マイルームの仕組み
アレンが六歳になった。
朝、目を覚ましたアレンは、しばらく天井を眺めていた。
「もう六歳か……」
この世界に生まれて六年。
前世の記憶があるせいか、年齢の感覚は少し不思議だった。
それでも、身体は確実に成長している。
以前は大変だった畑仕事も、今ではかなり楽になった。
そして、この一年で成長したのはアレンだけではない。
リサも、カレンも大きく成長した。
*
特に魔法の成長は大きかった。
リサは水魔法。
カレンは光魔法。
それぞれ最初に使えるようになった魔法を、今ではかなり上手に扱えるようになっている。
「アレン、見てて」
リサが手を前に出す。
手のひらに水が集まり、細い水流となって流れ落ちる。
「上手くなったな」
「前よりいっぱい出せるよ」
最初は小さな水滴を出すだけでも精一杯だった。
それが今では、バケツ一杯程度の水を作り出せるようになっている。
「じゃあ、次はもう少し細くしてみよう」
「うん」
リサが集中する。
水流が細くなり、狙った場所へ正確に落ちていく。
「すごい!」
リサ自身も嬉しそうだ。
そしてカレン。
「カレンもやる!」
「じゃあ、ライトを出してみようか」
「うん!」
カレンが手を掲げる。
「ライト!」
手のひらに光が生まれる。
以前は白熱電球ほどの明るさだった光が、今では部屋全体を照らせるほどになっている。
「明るくなったな」
「もっとできるよ!」
カレンがさらに魔力を込める。
光がさらに強くなる。
「おお」
「えへへ」
カレンも嬉しそうだ。
二人とも、この一年で確実に成長している。
しかし――。
アレンには、一つ気になっていることがあった。
「……でも、他の魔法は全然使えないんだよな」
リサにも、カレンにも、別の魔法を試させている。
アレンが使ってみせたり、イメージを変えさせたり、魔力を操作する練習をしたり。
それでも、最初に使えるようになった魔法以外には、一向に変化がない。
「リサ、前に試した火魔法はどう?」
「うーん……全然できない」
「カレンは水を試してみようか」
「うん!」
カレンが手を伸ばす。
しかし――。
「……出ない」
当然のように何も起こらない。
「もう一回やってみる?」
「うん!」
何度か試す。
それでも水は出ない。
「やっぱりダメか」
アレンは首を傾げた。
魔力操作そのものは上達している。
魔力量も増えている。
最初に使えた魔法なら、二人ともかなり成長している。
なのに、別の魔法になるとまったく使える気配がない。
「なんでだろうな……」
アレンは考え込む。
自分なら、魔力さえあれば別の属性にも切り替えられる。
だから、二人もそのうち使えるようになると思っていた。
ところが一年以上経っても変化がない。
「まあ、まだ練習が足りないのかもしれないな」
アレンはそう結論づけた。
今のところ、それ以上の答えは出ない。
*
畑も、この一年で大きく変わった。
じゃがいもは順調に増えている。
アレンとリサが中心になって世話をし、三歳になったカレンも簡単な手伝いをするようになった。
「カレン、そこは踏まないでな」
「分かった!」
「リサはこっちをお願い」
「うん」
三人で畑の世話をする。
今では、これもすっかり日常になっていた。
そして、収穫したじゃがいもはすでにかなりの量になっている。
マイルームの一角には、収穫したじゃがいもが山のように積まれていた。
「これだけあれば、しばらくは困らないな」
アレンは山積みになったじゃがいもを眺める。
そして、もう一つ考えていたことがあった。
――マイルームだ。
*
マイルームには、前世の生活を思い出させる物がたくさんある。
調味料。
石鹸。
シャンプー。
その他にも、現代の生活用品がいくつも揃っている。
しかし、アレンは今までそれらを積極的には使ってこなかった。
使えば補充される。
その際には、お金が必要になる。
これは、女神からマイルームのスキルを与えられたときに説明されていた。
だから、補充の仕組み自体を知らなかったわけではない。
問題は――。
「お金をどうやって稼ぐか、だったんだよな」
この世界に生まれたばかりのアレンには、仕事もなければ売れるものもなかった。
マイルームの物を使うたびにお金が必要になるのなら、何も考えずに使い続けるわけにはいかない。
