強制肝試し
村の外にある畑。
今日もリサとカレンは、アレンに任された畑の世話をしていた。
「カレン、そっちお願い」
「うん!」
二人で並んで畑を手入れしていると、後ろから声がした。
「二人とも」
振り返ると、アレンが立っていた。
「なに、お兄ちゃん?」
「今日、ダンジョンに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」
「行く!」
カレンは即答した。
「いいよ!」
しかし、リサは首を横に振った。
「私は行かない」
「え?」
「ダンジョン、怖いから……」
リサはダンジョンという言葉を聞いただけで、少し表情を曇らせた。
以前、アレンがリサの目の前で爆裂魔法を使ったことがある。
あまりの恐怖にお漏らししてしまったのは、今でもリサの中に軽いトラウマとして残っていた。
「大丈夫だよ」
アレンは平然と言う。
「アイアンゴーレムはもういないから」
「……あのでっかいの?」
カレンが尋ねる。
「うん。もう倒したからいなくなったよ」
「そっか!」
カレンは嬉しそうに笑った。
しかし、リサは首を横に振る。
「それでも行きたくない……」
「三人で行きたいんだけど」
「でも……」
リサは困った顔をする。
アレンは少し考えた。
「アイアンゴーレムに二年も足止めされてたんだ」
「……」
「やっと倒したんだから、先に進みたい」
アレンはリサを見る。
「初めての景色は、三人で見たいんだ」
もちろん、アレンはすでに六階層を見ている。
五階層の先へ進み、階段を下りた先にあったのが墓地だったことも知っている。
そして――。
一人であそこを歩くのは嫌だった。
せっかくゴーレムを倒したのに、自分だけ嫌な思いをするのも嫌だ。
だから二人を連れていくことにした。
もっとも、そんなことを二人に話すつもりはない。
「でも、ダンジョン怖いよ……」
リサがまだ迷っていると、カレンが口を挟んだ。
「でっかいのがいないなら大丈夫だよ!」
「え?」
「私、身体強化できるもん。ウサギだって倒せたし!」
カレンは胸を張る。
「だから、カレンが守ってあげる!」
「……」
リサはカレンを見る。
確かに、アイアンゴーレムがいないなら、前よりは怖くないのかもしれない。
「……分かった」
しぶしぶ頷いた。
「行く」
「やった!」
カレンが喜ぶ。
アレンも満足そうに頷いた。
「じゃあ、行こう」
◇
ダンジョンに入ると、魔物が次々と現れた。
しかし――。
「えいっ!」
カレンが身体強化を使って走る。
魔物との距離を一気に詰める。
「やあっ!」
拳が魔物に当たる。
魔物が吹き飛んだ。
「すごい!」
リサが驚く。
「でしょ!」
カレンは嬉しそうだ。
その後も魔物が現れるたびに、カレンが身体強化で倒していく。
アレンはほとんど手を出さなかった。
そうして三人は、五階層まで順調に進んでいった。
やがて、六階層へ続く階段の前に到着する。
カレンがリサを見る。
「ね? 危なくなかったでしょ?」
「うん……」
リサは頷く。
「危ない場面はなかったけど……」
「ほら!」
「でも、そもそも私、ダンジョンに用事がないんだけど……」
「……」
アレンは少し考えた。
「せっかくだし、三人で手を繋いで行こうか」
「なんで?」
「三人一緒なら安心だから」
アレンはリサとカレンの手を取った。
二人を連れて、階段を下りていく。
そして――。
階段を下りた先に広がっていたのは、薄暗い墓地だった。
墓石がいくつも並んでいる。
静まり返った空間。
風が吹き抜ける。
「……」
カレンが固まった。
「……」
リサも固まる。
二人は同時にアレンを見る。
「お兄ちゃん……」
「帰ろう?」
「うん、帰ろう」
二人が踵を返そうとする。
しかし――。
アレンは繋いだ手を離さなかった。
「行くよ」
「え?」
「せっかく来たんだから」
「嫌!」
「帰りたい!」
「大丈夫だから」
アレンは二人の手を握ったまま、ずるずると前へ進む。
「お兄ちゃん、離して!」
「アレン、帰ろうよ!」
「大丈夫、大丈夫」
二人が抵抗する。
しかし、アレンは気にしない。
「三人で見に来たんだから、三人で行こう」
「こんなの見たくない!」
「私も!」
そんな二人の抗議をよそに、アレンはどんどん墓地の中へ進んでいく。
すると――。
ガシャ……。
「!」
何かが動いた。
土の上から、白い骨の身体が立ち上がる。
「スケルトンだ」
アレンは冷静だった。
「ストーンバレット!」
石の弾丸が飛び、スケルトンの身体を砕く。
ガシャガシャと音を立てて、スケルトンが崩れ落ちた。
「ほら、危なくないよ」
「そういう問題じゃない!」
リサが叫ぶ。
「墓地なのが嫌なの!」
「怖い!」
カレンも抗議する。
しかし、アレンは気にせず先へ進む。
「大丈夫だって」
さらに奥へ。
すると――。
ふわり。
空中に何かが浮かんでいた。
「……?」
アレンが見上げる。
半透明の人影。
「お化け!」
リサが叫んだ。
身体が震える。
「お化け……!」
カレンもアレンの腕にしがみつく。
「レイスか」
アレンはストーンバレットを放った。
しかし――。
スッ。
石の弾丸がレイスの身体をすり抜けた。
「……効かない?」
アレンは考える。
物理攻撃が効かない。
ゲームでは、アンデッドに回復魔法が効くことがあった。
「じゃあ……」
アレンは手を前へ向ける。
「ヒール」
光がレイスを包む。
「ギャアアア……!」
レイスが苦しそうな声を上げ、その姿が消えていった。
「倒せた」
アレンは頷いた。
すると、カレンがリサの顔を覗き込んだ。
「リサ……出ちゃった?」
リサは真っ赤な顔で、小さく頷いた。
「……うん」
「私も……」
カレンも小さく呟く。
「……」
アレンは二人を見る。
そして、少し考えた。
「今日は帰ろう」
「今すぐ!」
「帰ろう!」
二人は今までにない勢いで答えた。
アレンもさすがにこれ以上は進めないと判断した。
三人は急いで来た道を戻り、ダンジョンを後にした。
◇
村へ戻る前に、三人はいつものようにお風呂に入った。
温かいお湯に浸かりながら、リサは今日のことを思い出していた。
墓地。
スケルトン。
そして、お化け。
「……」
もう絶対に行かない。
リサは心の中で固く決意した。
二度とダンジョンなんか行かない。
その隣では、カレンも今日の出来事を思い出していた。
そしてアレンだけは、いつも通りの様子で湯船に浸かっていた。
こうして三人は、お風呂を終えてそれぞれ家へ帰っていった。




