優しくて冷たい手
チェリートと契約を交わした私は莫大な魔力量をもらうことになったがそのせいで体に負荷がかかりベッドに寝込んでしまった。
あの後すぐに倒れた私を使用人はいち早く気づきベッドまで運び、医者に看てもらったところ急激に魔力量が増えると体に影響が出て最悪死に至ってしまうという。
寝込んでから一日経ったものの未だに燃えるように熱い私の体を使用人たちが氷を持ってきたりして冷ましてくれるものの効果はほとんどない。
息が荒く苦しんでいる私を見てチェリートは心配そうな顔をする。
「シンシア大丈夫?」
「大丈夫です。私こそ心配かけてすみません」
「あなた貴族のくせにもとの魔力量が少なかったのね」
私の魔力量は1だったため精霊姫であるチェリートの魔力量には耐えきれず多大な影響を出してしまったような。
しかし私はチェリートとの契約を後悔していない。
人差し指で小さなお顔のチェリートをなでて苦しいながらも笑う。
「私はチェリート様と契約を結べて嬉しかったですよ。必ず耐えきって見せますからそんなお顔しないでください。」
「シンシア・・・・」
すると誰かが扉の部屋をノックする。
体が動かない私は誰が来たのか分からなかったがきっとティアかお母様だろうと思っていた。
しかし私の隣まで来てくれてやっと分かった。
「カイニス様・・・!」
二日に一回は来ていたカイニスはいつも通り我が家へ来て事の容態に気づいたのだろう。
辛い表情をしている私をカイニスは心配してくれる。
「大丈夫か?シンシア」
「えぇ大丈夫です、せっかく来てもらったのにすみません」
「気にするな、あなたの話は聞いた。そこにいる精霊姫と契約を結んだようだな」
カイニスはちらりとチェリートを見てまた私の方を向く。
「シンシア、誰この人?」
チェリートはいきなり来たカイニスは訝しげに睨む。
「こちらはカイニス・アルファランス様です。アルファランス公爵家の跡取りでまだ私の婚約者であります。」
「ふぅん・・・」
チェリートはカイニスに警戒心を持っているようだが私に害を加えないと分かると部屋を出て二人きりにさせてくれた。
「まだ辛いのか?」
「はい、体がとても熱くて・・・・」
「・・・あの精霊姫との契約を解除したらどうだ?」
「え?」
「今あなたがこのような状況になっているのは精霊姫の魔力があなたの体の中で暴走しているからだ。その暴走は契約を外したらなくなる。」
カイニスは私を心配してるがためにそのような提案をしてくれたが私は悩みもせずに断る。
「それは出来ません。チェリート様はやっと楽しいことを見つけられたために私と契約をしたのです。それをとってしまうことはチェリート様を傷つけてしまいます。」
「しかし・・・」
「カイニス様、私は大丈夫です。絶対チェリート様の魔力を抑え込めてみせます。」
なんせ私は悪役令嬢シンシーリア・レバートリーなのだから。
カイニスは説得するのが出来ないと思ったのかそれ以上は言わなかった。
すると廊下からもの騒がしい音が聞こえてきた。それは私の部屋で止まるかと思えば勢いよく扉が開く。
「シンシアちゃぁぁぁん!大丈夫かぁぁぁぁ!」
それは聖騎士団の仕事を投げ捨てて帰ってきたお父様だった。
お父様はベッドで横たわる私を見るもその隣にカイニスが座っていることに気づき矛先を変える。
「カイニス!何勝手にシンシアの部屋に入っているんだ!」
「婚約者ですから」
「だれが婚約者だ!いいか、俺は認めてないぞ!夫婦でもないのに女性の寝室に入るなんてありえないぞ!」
「あら、あなたも昔、私の部屋によく遊びに来てたじゃない」
後から駆けつけてきたお母様がふふふといたずらに笑う。
「当たり前だ、クルエラちゃんは世界一美しかったんだから他の男が来ないように見張っておかないといけなかったんだ!」
言ってることが矛盾しているお父様に実の娘ではないとして恥ずかしくなってきた。
どうしてこんなお父様が聖騎士団の団長なんかでいられるんだろうか不思議に思うも頭が痛いのでなにも考えたくない。
「それよりシンシア、大丈夫かい?まだ苦しいかい?」
「はい・・・・」
「まさか精霊姫と契約を交わしてしまうとは。火の精霊姫は数百年前に一度人間達の前に姿を現してから現れなかったのに一体どうして」
チェリートが一人で暇していたからだというのは私が言うべきことではないと思ったため口を塞ぐ。
「国では今その話で持ちきりだ」
「昨日の今日でもうそんな広がったのですか?」
事の大きさに私はびっくりしているが他の人たちは当たり前だというように頷く。
「普通精霊と契約を交わせる事自体珍しいんだ。それが世界で5人しかいない精霊姫の一人と契約を交わすなんて歴史に残る快挙だぞ」
まさかそんな偉大な事とは思わなかった。
チェリートと契約を結べたのは私のおかげじゃなくケーキのおかげなのでもし歴史に残ることになるならそこもちゃんと忘れないで欲しい。
私の成果みたいで残るのは恥ずかしい。
「というか…お前はいつまでいるんだ!」
カイニスが家族団欒のところを邪魔しないように部屋から出る事もなく、ずっと私の隣をとられているのでお父様がついに怒る。
「せっかく家族3人が集まっているというのに遠慮しないのか!」
「婚約者ですから」
「だから違うと言っているだろう!そのセリフやめろ!腹が立つんだよ!」
お父様がカイニスに突っかかり大きな声を出すので頭に響いて余計に体調が悪くなる。
「うるさいです…頭が痛くなります…」
「ほら、シンシアがお前のこと邪魔だと言ってるぞ!大丈夫かい、シンシア。安心してくれ、お父さんがこの邪魔なやつをどうにするから!」
お父様はお母様になだめられながらどっか連れていかれ、やっと静かになる。
体調が悪いと言うのにお喋りしたせいか余計に熱が上がった気がする。
苦しんで表情が歪んでいるとそっと冷たい手が私のおでこにあたる。
「大丈夫か?」
見るとカイニスの大きな手が熱い私のおでこを触っている。
「ものすごく熱いな」
私はカイニスの手を掴んで自分の頬に移動させる。
「カイニス様の手、冷たくて気持ちいい……」
冷たいタオルで冷やそうと氷で部屋を冷やそうとしてもなにも変わりなかったのにカイニスの手だけは冷たく感じすこし熱が下がった。
「水魔法を手に集中させてあなたの体内に送り込んでいる。これで少しは収まるだろう」
「そんなこと出来るんですね、さすがカイニス様…」
「…あなたの方がすごいだろう、精霊姫と契約をし、これからもっと沢山の人があなたを気にしていくだろう」
そういうカイニスの表情をどこか曇っておりどうしてそんな事気にしているのかおかしくて笑ってしまう。
「ふふふ…カイニス様、そんな事気にしないで大丈夫ですよ、これからが本番です。私は脇役となり本当の主人公がみんなの目を惹きますよ」
「あなたが脇役となるわけがないだろう」
カイニスは私の本当の意味をわかっていない。私もそれを訂正はしないで段々と重くなっていく瞼に対抗する。
「それに、もしあなたが脇役だとしても私の中ではシンシアだけが主人公だ」
カイニスは今どんな表情をしているのだろう。視界がぼやけてよく見えず、私は可愛らしい事を言ってくれるカイニスがどうか主人公と幸せになるように祈りながらついに深い眠りに沈んだ。
その間、カイニスは私の熱が下がるまでずっと手を離さないでいてくれた。
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