無限増殖
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ダンジョンから戻った翌日。
アレンはマイルームの中で、棚に並んだ品々を眺めていた。
ダンジョンで大量の魔石を手に入れたことで、以前よりもマイルームの品を使うことに余裕ができている。
そもそも、補充に必要なものについては、すでに解決の目処がついていた。
ウサギを定期的に狩るようになり、魔石を手に入れられるようになったからだ。
「これなら、今まで我慢していたものも少しずつ使っていけるな」
アレンは棚から石鹸を一つ取り出した。
白く滑らかな石鹸。
村では石鹸そのものが普及していないため、今まで人前で使うことは避けていた。
マイルームの中では何度も使っている。
泡立ちもよく、洗い上がりもさっぱりする。
「これ、町で売ったらどうなるんだろう?」
十歳になれば村を出る。
その後は大きな町で生活することになる。
冒険者として活動するなら、お金はいくらあっても困らない。
そしてマイルームには、地球にあった品がたくさんある。
「せっかくだから、町で売れそうなものを今のうちに増やしておこう」
アレンはそう考えた。
*
数日後。
いつものように行商人が村を訪れた。
アレンはいつもの品を売り終えたところで、少し迷ってから声をかけた。
「ねえ、これも見てもらっていい?」
「ん? 何だい?」
アレンが差し出したのは、一つの石鹸だった。
行商人は石鹸を受け取ると、珍しそうに眺める。
「石鹸……?」
「うん。自分で作ってみたんだ」
もちろん、本当はマイルームから持ち出したものだ。
だが、それを説明するわけにはいかない。
アレンは自分で作ったということにした。
行商人は石鹸を裏返したり、匂いを嗅いだりしている。
「ほう……」
「どう?」
「これは……かなり良いな」
「そんなに?」
「ああ。少なくとも、私がこれまで見てきた石鹸とは品質が違う」
アレンは少し驚いた。
「売れるかな?」
「売れるどころじゃない」
行商人は真剣な顔になった。
「これは庶民向けの商品じゃない。貴族に見せたほうがいい」
「貴族?」
「ああ。これほど品質の良い石鹸なら、高い値段でも欲しがる貴族はいるだろう」
アレンは手元の石鹸を見つめた。
村では石鹸そのものが普及していない。
だから、これがどれほど価値のあるものなのか、今まで考えたこともなかった。
「……そんなに高く売れるんだ」
「ただし、量には気をつけたほうがいい」
「どうして?」
「こんな品質のものを大量に持っていたら、どこから仕入れたのかと聞かれるだろう?」
「……なるほど」
アレンは納得した。
自分の秘密を守るためにも、それは重要なことだ。
町に出てから少しずつ売る。
一度に大量に売らなければ、余計な疑いを持たれる可能性も低くなる。
「ありがとう。参考になったよ」
行商人と別れたアレンは、すぐにマイルームへ戻った。
*
マイルームの棚の前に立つ。
「石鹸は貴族向け……か」
アレンは腕を組んだ。
そして、ふと別のものを思い出す。
「そういえば……シャンプーとリンスもあるよな」
アレンは棚からシャンプーとリンスを取り出した。
村ではもちろん使っている。
髪を洗ったときの感覚は、普通の石鹸とはまったく違う。
「これも売れるかもしれない」
シャンプーやリンスなら、石鹸以上に珍しがられる可能性がある。
しかも、石鹸が貴族向けになるほどの品質なら、こちらも同じように高い価値を持つかもしれない。
「十歳になったら町に行くんだ」
それまでまだ時間はある。
だったら、今のうちに少しずつ準備しておけばいい。
「よし」
アレンは石鹸を一つ持ち出す。
続けて、シャンプーとリンスも持ち出した。
補充の仕組みは、もう分かっている。
持ち出した品は、決められた時間になればマイルームに補充される。
そして、持ち出した品をマイルームへ戻せば、備え付けの数量を超えて手元に残すこともできる。
「これなら、少しずつ在庫を増やせる」
無限に増やせることは、すでに分かっている。
だからこそ、何を増やすのかが重要だった。
村で目立つものを大量に持ち出すつもりはない。
今は、十歳になって町へ出たときに売るものを準備しておく。
「石鹸、シャンプー、リンス……」
アレンは三つを見比べた。
「これなら、冒険者になった後のお金の足しになるかもしれないな」
そうしてアレンは、三つの商品の在庫を少しずつ増やしていくことにした。
村を出る日まで、まだ四年ある。
それまでに、将来必要になるものを少しずつ準備しておけばいい。
アレンはそう考えながら、棚に並んだ石鹸を眺めた。
十歳になって町へ出たとき、これらがどれほどの価値を持つのか。
今のアレンには、まだ分からなかった。




