クーリングオフ出来ませんか
私が送った手紙の返事は翌日に来た。
その返事を受け取り、私はドレスまではいかず動きやすいワンピースに着替え馬車に乗った。
数時間ほど馬車に揺られるとカイニスの家、アルファランス公爵家に着いた。
私が馬車から降りようとするとカイニスがすでに待ってくれており、降りやすいように手を差し伸べてくれているため私も遠慮なく手を重ねた。
無事降りた後、すぐにカイニスが話しかけてくる。
「体はもう大丈夫か?」
「はい、ご心配おかけし申し訳ございません。それとお見舞いに来てくださりありがとうございました。」
「そうか、外は寒いから家に入ろう、暖かくしている。」
「ありがとうございます。」
私たちはそのまま手を重ねながら公爵家に向かう。
公爵家に入るとそこの使用人たちが頭を下げて迎えてくれる。
カイニスに案内された場所は前回来た時もカイニスの仕事が終わるまで長い間待たされた応接室であった。
使用人の一人が美味しい紅茶を用意してくれた後、扉を閉めて出て行ったため部屋には私とカイニスの二人だけとなる。
私はいい香りのする温かい紅茶を飲む。
少しの沈黙が経ち、カイニスが口を開く。
「ホワイトローズ聖騎士団に入るそうだな。」
「そうなんです!もうご存じなのですか?」
私がその話をしたのは昨日だ。今日カイニスにその話も含めてしようと思ったのにどうしてすでに知っているのだろうか。
「ルノーアルア聖騎士団長が昨日、王宮に大々的にその話をされたらしい。その話を父上が聞いていたのでな。」
なるほど、あの後ルノーアルアは一通りの段取りが終わるとすぐに帰っていった。なんと馬車で来たのではなく、ルノーアルア一人で来ていたので馬にまたがる姿がとても素敵だったのを思い出す。
そして王宮に戻り、その話を早急に広めたらしい。
王宮勤めのカイニスのお父様もそれを直接聞いてその夜、カイニスに話したということだ。
「そしてあなたが精霊姫と契約を結んだのではなく高位精霊と結んだという話もされたとのことだ。」
「そうなんですよ、あ、でもカイニス様はチェリート様とお会いになられましたよね?」
熱で寝込んでいたため記憶があやふやだがあの時、私の部屋で二人が顔を合わせたような気がする。
ちなみに今日はチェリートにはお留守番をしてもらい、その面倒をティアが見ている。
屋敷の者にはすでに精霊姫というのがばれているため姿を隠すことはしないでいいのできっと今頃沢山のケーキを口いっぱいに含んでいることだろう。
「あぁ、だから私の所には誓約書が届いた。父上と私二人に来たので昨日それにサインをした。」
カイニスは勿論、その話を聞いたであろうアルファランス公爵も必然的に誓約書を書かなければいかなくなった。
「そうなんですね、ご迷惑をおかけしてすみません。」
「迷惑だなんて思っていない。」
カイニスはきっぱりそう言ってくるので私も肩の荷が下りた。
そして私はやっと今日ここにきた本当の目的を話すことにした。
「私は念願のホワイトローズ聖騎士団に入ることが出来ました。そして中等部生活ももう終わり、もうすぐ高等部へと入学します。ということはつまり!カイニス様、婚約破棄をしましょう!」
高等部から私が前世の頃に大好きだった乙女ゲームが始まる。それはつまりシンシーリア・レバートリーの地獄のカウントダウンが始まるという事でもある。
乙女ゲームの攻略相手は3人、この国の王子と精霊王と、シンシーリア・レバートリーの婚約者、カイニスである。
シンシーリア・レバートリーはカイニス以外の攻略相手ルートだと死にまで至る。
私がいくら精霊姫と契約を交わそうがホワイトローズ聖騎士団に入ろうが王子か精霊王が攻略相手となるとそのカードはほとんど意味がないと言ってもいいだろう。
良い結末ではないもののカイニスが攻略相手の場合のみシンシーリア・レバートリーは生き残ることが出来るのだ。
もちろん、今の私がヒロイン相手に何かをするつもりは全くない、全くないが私の意志なしに勝手に物語が進んでしまう恐れもないのだ。
そのため、絶対ヒロインにはカイニスと結ばれてもらわなければならない。
ゲームが始まる前にカイニスの婚約者というポジションがなくなれば私は二人とは無関係となる。無関係の状態からゲームをスタートすればもしかしたら私は悪役令嬢というポジションでもなくなるかもしれない。
そしてカイニスとは前回婚約生活は一年という約束をしていた。
その約束を果たすべく、私は今日ここにやってきたのだ。
しかしカイニスはなにを思っているのかじっとこちらを見つめるだけでなにも言わない。
私が不思議に思っているとやっと口を開く。
「そのことだがあなたは前に私が他の人を好きになると言っていたな。」
「えぇ、そうですよ。」
「それはありえない」
未来の事なのにはっきりと断言してくるカイニス。
「私はあなた以外に愛することはない。」
