雨降男(うふお)登場、本当の戦い始まる
戦場は、すでに崩壊していた。
ビルは砕け、道路は抉れ、空気は歪んでいる。
それでも。戦いは終わらない。
「っ……キリねぇ……!」
音無シンが息を荒げる。
圧縮を連続で放つ。
だが、次から次へと管理局の部隊が現れる。
「……消耗、大」
楓も限界に近い。重力の範囲が、徐々に狭まっている。
ルナも。光は出せる。
だが、さっきの一撃ほどの威力はもう出ない。
ジリ貧。完全に、押されている。
「……終わりか」
誰かが呟いた、その時だった。
空気が――止まった。
「……?」
全員が同時に、違和感を覚える。音が消える。
風が止む。魔力の流れが、凍る。
そして、戦っていた管理局の隊員たちが。
一斉に、動きを止めた。
「……なんだ?」
シンが眉をひそめる。次の瞬間。
道が、開いた。隊員たちが、左右に下がる。
まるで―王を迎えるように。
その奥から、ゆっくりと、一人の男が歩いてきた。
黒いコート。無駄のない動き。
そして。圧倒的な“静けさ”。
「……来たか」
管理局の男が、わずかに頭を下げる。
その態度が、すべてを物語っていた。
格が違う。格が違すぎたから驚く。
「……誰だよ、あれ」
シンが小さく呟く。答えは、すぐに来た。
「特別執行官」
管理局の男が言う。
「コードネーム――“雨降男”」
その名前が出た瞬間。
空気がさらに冷えた。
雨降男は、ゆっくりと歩みを止める。
そして、視線を、向けた。神代湊へ。
「……確認」
小さな声。だが、それだけで圧がかかる。
「対象・神代湊」
淡々と、まるで呪いのようだった。
「排除対象として、認定」
その一言で。世界が、敵に回った気がした。「……やばいな」
シンが笑う。だが、汗が流れている。
本能が理解している。“勝てない”。
「……戦闘、不可」
楓が初めて、明確に言った。それほどの差。
だが、ルナは、一歩前に出る。
「……やるしかない」
震えている、それでも、引かない。
その時、雨降男が、動いた。
何もしていない。
ただ。一歩、踏み出しただけ。
なのに、空間が――消えた。
「……っ!?」
ルナの目の前の地面が、跡形もなく消失する。
音もなく、抵抗もなく。
「な……!」
シンが即座に圧縮を撃つ。
だが、届かない。途中で、消える。
「……無効化?」
ありえない、干渉すらできない。
「……排除」
雨降男が、もう一歩進む。
その瞬間、楓の重力が、弾けた。
「……っ!」
維持できないそれが、重いくらいだった。
存在そのものが、押し潰されるような圧。
「終わりだな」
誰かの声、絶望が、形になる。
その時、黒が、揺れた、神代湊。
静かに、前に出る。
「……やめて」
ルナが言う。
でも、止まらない、その目は―
決まっていた。
「……選択」
小さく、呟く。そして。
黒が、広がった。
今までとは違う、暴走ではない。
意志がある、制御されている。
「……残す」
その一言、はっきりと選んだ。
その瞬間、黒が、収束する、極限まで。
一点に、そして、零式へと放たれた。
初めての、“意思を持った一撃”、直撃。
空間が歪む、だが、零式は、動かない。
ただ、その攻撃を、受けて―
「……確認」
小さく呟く。そして、初めて。
ほんのわずかに、口元が、動いた。
「興味深い」
その言葉は、最悪の意味だった
―通じていない、絶対的な差。
その現実が、突きつけ、だが。
湊は、止まらなかった。
黒が、再び集まる。
もう一度、選ぶ、何度でも、その姿を見て。
ルナは、拳を握った。
「……一緒にやる」
前に出る、シンも笑う。
「ま、ここで逃げるのもダサいしな」
楓も、静かに頷く。
「……補助する」
そして、四人が並ぶ。目の前には。
絶対に勝てない相手。それでも。
逃げない。その瞬間、雨降男が、わずかに構えた。
初めての“戦闘姿勢”。
それが―本当の戦いの始まりだった。




