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リサ視点


 リサは、どこにでもいる普通の子供だった。

 少なくとも、あの男の子と出会うまでは。

 リサが三歳の頃、村にアレンという男の子がいた。

 リサにとって、アレンはとても不思議な存在だった。

 普通の子供なら、家の前で遊んだり、近所の子供たちと一緒に走り回ったりする。

 けれど、アレンは違った。

 いつも一人だった。

 遊んでいるところを、ほとんど見たことがない。

 それどころか、アレンは時々、家の前で周りをきょろきょろと見回していた。

 大人がいないことを確かめると、村の外へ出ていく。

「……どこに行ってるんだろう?」

 気になった。

 何をしているのか知りたい。

 そう思ったリサは、ある日、アレンの後をついていくことにした。

 アレンは村からそれほど離れていない場所まで歩いていった。

 そして、そこでリサは見たことのないものを見つけた。

「……畑?」

 そこには、小さな畑があった。

「アレンが育ててるの?」

 でも、リサには別の疑問もあった。

 どうしてアレンが畑なんて作れるんだろう。

 自分とそんなに年が変わらないのに。

 リサは木の陰に隠れて、畑の様子を眺めることにした。

 しばらくすると、アレンがやってきた。

 そして――。

「えっ……?」

 アレンが手をかざす。

 すると、水が現れて畑に降り注いだ。

 キラキラと光る水が、畑を濡らしていく。

「魔法……」

 リサは目を輝かせた。

「きれい……」

 魔法を使っている。

 それが、とても羨ましかった。

 自分も使えるようになりたい。

 気がつけば、リサは木の陰から飛び出していた。

「アレン!」

「うわっ!」

 アレンがびっくりして振り返る。

「見てたの?」

「うん!」

「いつから?」

「ずっと!」

「……」

 アレンは困った顔をした。

 まさか誰かに見られているとは思っていなかったのだろう。

「お願い!」

 リサはアレンのところへ駆け寄った。

「私にも魔法教えて!」

「……なんで?」

「きれいだったから!」

 アレンはしばらく黙っていた。

 それから、小さくため息をついた。

「……わかった」

 こうして、リサはアレンから魔法を教えてもらうようになった。

     ◇

 それから、毎日のようにアレンの家へ行くようになった。

「アレン、行こう!」

「うん」

 二人で村の外へ行き、畑の世話をする。

 アレンが魔法を使う。

 リサも真似をしてみる。

 そんな毎日が、いつの間にかリサの日課になっていた。

 畑で育てているのは、芋だけだった。

 ある日、二人で芋を掘り出した。

「いっぱいある!」

「うん」

「食べていい?」

「いいよ」

 二人で焼いた芋を食べる。

「……おいしい!」

 リサは夢中になって食べた。

 今まで食べた芋の中で、一番おいしい。

 けれど、隣を見るとアレンは少し不満そうだった。

「どうしたの?」

「……もうちょっとおいしくできそうなんだけど」

「これでもおいしいよ?」

「うーん……」

 アレンは何か考えているようだった。

 すると突然、

「ちょっと待ってて」

 と言って、どこかへ走っていった。

「どこ行くの?」

 リサが待っていると、しばらくしてアレンが戻ってきた。

 手には何かがある。

「これ」

「なに?」

「バター」

「ばたー?」

 リサにはよく分からなかった。

 アレンは焼いた芋にバターを乗せる。

 じゅわっと溶けていく。

「食べてみて」

「うん!」

 一口食べる。

「……おいしい!」

 さっきの芋が、もっとおいしくなっている。

「すごい!」

 リサが喜ぶと、アレンも満足そうに頷いた。

「うん。これならいい」

 リサは思った。

 アレンと一緒に食べるご飯は、どうしてこんなにおいしいんだろう。

     ◇

 それからしばらくして。

 いつものように二人で畑へ向かっていた。

 その途中、アレンが突然立ち止まった。

「どうしたの?」

