アイアンゴーレム対策
アレンが七歳になってから、魔法の訓練も少しずつ変わっていた。
村の周辺にいる魔物なら、ストーンバレットで十分に倒せる。
これまでアレンは、ほとんどストーンバレットだけで戦ってきた。
しかし、ダンジョンの五階層にいるアイアンゴーレムには、そのストーンバレットが通じない。
その先にある六階層。
そして、そのさらに先へ進むためには、いつか五階層のアイアンゴーレムを突破しなければならない。
「……そろそろ別の魔法を試してみるか」
アレンがそう呟くと、隣にいたリサが顔を上げた。
「別の魔法?」
「うん。アイアンゴーレムに使えそうな魔法」
「……アイアンゴーレム?」
その名前を聞いた瞬間、リサの表情が少し曇った。
「そう。五階層にいるやつ」
「だったら、四階層まででいいじゃん」
「僕は六階層より先にも行ってみたいんだよ」
「私は行きたくない」
「リサは行かないだろ」
「うん!」
リサは迷いなく答えた。
アレンは思わず苦笑する。
「じゃあ、ちょっと離れてて」
「何するの?」
「昔から考えてた魔法を試してみる」
アレンは村から十分に離れた場所にある大きな岩へ向き直った。
爆裂魔法。
その発想自体は、かなり前からあった。
しかし、これまで実際に使うことはなかった。
爆裂魔法は強力な範囲攻撃だ。
もし魔物と戦っている最中に使えば、狙った相手だけでなく周囲まで巻き込んでしまうかもしれない。
村の周辺にいる魔物なら、ストーンバレットで十分だった。
わざわざ危険な魔法を使う理由がなかったのだ。
だが、アイアンゴーレムは違う。
「今までストーンバレットで倒せない相手なんていなかったからな」
アレンは岩を見ながら呟く。
「一度、威力を確認しておこう」
「アレン、何か怖いこと言ってない?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんって何!?」
リサが慌てて距離を取る。
アレンは苦笑しながら魔力を集中させた。
周囲の空気が変わる。
大きな魔力が一点へ集まっていく。
「……え?」
リサが足を止めた。
アレンの前に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「アレン……?」
「いくよ」
次の瞬間――。
轟音が響き渡った。
ドォォォンッ!!
巨大な爆発が起こり、大地が揺れる。
目の前にあった大岩は、一瞬で砕け散った。
土煙が辺りを覆う。
「…………」
アレンは呆然と岩があった場所を見つめた。
「……すごいな」
想像していた以上の威力だった。
「これならアイアンゴーレムにも――」
振り返ったアレンは、そこで言葉を止めた。
「……リサ?」
リサがその場に座り込んでいた。
「…………」
「大丈夫?」
「…………」
返事がない。
よく見ると、リサは小さく震えている。
リサの足元の地面が濡れている
「リサ?」
「……怖い」
「そんなに?」
「そんなに!」
リサは涙目でアレンを見る。
「いきなり何あれ!?」
「爆裂魔法」
「名前は分かってるよ!」
「ご、ごめん」
アレンは困ったように頭をかいた。
「立てる?」
「……無理」
「腰が抜けたの?」
「うん……」
リサは立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
アレンはもう一度、爆発の跡を見た。
大岩は跡形もなく砕けている。
これをダンジョンで使ったらどうなるだろう。
アイアンゴーレムを倒せるかもしれない。
しかし、周囲の壁や床まで破壊する可能性がある。
爆発音で別の魔物を呼び寄せるかもしれない。
「……やめよう」
「え?」
「この魔法、アイアンゴーレムには使わない」
「本当?」
「うん。危険すぎる」
アレンは決めた。
「爆裂魔法は封印する」
「よかった……」
リサがほっとしたように息を吐く。
「もっと安全な方法を探すよ」
「そうして……」
しばらくしても、リサはまだ立ち上がれなかった。
アレンは仕方なくしゃがみ込む。
「ほら、乗って」
「……おんぶ?」
「歩けないんだから仕方ないだろ」
「……ごめん」
「気にしなくていいよ」
リサがアレンの背中に乗る。
アレンはそのまま立ち上がった。
「よし」
「重くない?」
「全然」
「本当?」
「本当」
アレンはリサを背負ったまま歩き出した。
魔法の訓練が終わった後は、いつも二人でお風呂に入ってから家へ帰る。
今日もそれは変わらない。
「リサ、今日はもう魔法の練習は終わりだから」
「……うん」
「お風呂に入ったら帰ろう」
「うん」
「明日からは、もっと安全な魔法を考えないとな」
「……アレン」
「何?」
「もう爆発する魔法はやめてね」
「分かったよ」
アレンは苦笑した。
こうして、アイアンゴーレム攻略のために試した爆裂魔法は、たった一度の実験で封印されることになった。
五階層の先へ進むための方法は、また別に考えなければならない。
そして二人は、いつものように風呂へ向かった。




