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異世界で奴隷ハーレム作って悪役令嬢を嫁にもらうまで  作者: まゆな


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アレン誕生

――おぎゃあ、おぎゃあ!


 誰かが泣いている。


 うるさいな。


 そう思った。


 こんなに近くで赤ん坊が泣いているのだから、少しくらい静かにしてほしい。


 ……いや。


 待て。


 この声、どこから聞こえている?


 俺は目を開けようとした。


 だが――。


 開かない。


 もう一度、力を入れる。


 それでも目は開かなかった。


 身体を起こそうとする。


 腕を動かす。


 足を動かす。


 しかし、思うように動かない。


 まるで身体そのものが、自分の命令を聞いてくれない。


 何とか指を動かそうとして――。


 ほんの少しだけ、何かが動いた気がした。


 そこでようやく気づいた。


 ――俺、赤ん坊じゃないか?


 その事実を理解した瞬間。


 頭の中が一気に混乱した。


 俺は死んだ。


 女神に会った。


 そして、異世界へ転生した。


 そこまでは覚えている。


 だが――。


 まさか、本当に赤ん坊から始まるとは思わなかった。


 いや、女神はそんなことを言っていたか?


 ……言っていた気もする。


 いや、言ってなかった気もする。


 そんなことを考えている間にも、身体はまったく言うことを聞かない。


 しかも、視界がほとんどない。


 目を開けてもいるのかいないのか分からないほどぼんやりとしていて、周囲のものを認識することすら難しい。


 聞こえてくるのは、誰かの声。


 知らない言葉。


 ……いや。


 言葉そのものは理解できる。


 それだけでも助かった。


 誰かが俺を抱き上げる。


 身体がふわりと浮いた。


「……!」


 思わず声を出そうとする。


 しかし口から出てきたのは――。


「おぎゃあ……!」


 自分でも驚くほど、立派な赤ん坊の声だった。


 ……。


 しばらく沈黙する。


 そして俺は、心の中で女神に文句を言った。


 ――女神さん。


 ――せめて五歳くらいで記憶が戻るようにしてほしかったんだけど。


 これ、きついですよ。


 身体は動かない。


 目は見えない。


 言葉も話せない。


 何より――暇すぎる。


 前世なら、暇になればスマートフォンを取り出せばよかった。


 動画を見る。


 ゲームをする。


 漫画を読む。


 ネットを見る。


 何時間でも潰せた。


 しかし今は、スマートフォンどころか手すらまともに動かせない。


 俺はただ、寝て。


 起きて。


 泣いて。


 飲んで。


 また寝る。


 そんな生活を繰り返すしかなかった。


 ――暇だ。


 ものすごく暇だ。


 最初のうちは周囲の声を聞いているだけでも面白かった。


 どうやら俺のことを心配しているらしい。


 男の声と女の声が聞こえる。


 たぶん、両親なのだろう。


 そんなことを考えていたある日。


 女の声が聞こえてきた。


「アレン、今日も元気ね」


「よく泣く子だな」


 男の声が続く。


「でも、元気なのはいいことよ」


 ――アレン?


 俺は心の中で、その言葉を繰り返した。


 アレン。


 誰のことだ?


 しばらく考えて――。


 まさか。


 俺のことか?


「アレン、ほら。お父さんですよ」


 そう言って、男が俺の身体に触れる。


 そこでようやく確信した。


 ――俺の名前は、アレン。


 前世では山田一郎だった。


 けれど、この世界で俺を呼ぶ名前は違う。


 アレン。


 それが、この世界での俺の名前なのだ。


 不思議な感覚だった。


 自分の名前なのに、まだ少し馴染まない。


 けれど、両親が何度も「アレン」と呼ぶうちに、少しずつその響きが自分のものになっていく。


 ――アレン。


 新しい人生での、俺の名前。


 そう思うと、ほんの少しだけ嬉しくなった。


 ……まあ。


 今はそれどころじゃない。


 俺は赤ん坊なのだ。


 名前が分かっても、できることはほとんどない。


 身体を動かすこともできない。


 自由に話すこともできない。


 そして――。


 暇だ。


 ものすごく暇だ。


 そこで俺は考えた。


 暇なら、何かできることを探せばいい。


 赤ん坊の身体でもできること。


 考えることならできる。


 なら、まずは自分の身体について調べてみよう。


 そう思った。


 意識を身体の内側へ向ける。


 心臓が動いている。


 血液が流れている。


 呼吸をしている。


 そんな当たり前の感覚を、一つずつ確認していく。


 すると――。


「……?」


 妙な感覚があった。


 身体の中心。


 胸の奥とも、腹の奥とも言えない場所。


 そこに、ほんのわずかな熱を感じた。


 温かい。


 だが、体温とは少し違う。


 何かがそこに存在している。


 そんな感覚だった。


 意識を集中する。


 すると、その熱がほんの少しだけ動いた。


「……!」


 驚いた。


 偶然かもしれない。


 もう一度、意識を向ける。


 今度はゆっくりと、その熱を身体の中で動かしてみる。


 胸から腹へ。


 腹から背中へ。


 そして、そこからまた胸へ。


 まるで身体の中を巡るように、熱を循環させる。


 しばらく続けていると、不思議なことが起きた。


 さっきよりも熱の存在がはっきりと分かる。


 しかも、少しだけ動かしやすくなっている。


 これは――。


 もしかして。


 魔力?


 女神が言っていた。


 この世界には魔法がある。


 なら、この身体の中にあるものが魔力だとしても不思議ではない。


 俺はさらに意識を集中させた。


 魔力と思われる熱を身体の中で循環させる。


 一周。


 二周。


 三周。


 最初は思うように動かなかった。


 途中で散ってしまうこともある。


 それでも繰り返す。


 すると少しずつ、魔力の流れを感じ取れるようになってきた。


 最初はただの熱だった。


 それが今では、まるで自分の身体の一部のように感じられる。


 動かす。


 止める。


 集める。


 流す。


 少しずつ、自分の意思で操作できるようになっていく。


 これは面白い。


 前世では、こんなことはできなかった。


 暇潰しのつもりだった。


 だが、これはかなり有意義な暇潰しになりそうだ。


 もし本当にこれが魔力なら。


 今のうちから鍛えておけば、将来かなり役に立つかもしれない。


 魔力量そのものを増やせるかもしれない。


 魔力の扱いも上手くなるかもしれない。


 何より――。


 今の俺には時間だけは有り余っている。


 赤ん坊なのだから。


 寝る。


 起きる。


 魔力を循環させる。


 疲れたら寝る。


 そしてまた魔力を循環させる。


 我ながら、ものすごく地味な生活だ。


 けれど――。


 暇を持て余していた俺にとっては、それでも十分だった。


 こうして俺は、誰にも知られることなく。


 異世界での最初の修行を始めた。


 そして――。


 アレンとしての、新しい人生も始まった。

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