カレンとダンジョン
ある日、アレンは一人でダンジョンへ向かおうとしていた。
「じゃあ、行ってくる」
「どこ行くの?」
カレンがアレンを見上げる。
「ダンジョン」
「わたしも行く!」
「……え?」
アレンは思わず振り返った。
「カレンはダメだよ。ダンジョンは危ないところだから」
「でも、お兄ちゃん行くんでしょ?」
「僕は大丈夫だから」
「ずるい!」
カレンは頬を膨らませる。
「わたしも行きたい!」
「ダメ」
「連れてって!」
「ダメだって」
カレンは少し考えると、にっこり笑った。
「連れてってくれなかったら、ダンジョンのこと言っちゃう」
「…………」
アレンの顔が固まった。
「誰に?」
「お父さんとお母さん」
「それは……」
アレンは困った。
ダンジョンのことを知られるわけにはいかない。
「……わかったよ」
「やった!」
カレンが嬉しそうに跳ねる。
その横で話を聞いていたリサは、特に興味を示さなかった。
「リサは一緒に来ないの?」
「私はいいや」
「えー」
「ダンジョンって危ないんでしょ? いってらっしゃい」
「うん。じゃあ行ってくる」
こうしてアレンは、カレンを連れてダンジョンへ向かうことになった。
◇
ダンジョンに入ると、アレンはカレンに言った。
「カレン、僕の後ろから離れないでね」
「うん!」
「絶対に前に出ちゃダメだからね」
「わかった!」
暗い場所ではアレンがライトを使い、足元を照らしながら進んでいく。
しばらくすると、魔物が姿を現した。
「いた!」
カレンが声を上げる。
しかし、アレンは慌てない。
「ストーンバレット!」
石の弾丸が飛び、魔物を一瞬で倒す。
「すごい!」
カレンの目が輝く。
「お兄ちゃん、すごい!」
「まだまだこれからだよ」
さらに魔物が現れる。
「ストーンバレット!」
また一瞬で倒れる。
「すごい!」
別の魔物が現れる。
「ストーンバレット!」
また倒れる。
「お兄ちゃん、すごーい!」
カレンはすっかりご機嫌だった。
アレンが魔物を倒すたびに、
「すごい!」
「お兄ちゃん強い!」
「また倒した!」
と嬉しそうに声を上げる。
アレンはそんなカレンを連れて、どんどん奥へ進んでいった。
やがて、見覚えのある場所にたどり着く。
「ここだ」
その先には、アイアンゴーレムが守る部屋があった。
「おっきい……」
カレンが小さな声でつぶやく。
「このゴーレムは強いから、近づいちゃダメだよ」
「お兄ちゃんでも?」
「うん。僕でも勝てない」
「えっ?」
カレンが驚く。
アレンはゴーレムの部屋を見ながら説明した。
このゴーレムは部屋の中に入らない限り動かない。
そして、部屋の外に出れば追ってこない。
「だったら、外から攻撃すればいいんじゃない?」
カレンが言う。
「そう思って、やってみたんだけど……」
アレンは部屋の外からストーンバレットを放った。
「ストーンバレット!」
石の弾丸がゴーレムへ飛んでいく。
しかし――。
ゴーレムまでの距離が遠すぎる。
石は途中で勢いを失い、ゴーレムに当たってもほとんどダメージを与えられなかった。
「うーん……」
アレンは何度か試してみる。
「ストーンバレット!」
やはり駄目だ。
「全然効かないね」
「うん」
カレンもゴーレムを見つめる。
「だから、あのゴーレムは僕でも勝てないんだ」
「お兄ちゃんでも勝てない敵……」
カレンは少し怖そうにゴーレムを見る。
「今日はここまでだな」
アレンはそう言って、カレンを連れてダンジョンを出ることにした。
◇
帰り道。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なに?」
「わたしも魔物と戦いたい」
「カレンが?」
「うん!」
カレンはやる気満々だった。
「でも、カレンが使える攻撃魔法って……」
アレンは考える。
カレンが使えるのは、今のところライトとライトシールドくらいだ。
ライトは明かりをつける魔法だし、ライトシールドは防御魔法。
「攻撃する魔法がないな……」
アレン自身も、普段はライトを明かりとして使っている。
光魔法で攻撃する方法を考えてみるが、なかなか思いつかない。
「うーん……」
アレンは考えながら歩く。
そして、ふと思いついた。
「そうだ」
「なに?」
「魔力を体の中に張り巡らせたら……?」
魔力を体内に巡らせる。
それによって身体能力を強化する。
「これなら魔法を使えなくても戦えるかもしれない」
「わたしもできる?」
「やってみよう」
アレンはカレンにやり方を教えた。
しばらく練習してから、二人はダンジョンの浅い場所まで戻る。
「じゃあ、やってみようか」
「うん!」
ちょうどそこへ、一匹のウサギ型の魔物が現れた。
「カレン、あれと戦ってみる?」
「うん!」
カレンが魔力を体に巡らせる。
ウサギがこちらに気づく。
次の瞬間――。
ピョンッ!
ウサギが勢いよく突っ込んできた。
「えいっ!」
カレンが拳を振るう。
ドンッ!
「キュッ!」
ウサギが吹っ飛んでいった。
「……え?」
アレンは固まった。
「やった!」
カレンは大喜びだ。
「お兄ちゃん! 倒した!」
「…………」
アレンは吹き飛んでいったウサギを見る。
そして、ふと思った。
もし兄弟喧嘩でカレンに殴られたら――。
「…………」
ゾッとした。
「……教えなきゃよかったかも」
「お兄ちゃん?」
「いや、なんでもない」
アレンは少し後悔した。
しかし、カレンはすっかり戦うことが楽しくなっている。
「次は?」
「もう帰ろうか。お風呂に入って帰ろう」
「やだ!」
「え?」
「もっと戦う!」
カレンはまだまだやる気だった。
「初めて魔物を倒したからって、そんなに嬉しいのか……」
アレンは困ったようにカレンを見る。
だが、カレンが魔物を倒せば魔石も手に入る。
「……まあ、魔石が増えるからいいか」
アレンはカレンの戦いを見守ることにした。
ただし、ひとつだけ約束させる。
「カレン」
「なに?」
「ダンジョンに来るときは、絶対に僕と一緒だからね」
「うん!」
「僕がいないときに、一人で来ちゃダメだよ」
「わかった!」
「約束だからね」
「うん、約束!」
カレンは元気よく頷いた。
その後もカレンは魔物を見つけるたびに嬉しそうに戦い、アレンは少し心配しながらも、その様子を見守るのだった。




