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魔法学校から始まる空白世界の黒VS空白  作者: Stiid2001
魔法学校での事件

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5/17

何も感じない湊

 音が、消えていた。 崩れた部屋の中。白峰ルナは、動けずにいた。

「……うそ……でしょ……」

 目の前の光景が、理解できない。

 神代湊の体から、黒い“何か”が溢れ出している。

 煙のようで、液体のようで、影のようでもあるそれが、

 床を這い、壁を侵食し、空間そのものを歪ませていた。

 ――さっきまで、人だったはずなのに。それは、変な感覚だった。

「……湊……?」

呼びかける。だが、返事はない。ゆっくりと、湊が立ち上がる。

顔は見える。姿も変わっていない。なのに、“中身が違う”。

そうとしか思えなかった。

「……いい兆候だ」

感情のない声が響く。“空白”は、その様子を静かに見ていた。

「崩れかけている。完全に近づいている証だ」

その言葉と同時に、空白が一歩踏み出す。―消える。次の瞬間、湊の背後にいた。

速すぎる。だが、ギィン、と空間が軋む音が、空白の手が、止まっている。

湊の背後で、黒が“壁”のように展開していた。そう何か物々しいものが

「……反応したか」

興味の色が、わずかに強くなる。その瞬間。湊の腕が、ゆっくりと動いた。

振り向かない。ただ、手を軽く振る。それだけで―黒が、刃のように変形した。

空気を裂き、空白へと襲いかかる。速い。さっきまでとは比べ物にならない。

だが空白は避けない。受ける。そして、黒が、触れた。―消えない。だが、今度は違う。 

わずかに、削れている。ほんの一瞬。ほんのわずか。

それでも確かに、“空白”の体が削れた。それが自分達がやったことだと思う。

「……ほう」

初めて、明確な変化があった。興味、いや、それに近い何か。

「ようやく、触れたか」

その瞬間、空白の気配が一段階跳ね上がる。空間が、歪む。

見えない“圧”が、押し潰すように広がる。ルナの膝が崩れた。

「っ……!」

息ができない。恐怖が、押し寄せる。だが。

その圧を、真正面から受けているはずの湊はー動じない。いや。

感じていない。もう、恐怖すら。それを怖く感じていない様子だった。

「それが、お前の本質か」

 空白の手が上がる空間ごと“削り取る”ような一撃が放たれた。

直撃すれば、存在ごと消える。だが―黒が、応じる。

爆発的に膨れ上がり、真正面からぶつかる。衝突。

音が消える。光も、影も、何もかもが混ざり合い――

世界が、歪む。

「……っ、あーーーー」

ルナが叫ぶ。それは恐怖の声なのだ。耐えられない。

だが目を逸らせない。湊が、そこにいる。

崩れそうになりながら、踏みとどまっている。その瞬間。

湊の瞳が、わずかに揺れた。黒の奥で、ほんの一瞬。

“何か”が戻る。―守らなきゃ。それが、最後に残った感情だった。

次の瞬間。黒が、収束する。一点に、圧縮され、凝縮され―

槍のような形を取る。そして、放たれた。一直線に、空白へ。回避不能

初めて、空白が“避けた”だが。完全には避けきれない。黒の槍が、その体を貫いた。

音は、ない。ただ、空白の一部が、確かに“消えた”。

「……興味深い」

それでも声は、変わらない。だが。その体は、わずかに揺らいでいた

「今は、ここまでにしておこう」

ゆっくりと、後ろへ下がる。

空間が歪み、姿が薄れていく。

「完全になる前に、壊れるか」

最後に、そう言い残して消えた。静寂。完全な、静けさ。

その直後湊の体から、黒が一気に引いた。

「……っ」

力が抜ける。そのまま、崩れ落ちた。

「湊!!」

ルナが駆け寄る。体を抱き起こす。温かい。

生きている。だが。疲れ果ててしまいました。

「……ねえ……」

震える声で、呼びかける。

「私、わかる……?」

沈黙が少しあった。しかし、大丈夫そうだ。湊の目が、ゆっくりと開く

そして。ルナを見る。その瞳には―何も、なかった。

「……誰だ」

その一言で。終わってしまった。分からない様子。

ルナの世界が、音を立てて崩れた。

 目の前にいるのは、神代湊のはずなのに。

「……誰だ」

その一言が、頭の中で何度も繰り返される。