だから今まで、調味料や石鹸なども必要最低限しか使ってこなかった。
しかし、この一年で状況が変わった。
秘密の畑で育てたじゃがいもが、十分な量になった。
そして先日、行商人に売ることでお金を手に入れられることも分かった。
「これなら、少しくらい使っても大丈夫そうだ」
アレンはそう考え、改めてマイルームの仕組みを確認することにした。
*
まず確認したのは、補充される数量だった。
収穫したじゃがいもはすでに大量に保管している。
だから、じゃがいもを使って試す必要はない。
「他の物でも同じなのかな?」
アレンが目を向けたのは、石鹸だった。
石鹸なら消耗品だ。
これから使う機会も多い。
「ちょっと試してみるか」
備え付けられていた石鹸を一つ、マイルームの外へ持ち出す。
そして翌日。
午前零時を過ぎてからマイルームへ戻る。
確認すると――。
「戻ってる」
持ち出した分の石鹸が補充されている。
「やっぱり、備え付けの数量までは戻るんだな」
ここまでは以前から分かっていたことだ。
しかし、アレンはさらに試してみることにした。
外へ持ち出していた石鹸を、マイルームへ戻す。
すると――。
「……あれ?」
備え付けられていた石鹸に加えて、持ち帰った石鹸も残っている。
「増えた?」
最初から置かれていた数量を超えている。
どうやら、補充されるのは備え付け数量までだが、マイルームの中に保管できる数量には制限がないらしい。
「なるほど……」
アレンは少し考える。
マイルームの外へ持ち出す。
午前零時になる。
備え付け数量まで補充される。
その後、持ち出していた物をマイルームへ戻す。
すると、最初の数量を超えて保管できる。
「これは便利だな」
もちろん、補充するたびにお金は必要になる。
だから無限に増やせるわけではない。
それでも、石鹸やシャンプー、調味料のような比較的安い消耗品なら、少しずつ備蓄しておける。
「これなら、今までより気にせず使えるな」
アレンは満足そうに笑った。
*
そして、もう一つ確認しておきたいことがあった。
以前、ウサギから手に入れた魔石をマイルームに保管していた。
ところが、いつの間にか魔石だけが消えていた。
その一方で、マイルームの物は補充されている。
「魔石も、お金と同じように扱われたってことか」
魔石には、この世界のお金として扱えるだけの価値があるらしい。
ならば、魔石を売ることでもお金を手に入れられる可能性がある。
しかし今のアレンには、まずじゃがいもという安定した収入源がある。
「とりあえず、これで十分だな」
アレンはそう考えた。
*
そして、行商人が村に来た日。
アレンは収穫したじゃがいもを持って、行商人のところへ向かった。
「これを売りたいんです」
「おや、じゃがいもか」
行商人はじゃがいもを確認する。
この世界でも、じゃがいも自体は珍しいものではない。
それでもアレンが育てたじゃがいもは味が良く、行商人も買い取ってくれた。
「ありがとうございます」
アレンは初めて、自分で育てた作物を売ってお金を手に入れた。
手渡された硬貨を眺める。
この世界のお金には五種類ある。
鉄貨――一円。
銅貨――百円。
銀貨――千円。
金貨――一万円。
大金貨――十万円。
ただし、村で金貨を見ることはない。
大金貨など、さらに縁のない存在だ。
「村だと鉄貨、銅貨、銀貨が普通なんだな」
アレンは手に入れたお金を大切にしまった。
*
その日の夜。
アレンはマイルームへ入った。
そして、今まで節約していた調味料を少し使ってみる。
塩。
胡椒。
バター。
さらに石鹸とシャンプーも、これからは必要以上に節約することはなくなった。
「やっぱり、こういうのがあると生活が楽になる」
前世の生活用品を使えるだけで、日々の快適さはかなり違う。
もちろん、使った分だけ補充のためのお金が必要になる。
だからこそ、これからもじゃがいもを売ってお金を稼ぐ必要がある。
「もっと畑を大きくするか」
アレンはそう呟いた。
六歳になったアレンの生活は、この一年で大きく変わった。
魔法も。
畑も。
そして、マイルームも。
まだ分からないことは多い。
それでも、少しずつこの世界で生きていくための基盤が整ってきていた。




