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こんちにわ、小さいお姫様


 私は今ふかふかのベッドで眠っている。

 いつも通りティナが起こしに来てくれ、支度を終えると部屋を出て一階に降りる。


「おはよう、シンシアちゃん。」


 すでに先についていたお母様が可愛らしく声をかけてくる。


「おはようございます、お母様。」

 

 冬休みに入ってからすでに二週間か経過した。

 カイニスとの町デートを終えた翌日、私は少し慣れ親しんだレバートリー伯爵家に帰ってくると両親からの熱烈なキスを頂き、毎日聖騎士団達に鍛えてもらった。

 聖騎士団達は見ない間により強くなった私に驚き、余裕をもって教えられなくなってきたことに焦りを感じ始めている者もいた。

 ペペローメとポーテルドのお店まで行って楽しく買い物が出来たりと夏休みの時より楽しく過ごせている。


「今日も来るかしら?」


 朝ごはんを食べながらお母様が話しかけてくる。ニコニコ笑っているお母様は本当に可愛らしく一児の母親とは思えないほどだ。お父様が仕事もしないで一日中お母様と一緒にいたがるほどべた惚れなのも分かる。


「さぁ、どうですかね」


 私はお母様が誰の事を言ってるか分かった。冬休みに入り、カイニスと次会うのは婚約破棄の話をする時だと思っていたがなんと彼は二日に一回は我が家にお邪魔してくるようになったのだ。

 特に約束もなく急に来るカイニスに最初は驚いたものの、何事もなく私の稽古をお母様とお茶をしながら見てくるカイニスに今では慣れてしまった。

 こんなに頻繁に来て跡取りとしての仕事は忙しいのではないかと聞いたもののしれッとした顔で問題ないという彼に私はそれ以上言うことが出来なかった。

 

「昨日来てましたし今日は来ないと思いますよ。」


 カイニスが来ない日は一日中聖騎士団達に稽古をつけてもらっていたが最近多く頻出する魔物の退治に応援としてマルーンイーグル聖騎士団達も駆けつけなければならず、今日は誰一人いない。