胸が、痛い。その感情が悲しかった。悔しかった。

でもそれが「悲しい」のかどうかすら、うまく言葉にできなかった。

「……ひどいよ」

やっと出た声は、ひどく弱かった。それしか言えなかったからだ。

「さっきまで、一緒にいたのに」

笑っていた。怒っていた。ほんの少しだけ、近づけた気がしたのに。

「……なんで、忘れるの」

答えは返ってこない。忘れてしまったかのように。それはまるで呪いのようだった。

湊はただ、静かにルナを見ている。警戒するように。

他人を見る目で。それが、ルナにとって悔しかったことだった。

「……っ」

 息が詰まる。その視線が、何よりもつらかった。でも、それでも。

手を、離さなかった。

「……私は、白峰ルナ」

震える声で、言う。怖かった、でも、伝えたかった。それでも、と言う気持ちで。

「あなたと同じクラスで……さっき、助けてもらった」

ゆっくりと、言葉を紡ぐ。届かなくてもいいから、相手に、届きますようにと、願い。

それでも、伝えたかった。それが自分に対しの自信になるから。

「あなたは、神代湊」

一つ一つ、確かめるように。

「……優しい人だよ」

その言葉に、わずかに反応があった気がした。

ほんの一瞬。湊の眉が、微かに動いた。

でも、それだけだった。なぜだろう。

「……わからない」

小さな声。何か思いたそうとする態度は、あった。

しかし、どれだけ思い出そうとしても、何も出ない。

「何も、思い出せない」

空っぽの言葉。そこに、感情はなかった。―本当に、消えてる。

ルナは、唇を噛んだ。さっきの戦い。

あの黒い力と、そして、空白の言葉。“完全に近づいている”

その意味が、やっとわかった気がした

「……ふざけないでよ」

ぽつりと、呟く。顔を上げる。涙で滲んだ視界の向こうで、湊を見つめる。

「そんなの、絶対ダメだから」

声が、少しずつ強くなる。それは、自分のため、湊のためでもあった。

「強くなるたびに、大事なもの忘れるなんて……そんなの、間違ってる」

拳を握る。震えている。怖い。あの空白の存在も。湊が壊れていくことも。

全部、怖い。でも、それ以上に、湊が消えるのが嫌だった。

「私は……嫌だから」

消えていくのを、見ているだけなんて。そんなの、耐えられない。

「……覚えてなくていい」

まっすぐに、言った。それが湊のためでもあるからだ。許せない。

「それでもいい」

涙を拭う。ぐちゃぐちゃな顔のまま。それでも、笑った。

「じゃあ、何回でも言う」

一歩、近づく。逃げない。もう、逃げない。

「あなたは、神代湊」

もう一度。

「優しくて、ちょっと不器用で……でも、ちゃんと人のために動ける人」

そして。ゆっくりと、手を差し出した。

「だから

一瞬、言葉が詰まる。それでも、続ける。

「私が、覚えてる」

強く、言い切った。湊のことは、私が覚えると、信じ。

「あなたが忘れても、私が覚えてる」

それが、今できる唯一の抵抗だった。湊は、その手を見つめる。

差し出された手。意味はわからない。でも――

なぜか、目を離せなかった。胸の奥で、何かがわずかに引っかかる。

言葉にできない、小さな違和感。嬉しいのか分からない。

「……」

 ゆっくりと。そう少しずつゆっくり手を指し述べた。ほんの少しだけ。

指が、動いた。触れるか、触れないかの距離。その時。変な音がした。

ガラスの割れる音が、夜を裂いた。バリン、と。

残っていた窓が、内側から弾け飛ぶ

「……っ!?」

反射的にルナが振り向く。そこにいたのは―人間だった。

だが、様子がおかしい。目が、虚ろだ。感情が、ない。空白と同じ

「……あ、ぁ……」

口だけが、動く。

何かを言おうとしている。

だが。次の瞬間!その体が、崩れた。

砂のように。音もなく。跡形もなく。

「……え……?」

 理解が追いつかない。

ただ一つ、わかるのは、この現象は、さっきの“あれ”と同じだということ。

空白。あれが、動いていることに、間違いない。それは確かだ。

「……始まってる」

ルナの声が、震える。でも。その目は、もう揺れていなかった。

「絶対に……止める」

決意。それだけが、残っていた。そして。

その隣で。湊は、何も言わずにその光景を見ていた。

―何も感じないまま。

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