新しい魔法の開発
爆裂魔法を封印してから、アレンは新しい魔法の開発について考えていた。
五階層のアイアンゴーレム。
これまでの魔法では、あの魔物を倒すことができなかった。
「ストーンバレットが効かないなら、別の魔法を作る必要がある。でも……」
アレンは腕を組む。
「アイアンゴーレムを倒すためだけじゃなくて、その先の冒険でも役に立つ魔法を作っておきたいな」
十歳になれば村を出る。
冒険者になれば、ダンジョンだけでなく、森や山、知らない土地へ行くことになる。
そう考えると、今の魔法だけでは足りない。
「まずは、今使える魔法を整理してみるか」
アレンは紙を取り出した。
これまで覚えた魔法を、一つずつ思い出していく。
「光魔法は……ライト」
光を生み出して周囲を照らす魔法。
「火魔法は、着火、バーナー、火炎放射」
火を点けたり、細く強い炎を出したり、前方へ炎を放射したりする。
「水魔法は水やり」
植物へ水を与えるための魔法。
「風魔法は、そよ風」
弱い風を起こす魔法。
「土魔法は……穴掘り、隆起、ストーンバレット」
地面を掘る。
地面を盛り上げる。
そして、石を弾丸のように飛ばす。
さらに、複数の属性を組み合わせた魔法もある。
「火と水で、お湯」
火と風なら、
「ドライヤーとクーラー」
アレンは紙に書き出した魔法を眺めた。
「結構増えたな」
生活するだけなら十分便利だ。
しかし、冒険をすることを考えると、まだ足りない。
「攻撃、防御、回復、探索……」
必要なものを考えていく。
「まずは防御だな」
アイアンゴーレムの攻撃を受けたとき、こちらが攻撃するだけでは危険だ。
ゲームにあった防御魔法を思い出す。
「バリア」
魔力で壁を作り、攻撃を防ぐ魔法。
仕組みなら考えられる。
アレンは魔力を集めた。
身体の前方へ魔力を押し出し、それを固める。
すると、目の前に薄い板状の魔力が現れた。
「できた」
アレンは板を軽く叩く。
硬い。
これなら攻撃を防げそうだ。
しかし――。
「……これ、盾と変わらないな」
正面からの攻撃しか防げない。
それなら盾を持つのと大きな違いはない。
「もっと広げて……形を変える」
魔力の板を横へ広げる。
さらに曲げていく。
前方だけでなく左右も覆う。
そこからさらに魔力を上へ回す。
何度も形を崩しては作り直した。
最初は歪んだ。
途中で消えることもあった。
それでもアレンは試行錯誤を続ける。
「身体の周りを全部覆う……」
魔力を背後へ回し、頭上まで覆う。
やがて、アレンの周囲をすっぽりと包むドーム状の魔力が完成した。
「……よし」
透明な魔力のドームが、アレンを完全に覆っている。
「これなら盾とは違う」
全方向からの攻撃を防ぐことができる。
ただし、維持している間は魔力を消費する。
「長時間使い続けるのは難しそうだな」
それでも、いざというときの防御手段としては十分使える。
「バリアはこれでいい」
アレンは魔法を解除した。
*
次に考えたのは、姿を隠す魔法だった。
「ゲームにはステルスもあったな」
冒険では、魔物に気づかれずに移動できれば便利だ。
しかし、完全に姿を消す仕組みは分からない。
「でも、光の屈折なら……」
物体が見えるのは、光が物体に当たり、その光が目に届くからだ。
ならば、身体の周囲で光を曲げればいい。
アレンは光魔法を使う。
身体の周囲で光を屈折させる。
何度も調整する。
少しでもずれると身体の輪郭が見えてしまう。
魔力の使い方を変え、何度も試す。
そして――。
「……できた」
アレンの姿が、周囲の景色へ溶け込んだ。
しかし、これだけでは本当に透明になっているのか分からない。
「マイルームで確認してみるか」
*
アレンはマイルームへ入った。
そして、鏡の前に立つ。
「……」
鏡に映っているのは、部屋の景色だけだった。
アレン自身の姿は見えない。
「ちゃんと透明になってる」
アレンはその場で少し歩いてみる。
足音がする。
当然、物に触れれば反応する。
「姿を消せるだけか」
ゲームのステルスのように、存在そのものを消すことはできない。
音も消えない。
気配も消せない。
「これはステルスというより、透明化だな」
アレンは魔法を解除した。
完全なステルスではない。
それでも、姿を隠せるだけで役立つ場面はあるだろう。
*
さらに、ゲームにあった魔法を思い出す。
「テレポート……」
便利な魔法だ。
しかし、アレンはすぐに首を横に振った。
「どうやって空間を移動する?」
空間そのものを繋げるのか。
身体を別の場所へ転送するのか。
どちらにしても、魔法として再現するための具体的な仕組みが分からない。
「これは無理だな」
名前を知っているだけでは魔法にはできない。
仕組みを理解して、魔力で再現できなければならない。
テレポートは今のアレンには作れなかった。
「保留だな」
*
最後に、アレンは探索に役立つ魔法について考え始めた。
「冒険者になったら、薬草採取もあるよな」
森の中から目的の薬草を探す。
種類によっては、見つけるだけでかなり時間がかかる。
「探す魔法があれば便利なんだけど……」
そこで、アレンは以前から感じていたことを思い出した。
人間。
魔物。
植物。
それぞれから感じる魔力には違いがある。
「……もしかして、固有の魔力パターンがあるんじゃないか?」
アレンは植物へ魔力を集中させる。
魔力の量だけではない。
流れ方。
揺らぎ。
細かな特徴。
それらを一つずつ調べていく。
「同じ種類なら、似たような特徴がある」
別の植物も調べる。
やはり違いがある。
「だったら、このパターンを読み取って記録すれば……」
アレンは魔力を集中させた。
「解析」
魔力が対象を包み込む。
植物の魔力の流れが、今までよりはっきりと感じ取れた。
「……できた」
まだ、何でも分かるわけではない。
名前が分かるわけでもない。
しかし、対象の魔力パターンを読み取ることはできた。
「これを発展させれば、薬草を探す魔法が作れそうだ」
薬草だけではない。
魔物の種類を調べたり、周囲にいる生物を探したりすることにも使えるかもしれない。
「解析……これも覚えておこう」
アレンは魔法の名前を書き留めた。
*
その日の魔法開発を終え、アレンは紙を眺めた。
今日、新しく形にできた魔法。
バリア。
透明化。
解析。
どれも、これからの冒険で役に立ちそうだ。
バリアがあれば、アイアンゴーレムの攻撃を防げるかもしれない。
透明化は、魔物から姿を隠すのに使える。
解析は、薬草探しだけでなく、これから出会う様々なものを調べるのに役立つだろう。
しかし――。
「ヒールは……まだ作れてない」
アレンは紙の端に書いた「ヒール」という文字を見る。
仕組みは少し考えられた。
だが、まだ魔法として完成していない。
「冒険するなら、絶対に必要になるよな」
怪我をすることは避けられない。
仲間が怪我をすることだってある。
そんなとき、傷を治せる魔法があれば大きな助けになる。
アレンはしばらく「ヒール」の文字を眺めていた。
「……絶対に使えるようになりたい」
今日の魔法開発は終わった。
けれど、アレンにとって本当の課題は、まだ残っていた。




