学校の管理局の人現る、そして空白が目を覚ます。
ざわめきは、しばらく止まらなかった。とても良い感じではない
「今の……何だよ……」
「魔法、だよな……?」
誰もが混乱している。 当然だった。
神代湊は、魔法を使えないはずの人間だ。それなのに――
「神代。動くな」
低い声が教室を支配した。それはとても良くは、なかった……。
振り向くと、扉の前に一人の男が立っていた。 黒い外套。
胸元に刻まれた、銀の紋章。 この学園の上層――管理局の人間だ。
「その少女から離れろ」
命令だった。 湊は、無言でルナから一歩下がる。
倒れたままのルナは、まだ意識を取り戻していない。
「……今の力、もう一度使えるか」
男の視線が突き刺さる。とても怖かった。
「わかりません」
正直に答えた。しかし、それが相手には、よくなかった様子。
すると男は、わずかに眉をひそめた。
「なら――試すだけだ」
その瞬間だった。男の周囲に、圧倒的な「気配」が満ちる。
怒り。それも、純度の高い殺意に近い感情。
「なっ……!?」
周囲の生徒が後ずさる。空気が熱を帯びる。
炎が、現れた。それはただの火ではない。
床を焦がし、空間すら歪ませるほどの密度。
「見せてみろ。“例外”」
炎が、一直線に湊へと放たれる。速い。避けられない。
――死ぬ。そう思った、その時。また、胸の奥が軋んだ。
「……っ」
今度は、はっきりとわかる。これは―恐怖。次の瞬間。
黒が、溢れた。 湊の足元から、影のような何かが広がる。
それは炎に触れた瞬間――喰った。バチン、と音が弾ける。
巨大な炎が、まるで存在しなかったかのように消える。
「……は?」
男の声が、初めて揺れた。それは、驚く声だった。
ありえない。感情魔法は、同じ感情でしか相殺できない。
怒りには怒りをぶつけるしかない。だが今のは違う。
湊の力は――なんだろう今の魔法は?
「消した」。
完全に、痕跡すら残さず。
「……なるほど」
男は小さく呟く。
そして、わずかに口角を上げた。
「危険だな」
その言葉と同時に、さらに強い気配が膨れ上がる。
「やめろ!!」
叫んだのは、ルナだった。
「それ以上やったら、この人……壊れる!」
息を切らしながら、立ち上がっている。
男は視線だけを向ける。ただ何かに。
「白峰ルナ。お前には関係ない」
「ある!!」
ルナの声は、震えていた。
「この人……さっき、私を助けた」
一瞬の沈黙。その間に、湊は気づく。体が、重い。
視界が、少し暗い。――何かを、削っている。
さっきの力は、ただの魔法じゃない。
使うたびに、自分の何かが減っている。
「……今日はここまでだ」
男は、ふっと力を解いた。
炎が消え、空気が元に戻る。
「神代湊」
静かな声。
「お前は管理対象になる」
それだけ告げて、男は踵を返した。
教室には、重い沈黙が残る。
やがて――神代に、話掛けるルナ。
「ねえ」
ルナが、湊を見上げた。…まっすぐな目で。
「あなた、何なの?」
その問いに、湊は答えなかった。
答えられなかった。
自分でも、わからない。
ただ一つ、確かなことは――
あの黒い力は、魔法じゃない。もっと、異質な何かだ。そして。
一一七遠く離れた場所で。誰かが、目を細めていた。
「……見つけた」
感情のない声。
空白が、初めて興味を示した。