 一人で稽古するのもいいが相手がいないとつまんないためこの後どうしようか私は悩んだ。

 するとタイミングよくお母様が提案してくれた。


「そういえばこの間新しい花を植えたの。ちょうど今綺麗に咲いているから見に行ってきたら?」

「そうなんですね、それではこの後散歩がてら見に行こうと思います!」


 ひとまず私は午前中は時間が潰せるなと思い冬に咲く花を見に行くことにした。


 お母様が言ってた通り、丁寧に世話をしてくれる庭師のおかげで多くの赤い花が庭を楽しくしている。

 私は一つ一つじっくりと綺麗に咲く花を眺めて、カイニスの家には今どんな花が咲いているのだろうと考える。

 ひまわりは今は咲いていないからきっと新しい花を植えているだろう。公爵家ではさまざまな花が咲いているので赤い花が咲き乱れる伯爵家とは趣が違う。

 カイニスは庭が変わっていることにちゃんと気づいているだろうか。

 そんなことを考えていたらどこからか小さく可愛らしい声が聞こえてきた。


「いたっ!ちょっと離してよ!」


 怒りながらも困っている声がどこから聞こえてきたのか探すとそこには今は咲いていない薔薇のとげに髪が絡まっている手のひらサイズの女の子がいた。

 女の子は赤い髪に赤い目、さらには赤いドレスという赤一色に染まり、少し吊り上がっている大きな目は絡まっているとげを睨む。


「だ、大丈夫!?」


 私は慌てて女の子に近寄り、絡まっている髪をほどいていく。

 その間女の子は少しこちらを見て驚いていたものの、髪がほどけるまでじっとする。


「はぁ、やっとほどけた」


 時間はかかってしまったが無事に女の子の髪がほどけて私は大きく息を吐く。

 女の子はというと先ほどからずっと宙を浮いており、動けるようになると私の目の前まで来て偉そうに腕を組む。


「ふん、まぁ私の髪を傷つけなかったのは上出来だわ。一本でも抜いていたら消し炭にしていたんだから。」


 顔に似合わず恐ろしいことをいう女の子に無事ほどけてよかったと再び胸をなでおろす。

 女の子は私を品定めするように上から下までじっくり見てくると話しかけてくる。


「あなた、名前は?」

「え、私はシンシーリア・レバートリーです。この家の者です。」

「そう、」

「あなたのお名前も教えてもらってもいいですか?」


 女の子はよくぞ聞いてくれたというように胸を張る。


「私は火の精霊姫、チェリートよ!私に出会えたことに喜びなさい!」

「精霊なのですか!」


 ゲームの攻略対象の1人が精霊王だったため精霊がいることは知っていたが他の精霊たちも人間のような姿をしていることを初めて知り驚いた。


「そうよ!それに精霊姫なのよ!我々の精霊王の次に強いんだから!」


 自分で豪語するチェリートだが姿が可愛らしいためあまり崇拝が出来ない。しかし精霊姫が一体どうして我が家の庭で薔薇のとげなんかに絡まっていたのだろう。


「そんな精霊姫様がどうして我が家の庭であのようなことに?」

「それは・・・赤い花が沢山咲いてて綺麗だからちょっと見てあげようかなーと思ったらとげに絡まってて・・・・」


 つまりチェリートは綺麗な花に見惚れて周りを気にしていなかったら後ろにあるとげに気づかず髪が絡んでしまったようだ。

 恥ずかしそうに笑うチェリートがとても可愛らしかったがここで変に笑ってしまうとプライドの高そうな姫様が怒りそうな気がしたため私は冷静を保った。


「そうなんですね、私たちは火魔法の家系のため火の精霊たちに喜んでもらいたくお庭には赤い花を沢山咲かせているのです。」


 てっきりおまじない程度だと思っていたがまさか精霊姫までやってくるとは。本当に庭師の人たちには感謝しかない。


「ふぅん、そうなの。いい心がけね。」

「チェリート様、良ければ私と一緒にお庭を見ませんか?ちょうど一人で寂しかったのです。」


 私がそう伝えるとチェリートもまんざらでもない顔だった。


「そ、そう。ま、私も一人で暇だったしね!ちょっとくらいなら相手してあげてもいいわよ。」

「ありがとうございます。」


 そうして私はチェリートの髪が引っかからないように自分の肩に座るように勧めるとチェリートは遠慮なくちょこんと座ってきた。

 庭を見ながら私はチェリートに話しかける。


「チェリート様はいつも何をしているのですか?」

「別にいつも通りよ。精霊たちを見守って、森の中で花の蜜を吸って、ダラダラして眠くなったら眠る。」

「そうですか・・・どうして今日は町に?」

「何もすることがなくて暇だったから気分転換に来ただけよ。人間なんて嫌いだから姿見せないようにしていたのにまさかこんなことになるなんて。」

 

 火の精霊達は他の精霊達より人間達に友好ではない。

 はるか昔、人間のために手を貸してあげた火の精霊の力を人間が大雑把に扱い、町全体を消し炭にしてしまい、それを火の精霊のせいにした人間達が彼らを恐れ、邪険にしたからだ。

