学校が消える!?、そして、黒VS空白!?1
朝は、来なかった。 正確には、太陽は昇っている。
空も明るい。 なのに―― 世界は、静かすぎた。
「……何これ」
白峰ルナは、校門の前で立ち止まった。
人が、いない。いつもなら、生徒で溢れている時間。
騒がしくて、うるさくて、それが当たり前のはずなのに。
今日は――誰もいない。風の音だけが、やけに響く。
「おかしい……」
胸の奥がざわつく。嫌な予感が、消えない。
校門をくぐる。その瞬間、ピシッ、と音がした。
「……?」
足元を見る。地面に、細い“ひび”のようなものが走っていた。
いや、違う。ひびではない。“削れている”。世界が、少しずつ。
「……嘘でしょ」
呟いた時だった。突然だった。
「動くな」
背後から、低い声。振り向くと、昨日の男が立っていた。
管理局の人間。
「白峰ルナ。お前は保護対象に指定された」
「……は?」
意味がわからない。
「何言って――」
「状況が変わった」
男の表情は、昨日よりも明らかに硬い
「すでに市街地で“空白化”が始まっている」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「……空白、化?」
聞き返す。その意味がわからないからだ。
男は短く答えた。
「感情を失い、存在が崩壊する現象だ」
その言葉と同時に、昨日の光景がフラッシュバックする。
崩れた人間。砂のように消えた存在。
「……嘘……」
「現実だ」
冷たい断言。
「すでに数十人規模で発生している」
息が止まる。そんなの―もう、始まってるじゃないか。
「……湊は?」
すぐに出た言葉。
男は一瞬だけ沈黙する。
そして。
「隔離した」
「……っ!」
ルナの表情が変わる。
「どこに!?」
「答える義務はない」
冷たい。完全に、切り離された言い方。
「彼は“危険物”だ」
その一言で、空気が凍った。驚く言葉だった。
「違う!!」
即座に叫ぶ。それは、自分の、友達、親友だからだ。
「湊はそんなのじゃない!」
だが男は表情を変えない。
「すでに確認されている」
淡々と続ける。
「彼の能力は“空白”と同質の現象を引き起こす」
その言葉に、ルナは言葉を失う。
「使えば使うほど、周囲の“何か”を削る」
思い出す。昨夜の戦い。湊の体。黒に侵食されていた腕。
そして―自分を忘れた目。
「……だから何」
震える声。
それでも、言う。
「だからって……捨てるの?」
男は、わずかに目を細めた。
「選別だ」その一言に、温度はなかった。
「世界を守るために、必要な犠牲だ」
ルナの中で、何かが癇に障った。
「ふざけないで!!」
怒りが、溢れる。それは、自分には、気持ちが良くなかったようだ。
「そんなの、ただの言い訳じゃん!
感情が揺れ強く。激しく。その瞬間、足元から、光が漏れた。
「……っ!」
また、暴走。だが、止めない。止められない。
「私は……そんなの認めない!」
光が膨れ上がる。周囲の空気が震える。
「全部守るって言ったらダメなの!?」
その叫びは、ほとんど祈りだった。だが。
「理想論だ」
男の一言で、切り捨てられる。次の瞬間。
男の周囲に炎が生まれる。昨日よりも、遥かに強い。
「感情を制御できない者は、ここでは危険だ」
冷たい判断を、下した。それが正しいと、思っていた。
「……抑えろ」
命令。だが。ルナは、睨み返した。
「嫌だ」
一歩も引かない。その時だった。
ゴォン、と地面が揺れた。
「……何?」
全員の視線が、同時に校舎へ向く。
その瞬間。校舎の一部が―“消えた”。
崩れるのではない。壊れるのでもない。
ただ。最初から存在しなかったかのように。
空白が、侵食している。
「……っ、こんな速度で……!」
男の顔色が初めて変わる。想定より、早い。圧倒的に。
「全員、撤退――」
言い終わる前に。影が、動いた。
消えた校舎の奥から。ゆっくりと、“何か”が現れる。
人の形。だが、顔はない。空白。しかも―一体ではない。
二体、三体増えていく。それは、凄い速さで。
「……嘘でしょ」
ルナの声が震える。終わってる。こんなの、勝てるわけがない。
その時。男が、静かに呟いた。
「……来るぞ」
空白たちが、一斉に動いた。逃げ場はない。戦うしかない。
だが、その戦力は、決定的に。その瞬間、遠くから、何かが“割れる音”がした。
ガキン、と、硬いものが砕ける音。そして。空気が、変わる。冷たく。重く。
そして―どこか、懐かしい感じがした。
「……え」
ルナが顔を上げる。その先に。黒が、立っていた。
神代湊だった。だが。その姿は、もう“普通”ではなかった。
右腕が、完全に黒に侵食されている。瞳の奥も、暗い。何も映していない。
それでも、ゆっくりと、一歩前に出る。空白たちの前へ、そして。
小さく、口を開いた。そうそこには、空白しかなさそうだった。
「……排除する」
その声に、感情はなかった。ただの機能のように。それでも。
その一歩は―確実に、戦場を変えた。




