雨降男に勝てなくて、湊以外のチーム逃げる。
勝てない。最初の一撃で、理解していた。
それでも。
「―いくぞ!!」
音無シンが叫ぶ。
圧縮を最大までの、空間が歪むほどの密度。それを――叩き込む。直撃、だが。
零式は、動かない、ただ、そこにいる。すべてが無効になる。
「……はは、マジかよ」
乾いた笑い。次の瞬間。
シンの体が、吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
何をされたか、わからない。
存在を弾かれた、そのレベル。
「シン!」
ルナが叫ぶ。だが。次は自分だった。
視界が、歪む。足元が、消える。
「……っ!」
落ちる。だが、その瞬間、重力が引き戻した「……まだ」
楓が、歯を食いしばる。限界。
それでも、止めない。
「……守る」
その言葉。だが、零式が、一歩踏み出した。
それだけで、重力が、崩壊した。
「……っ!」
楓の膝が崩れる。完全に、上書きされる。
力の格が違いすぎる、力が、違った。
「終わりだ」
誰かが呟く。否定できない現実。
その時。ルナが、立ち上がった。
「……まだ」
震える足、それでも。
「終わってない」
顔を上げる。雨降男を、見る。怖い。
勝てない、全部わかってる。それでも。
「……絶対に」
その瞬間。光が、揺れた。今までと違う。
暴走でも、制御でもない。もっと深い。
内側から、溢れる光。凄い力だった。
「――守る!!」
爆発、視界が白に染まる。空気が震える。
世界が、押し返される、初めて。
雨降男の体が、わずかに揺れた。
「……っ!?」
シンが目を見開く。
「効いてる……?」
信じられない。
だが。
確かに、干渉している。
「……解析不能」
雨降男が、初めて言葉を変えた。
その一瞬。ルナの光が、雨降男に届く。
押し込む、ほんの一瞬、だが、確かに、届いた。
「……やった……」
ルナが、息を吐く。だが。その体が、揺れた。
「……あ」
力が、抜ける。
崩れ落ちる。
「ルナ!!」
シンが叫ぶ。だが、遅い。
完全に、力を使い切っている。
その瞬間。雨降男が、再び動いた。今度は、確実に。終わらせるために。
「……排除」
その時。影が、割り込んだ。
黒。神代湊だった。無言で。
ルナの前に立つ。
「……どけ」
雨降男が言う。だが。湊は、動かない。
その背中には、完全に、決まっていた。
「……残す」
もう一度。選ぶ。その瞬間。雨降男の攻撃が、放たれた。
回避不能、防御不能、直撃。黒が、弾ける「……っ!!」
湊の体が、大きく揺れる。だが。
倒れない。踏みとどまる。そのかわり、
黒が、一気に侵食した。胸、首、
顔の半分まで、侵入してしまった。
「……やばい…… 」
シンが呟く。これは。戻れないライン。「……撤退だ」
楓が、低く言う。即断。
「今は、勝てない」
それが現実、シンも、歯を食いしばる。
「……チッ、わかってるよ」
悔しい……、でも、死ぬよりはマシだ。
「ルナ、運ぶぞ!」
崩れたルナを抱える。
楓が、重力で全員を引き寄せる。
「湊!!」
ルナが、かすれた声で呼ぶ。
意識が飛びかけている。それでも。
その名前だけは、離さない。一瞬。
湊の動きが止まる。振り向く。
その目は―もうほとんど黒に沈んでいる。それでも。ほんのわずかに、残っていた。
「……行け」
小さく、呟く。それが、最後の理性だった。
「……っ!!」
シンが叫ぶ、そして。楓の重力が、爆発的に働く。
一瞬で距離を取る。撤退。
その場に残るのは、神代湊と、雨降男。
二人だけ。
「……確認」
雨降男が、静かに言う。
「対象、進行中」
その言葉の意味は。
明らかだった。
湊は、ゆっくりと顔を上げる。その目は―ほとんど、別のものになっていた。
それでも、かすかに、残っている。
揺れている、壊れながら、それでも。
“選び続けている”その姿を見て。
雨降男は、わずかに興味を深めた。
「……観測、継続」
その一言で。戦いは、まだ終わらないと告げられた。




