情報収集
六歳になったアレンには、最近ひとつの悩みがあった。
――村の外へ行きたい。
畑を作り、行商人と関わるようになってから、アレンは外の世界について知る機会が増えた。
村の外には町がある。
町には冒険者がいる。
そして、アレンの知らない魔法や魔物も存在する。
知れば知るほど、実際に自分の目で見てみたくなっていた。
「今日も行商人さんに聞いてみよう」
そう呟き、アレンは村にやってきた行商人のもとへ向かった。
*
「こんにちは」
「おや、アレン坊やか。今日も来たのかい?」
「はい。ちょっと聞きたいことがあって」
「なんだ?」
「町のことを教えてください」
行商人は笑った。
「町の話が好きだな、お前さんは」
「だって、村の外のことは全然知らないから」
「それもそうだな」
行商人は荷物を整理しながら話してくれた。
「大きな町には商人も職人もいる。宿屋や食堂もあるし、冒険者もたくさんいるぞ」
「冒険者ギルドもありますか?」
「ああ。もちろんある」
「冒険者って、何歳からなれるんですか?」
アレンは何気なく尋ねた。
「冒険者ギルドへの登録なら、十歳からだな」
「……十歳?」
「ああ」
アレンは少し黙った。
「十歳になるまで登録できないんですか?」
「そういう決まりだ」
「じゃあ……今は?」
「今は無理だな」
「……そうですか」
アレンは肩を落とした。
十歳。
まだ四年もある。
今すぐにでも村を出て、町へ行ってみたい。
魔法を使う人にも会ってみたい。
自分の知らない魔法を見てみたい。
けれど、冒険者として活動するならギルドへの登録が必要になる。
「十歳になったら、冒険者ギルドに登録できるんですね?」
「ああ。町に行けば登録できるぞ」
「……分かりました」
アレンはしばらく考え込んだ。
「行商人さん」
「なんだ?」
「僕、今すぐ町に行きたいんです」
「ほう?」
「でも、冒険者ギルドには十歳まで登録できないんですよね?」
「そうだな」
「じゃあ……十歳になるまで待たないといけないのかな」
行商人は苦笑した。
「まあ、親御さんに相談してみることだな」
「はい」
*
その日の夕方。
家に戻ったアレンは、両親が夕食の準備をしているところへ駆け寄った。
「父さん、母さん!」
「どうしたの?」
「僕、村の外に行きたい!」
両親は一瞬顔を見合わせた。
「急にどうしたんだ?」
「行商人さんから町の話を聞いたんだ」
アレンは今日聞いた話を説明した。
町には冒険者がいること。
冒険者ギルドがあること。
そして――。
「冒険者ギルドには十歳から登録できるんだって!」
「そうなのね」
「だから僕、町に行きたい!」
アレンは真剣な顔で訴えた。
「今すぐ行きたい!」
「アレン……」
母親が困ったように笑う。
「気持ちは分かるけど、今はまだ駄目よ」
「どうして?」
「あなたはまだ六歳でしょう?」
「でも、僕だってもう六歳だよ」
「六歳はまだまだ子供よ」
アレンは唇を尖らせた。
「でも、町に行ってみたい」
「外の世界には、この村とは違う危険もあるの」
「……」
「それに、冒険者ギルドに登録できるのは十歳からなんでしょう?」
「うん」
「だったら、十歳になるまで待ちなさい」
アレンは納得できない顔をした。
「今すぐ町に行っても、冒険者になれないから……?」
「それも理由の一つね」
父親が頷く。
「お前が冒険者になりたいというのなら、なおさら十歳まで待ちなさい」
「……あと四年もあるよ」
「四年しかない、とも言えるぞ」
父親は笑った。
「その間に、村でできることをしっかり覚えればいい」
「……」
「十歳になったら、そのときは村の外へ出ることを考えよう」
アレンはしばらく黙っていた。
今すぐにでも行きたい。
けれど、両親が自分を心配していることも分かる。
「……約束してくれる?」
「何を?」
「十歳になったら、村を出るのを許してくれる?」
父親は少し考えてから頷いた。
「ああ。十歳になって、冒険者ギルドに登録できる年齢になったらな」
「母さんも?」
「もちろんよ」
母親も微笑んだ。
「それまでは、ちゃんと村で過ごしなさい」
「……分かった」
アレンは渋々頷いた。
*
その夜。
布団に入ったアレンは、天井を見上げていた。
「あと四年……」
長い。
今すぐにでも村を出たいのに、四年も待たなければならない。
けれど――。
「十歳になれば、出られる」
それだけは分かった。
ならば、それまで待つしかない。
アレンは目を閉じた。
「……四年か」
そして、明日から何をするかを考え始める。
畑のこと。
お金のこと。
行商人から聞く町や外の世界の話。
そして、誰にも知られていない自分の魔法。
十歳になったその日に、すぐ村を出られるように。
アレンにとっての四年間は、こうして始まった。