 だから火の精霊たちの加護があまり頼れないため、強い火魔法の力の持ち主は数少ない。

 魔力10の人数が光魔法の持ち主の次に火魔法が少ないのである。


「でも私はチェリート様に会えて嬉しかったです。精霊たちがいるのは知ってましたがこんなにも可愛らしい方なんて」

「か、可愛いって!何言ってるのよ!別に褒めたってなんにもないんだからね!」


 チェリートは顔を真っ赤にして私に言う。

 素直になれない彼女がやはり可愛く思えてしまい私はつい笑ってしまう。


「なに笑ってるのよ!」

「すみません、チェリート様があまりにも可愛くて頬が緩んでしまい」


 そういうとチェリートはますます顔を赤くしてしまう。そんな彼女ともう少し話してみたくて私はある提案をする。


「チェリート様、良ければお茶をしていきませんか?甘いスイーツも用意してもらいますので」


 チェリートは相変わらず上からの態度で仕方ないわね、というと私たちは屋敷に戻り使用人たちにお茶の準備をしてくれるように伝えた。

 使用人たちは私の肩に乗っかっているチェリートを見ると大層驚きすぐに高級な紅茶とスイーツを用意すると大急ぎだった。

 私たちは庭が良く見える外でお茶をすることにした。

 使用人たちが急いで用意してくれたローズヒップはほのかに薔薇の匂いがしチェリートは大層この紅茶を気に入ったようだ


「ローズヒップは薔薇の紅茶ですからチェリート様はお好きかと思います」

「そうね!悪くはないわね!人間はこんな風にして花を飲むのね!」

「チェリート様はどのお花が一番好きなのですか?」

「赤いお花ならなんでも好きよ、綺麗で美しく、凛としているから。でもそうねその中で一番好きなのはチューリップかしら、とても可愛くて・・・」


 見た目ではイメージがつかないがそう言う彼女をみて、私はチェリートにはチューリップが一番よく似合うなと思った。

 可愛らしくて女の子らしいチューリップはまるでチェリートを表しているようだから。


「では春になったらこの庭に沢山のチューリップを咲かせますね!そしたらぜひ、我が家へチューリップの花を見に来てくださいね!」

「そうね、考えとく・・・あなたはどの花が好きなの?」


 チェリートがちょびちょびとローズヒップを嗜みながら聞く。


「私ですか・・・ひまわりが好きです。」

「赤いお花じゃなくて?」

「赤いお花も大好きですよ!でもお花に全く興味がなかった方が初めてお花を綺麗と思ったのがひまわりだったので・・・・」

「その人間の事好きなの?」


 チェリートの質問に私は慌てて答える。


「違います違います!好きではありますけどそれは何というかですかね、アイドル・・・偶像として好きと言いますか」

「偶像?偶像がなにかを思うの?」


 よく分からないことを言ってる私にチェリートは不思議そうにする。


「いえ、偶像ではないのですが。とにかくそういう目で彼の事を見ていません。」

「あっそう・・・」

「あ、チェリート様、ケーキを食べましょうよ!甘くてとっても美味しいんですよ!」


 私は話を変えるべく使用人たちが持ってきてくれたケーキを勧める。

 フォークは人間用しかなかったため私が小さく切り、チェリートの口に運ぶ。チェリートは小さなお口を大きく開けてケーキを食べる。

 その瞬間、チェリートは目を輝かせ頬を緩ませる。


「な、なにこれ!何この食べ物!こんな甘い物食べたことない!もっとちょうだい!」


 チェリートは興奮して私に小さく切るように急かす。  

 私も慌ててチェリートの口にケーキを運ぶ。みるみるうちにケーキは減っていき、なんと小さい体で二つ分のケーキを平らげてしまった。

 満腹になって満足したチェリートはこの世の幸せかという風に顔を緩ませる。


「はぁ、最高だったわ。甘くてふわふわでおいしくて・・・花の蜜より美味しいなんてやるじゃない・・・」

「満足してくれたようで何よりです。他にも色々なケーキがありますのでまた準備しておきますね!」

「こんなに美味しいものが他にも沢山あるっているの!?」


 チェリートは体は小さいもののリアクションは大きい。

 そしてしばらく一人でなにかを悩むように考えているとびしっと私を指さし言う。


「決めたわ!シンシーリア・レバートリー!私があなたと契約を結んであげる!感謝しなさい!」

「はい?」


 突然の事で私は素っ頓狂な声がでる。

 チェリートは相変わらず威張りながらも説明する。


「この精霊姫である私があなたと契約してあげるって言ってるのよ!なに?文句あるの?」


 断られるなんてありえないというようにチェリートは頬を膨らませるので私は慌てて訂正する。


「いえいえ、そうじゃないですよ!でもいきなりどうしてそんなこと言ってくださるのか驚いただけで・・・チェリート様は人間が好きじゃないとおっしゃっていたじゃありませんか」

「だってケーキいっぱい食べれるじゃない・・・」

「え?」

「だから私はケーキが毎日たくさん食べたいのよ!花の蜜なんかじゃ我慢できない!私もケーキがいい!」


 今まで人間を嫌って町に下りてこなかった精霊姫がたったケーキのためだけに人と契約するまでに至るとは。ケーキ恐るべし。いやケーキは女の子の味方であり敵だもあるもんな。

 甘くておいしくて何個も食べてしまうとすぐに体重が増えてしまう・・・精霊姫がケーキに屈服するのも分かる。

 私はチェリートに言う。


「わかりました、チェリート様。私と契約を結んでください!その暁には毎日スイーツを用意いたします!それで契約はどうやってすればいいのですか?」

「そんなの簡単よ、おでこを出しなさい」


 私は言われるがまま前髪をあげおでこをあらわにする。

 するとチェリートが近づいて私のおでこに軽くキスをする。

 チェリートにキスされた私は頭から体全体が熱くなり始め、血が流れていることさえ感じることが出来た。


「体が熱くなってきました!」

「当たり前でしょう、精霊姫と契約したのだから魔力が大幅に増えているのよ。」

「そうなのですか・・・!」


 私はふらふらする頭を抑えながらもチェリートに微笑む。


「これからよろしくお願いしますね。チェリート様、私の事はシンシアとお呼びください。」

「えぇ、よろしく、シンシア。」


 チェリートも私に笑いかける。

 こうして歴史上、初めて火の精霊姫チェリートとの契約を結んだ人間が現れたのだ。




いつも読んでいただきありがとうございます!

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