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三人の秘密


 朝。

 アレンはリサと一緒に、村の外へ向かおうとしていた。

 村では朝と夕方の一日二食が普通だ。

 しかし、前世で一日三食の生活をしていたアレンにとっては、昼食を抜くという習慣にはどうしても馴染めなかった。

 そのため、アレンは転生してからも昼になると軽く何かを食べていた。

 そして、いつも一緒にいるリサも、いつの間にかアレンと一緒に昼食を取るようになっていた。

「じゃあ、行こうか」

「うん!」

 二人が家を出ようとしたところで――。

「アレン?」

 後ろから声がした。

 振り返ると、二歳になったカレンが立っている。

「カレン?」

 カレンはアレンのところへ駆け寄ってきた。

「どこいくの?」

「ちょっと出かけるだけだよ」

「カレンも!」

「いや、今日はお父さんとお母さんと一緒にいてくれる?」

「やだ」

 即答だった。

「……」

 アレンは困った顔をする。

「カレン、お母さんのところに行こうな」

 アレンはカレンの手を取って、母親のところへ連れていく。

「ほら、お母さんと一緒に遊んでて」

「やだ!」

 カレンはアレンの手を離さない。

「カレン、お兄ちゃんはちょっと用事があるんだ」

「いっしょ!」

「今日は一緒に行けないんだよ」

「いっしょ!」

 どうやら聞いてくれる気配がない。

「母さん、ちょっとカレンを見ててもらっていい?」

「ええ、もちろん」

 アレンはカレンを母親へ渡そうとする。

 しかし――。

「いや!」

 カレンがアレンの服を掴んだ。

 母親が抱き上げようとしても、カレンはアレンへ手を伸ばす。

「アレン!」

「……」

 アレンは困り果てた。

 最近のカレンは、以前にも増してアレンに懐いている。

「カレン、今日はお父さんとお母さんと一緒にいてくれないか?」

「やだ」

「……」

 やっぱりダメだった。

 できればカレンには秘密の畑を知られたくない。

 だが、このままでは出発できない。

「……仕方ないか」

 アレンは諦めた。

「カレン、一緒に来るか?」

「うん!」

 さっきまで泣きそうだった顔が、一瞬で明るくなる。

「ただし、ちゃんとアレンの言うことを聞くんだぞ」

「わかった!」

「本当に分かってるのかな……」

 アレンは苦笑した。

 そしてリサを見る。

「ごめん。今日は三人で行くことになりそうだ」

「いいよ」

 リサも笑って頷いた。

     *

 村の外へ出て、しばらく歩く。

 カレンはアレンの手を握ったまま、嬉しそうについてくる。

 やがて三人は、誰にも見つからない場所にある秘密の畑へ到着した。

「ここが……」

 カレンが目を丸くする。

「おいも!」

「そう。じゃがいもだ」

 畑一面に広がるじゃがいも。

 一年以上世話を続けてきたおかげで、最初の頃とは比べものにならないほど増えている。

「カレン、ここは秘密だからな」

「ひみつ?」

「そう。秘密」

「ひみつ!」

 カレンは嬉しそうに笑った。

 こうして、今までアレンとリサだけが知っていた秘密の畑は、三人の秘密になった。

     *

 三人で畑の世話を始める。

 もちろん二歳のカレンに本格的な作業はできない。

 アレンが安全な場所を選んで、小さな道具を渡す。

「カレンはここをお願い」

「うん!」

 カレンは土をちょこちょこと掘る。

「おいもある?」

「まだ土の中だよ」

「どこ?」

「もう少し大きくなったらな」

「まだ?」

「まだ」

 カレンは少し不満そうな顔をした。

 リサはその様子を見て笑っている。

「アレン、こっちは?」

「そこは大丈夫。次はこっちに水をやろう」

「うん」

 二人で一年以上続けてきた作業は、もう慣れたものだった。

 カレンが加わったことで少し時間はかかったが、それでも無事に作業を終える。

「よし。今日はこれくらいでいいかな」

 アレンは畑を見渡した。

「じゃがいも、いっぱいになったね」

 リサが言う。

「ああ。そろそろまた収穫できそうだ」