「はい?カイニス様、それだと私のこと好きみたいなこと言ってますよ。」
カイニスでも言い方を間違えることがあるのだなと私はおばちゃんのように手を振りながら笑う。
「そうだと言っている。」
しかしカイニスは冗談ではないようで真っすぐ見てくる。
私はやっと状況を理解し笑うのを止める。
「・・・なぜですか?」
なぜそんなことになったのか分からずカイニスの真意を聞く。
「あなたを愛していることに理由がいるのか?」
「ちょっと愛してるなんて言わないでください!恥ずかしい・・・
というかなんでそうなるんですか?話が違いますよ。」
「あなたは私が他の女性を好きになるから婚約破棄をしたいのだろう、だが私はあなた以外の女性を好きになることは絶対にない。」
「まだ若いのにそんなことに絶対なんて使わない方がいいですよ・・・」
「なんならあなたの精霊姫に誓約書を書かせてもいい。」
話が思うように進まない。どうにかカイニスと婚約破棄をしなくてはならないのだ。
「で、でも私、ホワイトローズ聖騎士団に入るんですよ?」
「聖騎士団に入っていたら結婚出来ないなどの法律はない。」
「危ない場所に行く女性を貴族は好まないのでは?」
「確かにあなたには危険な場所に行ってほしくないがそれがやりたいことであれば私は止めない。一緒に私も行ってあなたを守ればいい。」
「私が精霊と契約を結んだからですか?」
「関係ない、むしろ私は苦しんでいるあなたに契約を解除したらいいと言ったはずだ。」
「ではどうしてですか!」
埒が明かない話に私はつい興奮して大きな声を出してしまう。
だがカイニスはやはり冷静にサラッという。
「最初から言っている。あなたを愛しているからだ。」
ド直球な告白を受けて私はソファに深々と座り込む。
なにが起きたのかカイニスがシンシーリア・レバートリーの事を好きだと言っているのだ。ゲームの中ではそんなこと一度も言っていなかったはずなのに。
私は頭を押さえて考え込む。カイニスはその間優雅にお紅茶を飲んでいらっしゃる。
「で、でも婚約期間は一年という約束では・・・・」
すでにこれ以上説得する方法が見当たらない私はぶつぶつ言うことしか出来なくなった。
するとカイニスは紅茶の入っているカップを置く。
「そんなに私と婚約解消したいか?あなたは私の事が嫌いなのか?」
「そんなわけがありません!ですがこうした方がお互い幸せになれるんです・・・」
「そうか・・・」
カイニスは少し悩むように間を開けて思いがけないことを口にする。
「なら私はシューデン聖騎士団長に殺されるな。」
「・・・・はい?」
なぜここでお父様の名前がでるのか分からない。
カイニスは相変わらず無表情のまま話す。
「だってそうだろう、今あなたと婚約破棄などしたら私があなたを無下に扱ったと思われ、娘想いの父親に殺されるだろう。」
「そ、そんなこと・・・」
ないとは言えないのがシンシーリアの父親だ。
カイニスは最近足しげく私の家に通っていたというのにいきなり婚約破棄するとなっては私がいくら止めようとも娘を弄んだと思ったお父様が公爵家に暴れに行くかもしれない。
「そ、それなら私から婚約破棄をしたと言えば・・・」
「きっとあなたにひどいことをしたと思ったシューデン聖騎士が私を殺しに来るな。」
八方ふさがりである。
私が助かるためにはカイニスが必要不可欠なのだ。ゲームが始まる前にカイニスが死んでしまっては元も子もない。
もしカイニスが死んでしまったら主人公は他二人のどちらかと結ばれ、私も死ぬ。
どんなに考えても最善案が一つしかない。
私がもう抵抗できなく黙っているとカイニスがそれを見て少し笑う。
「シンシア」
「はい?」
「卒業したらすぐに結婚しような」
カイニスはいたずら心が含まれている笑顔を向ける。
それはとても美しくて神々しい、同じ人間とは思えないほどだった。
私は頬を赤らめてつい目をそらしてしまう。そして軽くため息をつく。
「カイニス様、なんかキャラ変わりましたね・・・」
「そうか?そうであればそれはあなたのおかげだな」
カイニスはまた優雅にお紅茶を飲む。
結局私はカイニスと婚約を解消することは出来なかった。
もうすぐ乙女ゲームが始まる。
ヒロインは高等部から学校に入学し3人の男と出会う。そしてその中の1人と恋を結ぶどこにであるゲームだった。
そんな世界に私はなんとヒロインをいじめる悪役令嬢として生まれ変わったのだ。
ゲームの中では悪役令嬢は最悪な結末を迎えるが私は絶対にそんなことにはならない。
意地でもこの世界で幸せになってやる!
乙女ゲーム、スタートです。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
時間がかかりましたが中等部編終わりとなります。
高等部編は4月か5月に投稿していきたいと思っております。
マイページ投稿になってしまいますがこれからも読んでくださると嬉しいです!