 アレンの視線の先を見ると、一匹のウサギがいた。

「あっ、ウサギ!」

 アレンはウサギをじっと見つめた。

「……肉、食べたいな」

「お肉?」

「うん」

 アレンはウサギを捕まえようとした。

 けれど――。

 ウサギは思っていたよりずっと速かった。

「うわっ!」

 何度も突っ込んでくるウサギを、アレンは必死に避ける。

 リサは怖くて、その場から動けなくなってしまった。

「リサ、下がって!」

 アレンが叫ぶ。

 でも、足が動かない。

 ウサギがこちらへ向かってくる。

「リサ、逃げろ!」

 怖い。

 身体が動かない。

 そのとき――。

「ストーンバレット!」

 アレンの魔法がウサギに当たった。

 ウサギが地面に倒れる。

「……」

 リサはその場に立ち尽くした。

「リサ……大丈夫か?」

 アレンが駆け寄ってくる。

「怖かった……」

 涙が出てきた。

 リサはアレンに抱きついた。

「怖くて漏らしちゃった」

「もう大丈夫だ。終わったから」

 アレンは優しく背中を撫でてくれた。

 しばらくして、リサは少し落ち着いた。

「今日はもう帰ろう」

「うん……」

 アレンは倒したウサギを持ち上げる。

「それから、お風呂から上がったら一緒に肉を食べよう」

「……お肉?」

「ああ。今日は肉料理だ」

 怖かった。

 でも、肉が食べられる。

 リサは少しだけ嬉しくなった。

     ◇

 それから、アレンと一緒に食事をすることが増えた。

 焼いた芋にバターを乗せたものや、焼いたウサギの肉に胡椒をかけたもの。

 それ以外にも、アレンはいろいろな料理を作ってくれた。

 リサは、アレンと一緒に食べるご飯が大好きになった。

 アレンと一緒に食事をするようになってから、リサは少しずつ気づいていった。

 家で食べるご飯は、あまりおいしくない。

 スープに入っている野菜もほんの少し。

 お腹いっぱいになることも少なかった。

 それでも、リサはずっと我慢していた。

 みんな同じなのだと思っていた。

 けれど、昼になればアレンと一緒においしいご飯が食べられる。

 それだけで、リサは我慢できた。

 家で食べるご飯とは、全然違った。

 やがてリサは、家でご飯を食べるのが嫌になっていった。

 でも、家の人に「いらない」と言うわけにはいかない。

 だから、こっそり自分の分を弟にあげることにした。

「はい」

「お姉ちゃん、くれるの?」

「うん」

 弟は嬉しそうに食べる。

 弟はいつもよりたくさん食べられる。

 リサも食べたくないご飯を食べなくてすむ。

 二人にとって、ちょうどよかった。

     ◇

 時間が経つにつれて、リサは少しずつ畑の仕事も任されるようになった。

「ここ、お水あげて」

「うん!」

「こっちは雑草を取って」

「わかった!」

 最初はアレンについていくだけだった。

 でも、少しずつ自分で畑の世話ができるようになっていった。

 ある日、アレンが言った。

「この畑、いつかリサにあげるよ」

「えっ?」

「僕がいなくなったら、リサが使えばいい」

「いなくなるの?」

 リサの胸が、きゅっとした。

「うん。僕、いつか村を出るつもりだから」

「……どこに行くの?」

「大きな町。冒険者になるんだ」

 アレンはいつものように話している。

 けれど、リサは笑えなかった。

「そっか……」

 アレンが村を出る。

 それは、まだ先のことだと思っていた。

 ずっと一緒に畑に行けると思っていた。

 魔法を教えてもらって、芋を食べて、お肉を食べて。

 そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。

 でも、アレンはいずれ村を出ていく。

 そのことを知ったリサは、寂しくなった。

 それでも次の日には、いつものようにアレンの家へ向かった。

「アレン、畑行こう!」

「うん」

 今はまだ、一緒にいられる。

 リサはそう思って、アレンの隣を歩いた。

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