「おいもいっぱい!」

 カレンも喜んでいる。

     *

 昼過ぎ。

 アレンは昼食の準備を始めた。

 村では昼食を食べないのが普通だが、アレンにとってはもうすっかり習慣になっている。

 そしてリサも、アレンと一緒に行動するようになってから昼食を取るのが当たり前になっていた。

「今日は特別だぞ」

 アレンが取り出したのは、先日の狩りで手に入れたウサギ肉。

「お肉!」

 カレンの目が輝く。

「この前のウサギだな」

「そう」

 アレンは肉を焼く。

 さらにマイルームから胡椒とバターを持ってくる。

「やっぱり肉にはこれだな」

 胡椒を振り、バターを加える。

 じゃがいもにもバターを乗せる。

「できたぞ」

「いただきます!」

 三人で食べ始める。

「おいしい!」

 カレンは夢中になって食べている。

 リサも嬉しそうだ。

「やっぱり美味しいな」

 アレンも満足する。

 しかし――。

「……多いな」

 ウサギ一匹分の肉は、子供三人では簡単には食べ切れない。

「まだいっぱいあるね」

「無理して食べなくていいよ」

 アレンは残った肉をマイルームへ保管することにした。

「また今度食べよう」

 時間が止まっているマイルームなら、腐る心配もない。

     *

 肉を片付けたあと、アレンはふとマイルームの中を見渡した。

 そこで、以前のことを思い出す。

 冷蔵庫からじゃがいもを取り出したあと、いつの間にか補充されていたこと。

 そして、先日ウサギから取り出した魔石をマイルームに保管していたこと。

「……そういえば」

 魔石を探す。

 しかし、見つからない。

「消えてる……?」

 アレンは冷蔵庫を見る。

 以前取り出した分のじゃがいもは、きちんと補充されている。

「まさか……」

 アレンは考える。

 マイルームの物を使えば、その分が現地通貨を使って補充される。

 そして今回は――。

 魔石を保管していた。

 なのに魔石だけが消えている。

「……魔石って、現地通貨の代わりになるのか?」

 まだ確信はない。

 だが、魔石がマイルーム内で何らかの価値として扱われている可能性は高い。

「これは覚えておこう」

 アレンはそう呟いた。

     *

 昼食も終わり、そろそろ村へ戻る時間になった。

「カレン、帰るぞ」

「うん!」

 アレンがカレンの手を取る。

 三人で畑を後にする。

 村へ戻ると、アレンはカレンを両親のところへ連れていった。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 母親がカレンを迎える。

「今日は一緒に畑へ行ってきたんだ」

 もちろん、秘密の畑について詳しいことは話さない。

「そう。楽しかった?」

 母親がカレンに尋ねる。

「うん!」

「よかったわね」

 母親がカレンを抱き上げる。

 ところが――。

「アレン!」

 カレンがアレンへ手を伸ばした。

「どうした?」

「いっしょ!」

「今日はもう帰ってきたから、お母さんと遊んでな」

「やだ!」

 カレンはアレンから離れようとしない。

 アレンが一歩離れると、カレンも追いかけようとする。

「……あれ?」

 朝よりひどくなっている。

 どうやら今日一日、アレンと一緒に畑で過ごしたことがよほど楽しかったらしい。

 それに加えて、昼に食べた肉とじゃがいもの味も気に入ったようだ。

「もしかして……今日一日でさらに懐いた?」

 リサが横で笑う。

「そうみたい」

 アレンも苦笑する。

 カレンは相変わらず、アレンの服を掴んでいる。

「カレン、また明日な」

「……うん」

 それでも手は離さない。

「……まあ、明日もこうなるんだろうな」

 アレンはそう呟きながら、カレンの頭を撫でた。

 二人だけの秘密だった畑。

 それは今日から、三人の秘密になった。

 そしてアレンは、美味しいものを食べさせて一緒に楽しい時間を過ごすと、カレンがますます自分から離れなくなるということを知ったのだった。

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