ちょっと不足気味だから、いくらでも買い取れるにゃ。頑張っていっぱいとってくるにゃ」
「分かった。いっぱいとってくるね」
薬草が不足しているなら、規定数以上に採っても買い取ってもらえそうだ。
俺には解析魔法がある。
普通の冒険者より効率よく採取できるだろう。
初めての依頼としては悪くない。
俺は依頼書を受け取ろうとした。
そのときだった。
受付嬢の後ろで、ふさふさとした大きなしっぽが揺れている。
やっぱり気になる。
「ところで、お姉さん。素敵なしっぽだね」
「自慢のしっぽにゃ」
受付嬢は嬉しそうにしっぽを揺らした。
「触らせてもらえないかな?」
「獣人のしっぽは旦那さましか触れないにゃ」
「旦那さましか?」
「そうにゃ」
きっぱり断られてしまった。
残念だ。
せっかく目の前にこんなに立派なしっぽがあるのに。
俺は少し考えた。
「お姉さん、さっきとは違うお茶菓子もどうぞ」
マイルームから持ってきたお茶菓子を取り出し、受付台の上に置く。
「……一回だけにゃ」
「本当?」
「一回だけにゃ」
受付嬢はお茶菓子を受け取った。
そして、俺は許可された一回だけ、しっぽにそっと手を伸ばした。
触れてみる。
「すごいふさふさしてるね」
思っていた以上に柔らかい。
手を動かすと、毛がふわっと指の間を通っていく。
「自慢のしっぽにゃ」
受付嬢は少し嬉しそうに答えた。
俺がしっぽから手を離す。
周囲を見ると、他の受付嬢たちがこちらを見ていた。
なんだか、みんなドン引きしている。
……なぜだ?
たった一回、許可をもらって触っただけなのに。
「もう一回……」
「駄目にゃ」
「分かった」
さすがに二回目は許してもらえなかった。
受付嬢はお茶菓子を食べながら、少し考えるような顔をする。
「……十歳以下の獣人だったら、触らせてもらえるかもしれないにゃ」
「十歳以下?」
「そうにゃ。獣人の子供なら、大人ほど気にしない子もいるからにゃ」
「十歳ね。覚えておくよ」
「でも、ちゃんと本人にお願いするにゃ。勝手に触ったら駄目にゃ」
「もちろん」
俺は頷いた。
獣人のしっぽについては、これで分かった。
十歳以下なら触らせてもらえるかもしれない。
覚えておこう。
ただ、今は薬草採取が先だ。
「それじゃあ、行ってくるね」
「気をつけて行ってくるにゃ。薬草をいっぱい頼むにゃ!」
「ああ」
俺は受付嬢に手を振り、冒険者ギルドを出た。
ギルドの外に出ると、大通りにはたくさんの人が行き交っている。
商人らしい人、買い物をしている人、冒険者らしい格好をした人。
村にいた頃とは、人の数がまるで違う。
俺は人の流れに沿って、町の外へ向かって歩き始めた。
今日受けた依頼は薬草採取。
依頼書には、町の近くにある森が採取場所として指定されている。
森までの道順も教えてもらっているので、迷うことはない。
しばらく歩いていると、前方に大きな門が見えてきた。
町を囲んでいる城壁の門だ。
門の前には、町の外へ出ようとする人たちが並んでいる。
俺も最後尾に並んだ。
少し待つと、俺の番が来る。
「身分証を」
門番が声をかけてきた。
「はい」
俺は冒険者ギルドでもらったばかりのギルド証を取り出す。
「冒険者か」
「今日登録したばかりです」
門番はギルド証を確認し、俺の顔を見る。
「一人か?」
「はい」
「町の外には魔物もいる。気をつけろよ」
「分かりました」
門番からギルド証を返してもらう。
「通っていいぞ」
「ありがとうございます」
俺は門をくぐった。
町の外に出る。
城壁の内側とは違い、目の前には広い街道が続いていた。
遠くには馬車も見える。
商人らしい馬車とすれ違う。
村で暮らしていた頃には、これほど多くの馬車を見ることはなかった。
町から少し離れると、周囲の景色も変わってくる。
建物が減り、草原が広がっていく。
俺は街道を歩きながら、依頼書を確認する。
薬草の採取場所は、この先にある森。
必要な薬草の種類と納品数も書かれている。
「これなら簡単そうだな」
普通なら、森の中を歩き回って薬草を探す必要がある。
でも、俺には解析魔法がある。
薬草の特徴さえ分かれば、探すのはそれほど難しくない。
しばらく歩いていると、前方に木々が見えてきた。
「あれが森か」
町から森までは、それほど遠くなかった。
街道から少し外れたところに、森へ続く道がある。
近くには何人かの冒険者の姿も見える。
薬草採取をしているのだろう。
俺は森の入口まで歩いていく。
そこで一度立ち止まり、森の中を眺めた。
「さて……」
今日の初依頼は薬草採取。
まずは普通に薬草を探してみよう。
そして、どれくらいの量を採れるのか確認する。
俺は解析魔法を使う準備をした。
冒険者としての最初の仕事が、いよいよ始まる。




