真の食べ方とは
建国祭は想像以上に騒がしいものだった。
狭い間隔ごとに屋台が並んでおり様々な美味しいそうな匂いが食欲をそそらせてくれる。
また町の中央には大道芸が繰り広げられ人々を楽しませている。
多くの人々がこの建国祭に参加するべく集まり前をしっかり見てないとぶつかりそうになってしまう。
「す、すごいですね・・・これが建国祭・・・!日本のお祭りとは全く違うわね・・・!」
「え、今なんて言った?シンシア。」
「え?いや、別に!すごいお祭りだなって!」
またサラッと前世の事を喋ったことに反省し、私は改めて辺りを見渡す。
屋台の食べ物を見るとなんと前世と同じような庶民の食べ物が大量に並んでありなにを食べようか迷ってしまう。
「どれも美味しそう・・・全部食べれないのが残念ね。」
「まぁ私と半分こにしながらできる限り食べれるようにしようよ。」
リリィの提案に目を輝かせながら賛成し、私たちは一番いい匂いがする屋台に向かった。
「おじさん、焼き鳥一つ。」
「はいよ、どうぞ!」
大きな焼き鳥に香ばしく甘いタレが沁み込んでおり、少し冷やして大きな口でガブリつく。
「ん~美味しい!」
味は前世の焼き鳥とほぼ変わらなく、懐かしさを感じる。
半分食べてリリィに渡すとリリィも美味しそうに頬張る。
焼き鳥はあっという間に食べ終わり、私たちはさっさと違う屋台に向かっては食べ向かっては食べを繰り返した。
「あ、やっと見つけた、二人とも」
何個目かを食べた後にカイニスとポーテルドがやってきた。
私たちはちょうど空いている椅子に座ってご飯を食べていたため二人の事などすっかり忘れていた。
「遅かったわね、何してたの?」
「二人がさっさと行っちゃったから見失っちゃったんだよ、人が多いから探すの苦労したよ。」
見ると辺りの女の子達がこちらを頬を染めて見てくる。
それはそうだ、カイニスとポーテルドというイケメン二人が歩いているのだ。女の子達はチャンスとばかりに声をかけたに決まっている。
それでもこちらに合流できたのはカイニスが全く相手にしなかったからだろう。
私はのんびりとカイニスを見つめ彼の破壊力を実感する。そんなカイニスは周りの視線を気にせずこちらに話しかける。
「何を食べているんだ?」
「肉まんです。こんな物まで売ってるなんて意外でした。
カイニス様まだ何も食べてませんよね?何か食べます?」
「あなたと同じものが食べたい。」
「そうですか、肉まんならあっちにありますよ。」
私は肉まんを売っている屋台の方を指さす。しかしカイニスはそちらの方を見ただけで全く動かない。
「?」
一体、何をしているのだろうか、と思っていたところカイニスが再びこちらを向く。
「付いてきてくれ。」
まるで小さな子供が言うようなセリフに私達は呆れる。しかしそもそも貴族のお坊ちゃまとして育ち、建国祭に一度も来たことがないため買い方などが分からないのだろうと仕方なく私は椅子から立ちあがった。
「ちょっと行ってくるね、リリィとポーテルド様はここで待ってて」
ポーテルドはひらひらと手を振ってくれて、リリィは拗ねたような顔をこちらに向けて可愛らしかったがそれを後にして私はカイニスと肉まんを買いに行った。
「それにしても意外でした。カイニス様も肉まん食べるんですね。」
「屋台で売っている物がよく分からないからな。」
「てことは特に肉まんが食べたいってわけではないってことですか?それなら少し回って気になるものがあったらそれにしましょうよ。」
リリィ達の所に戻るのが少し遅れてしまうため一度戻それを伝えるために戻ろうかと思ったが、すでに人ごみで戻るのが大変だったため諦めた。
人ごみをうまく避けながら私とカイニスは屋台を見渡す。
「なにかいい物ありましたか?」
そう問いかけたがカイニスは辺りを少し見渡しながらも答えが返ってこない。
カイニスはいつも出てくるものを機械のように食べるばかりで食に興味を持っていない。
食堂で私と一緒に食べる時でさえもいつも私と同じものを頼んでいる。
カイニス自身が何を食べたいなど考えてことなどないのだろう。
こうなると永遠に決まらなそうだなと思った私は提案した。
「それじゃあ私が次食べたいものと一緒でいいですか?」
「あぁ」
カイニスはやっと頷いてくれたため私はカイニスの口に合いそうなものを探した。
するとどこかで懐かしく大好きなにおいがしてきた。
私はそちらに向かって走り出すとその屋台だけ人が寄り付いておらず閑散としていた。
しかし私はその屋台を見て今日一番興奮した。
「ら・・・ラーメンだぁ!」
「らぁめん?」
カイニスが小さく首を横に傾ける。
私は驚きと興奮のあまり一人はしゃぎまくる。
まさかこの中世のような時代に前世の時に食べまくったラーメンがあるなど考えもしなかった。
学生時代によく無性に食べたくなり友人たちとおいしいラーメンを探しに歩いた。
特に私は豚骨スープが好きだ。
あのこってりとしているのに食べることがやめられない病みつきになる味は今でも忘れられない。
懐かしい匂いに惹かれるもカイニスは絶対ラーメンなど食べないだろうと思い、後でリリィと来ればいいとこの場を去ろうとした時カイニスから提案する。
「このお店にするか?」
「え?でもこのお店はなんというか・・・」
「あなたが食べたいものなんだろう。」
「それはそうですが・・・・」
「ではここにしよう。」
そういうとカイニスがラーメン屋に入っていく。
私は驚きながらもカイニスの後をついてラーメン屋に入っていく。
中には簡素な椅子とテーブルが何個かあるが客は一人もいない。
だが気にせず座るカイニスに私は少し緊張しながら前の席に座る。
「・・・らっしゃい・・・」
するといつの間にか私たちの席に一人の巨大な男が現れた。
男は頭に鉢まきをまいて髪を見えないように隠し、鋭い眼光でこちらを見下ろす。
私はそんな男に恐怖を抱くどころか前世でよく見かけたラーメン屋の主人達を思い出した。
愛想がなく愛情というものをラーメンにだけ注いでいるような人生をしている主人達を何度も見てきた。
そんな主人達の作るラーメンはやはり美味しく、ラーメン通の喉を潤した。
だから言える、ここの主人の作るラーメンも必ず美味しいと!
「ここのメニューは何だ?」
「この店のメニューは一つだけだ。」
カイニスの質問にラーメン屋の主人はぶっきらぼうに答える。
「ここは何味のラーメンですか?」
「・・・豚骨だ」
なんと私の好きなスープではないか!
「じゃあそれを2つ!あ、私は麵固めでお願います!カイニス様はどうします?」
「同じもので。」
「じゃあそちらでお願いします!」
私は笑顔を主人に向けると主人は少し驚いたようだが注文を受け取ってすぐに厨房に入った。
暫くすると熱々のラーメンが目の前に出された。
香ばしい豚骨の匂いとキラキラと表面上に浮かび上がる油が美しい。
麺も綺麗な黄色でスープという名の海を優雅に泳いでいる。
ここに来るまでもたくさん食べたのにこの匂いを嗅いだだけで胃の中の物が全て消化したかのようにお腹の虫が鳴る。
そこで主人が私とカイニスの前に箸を置く。
「カイニス様、箸は使えますか?」
「・・・・」
答えないということは使えないのだろう。
私は主人に申し訳ないが代わりにフォークをくれないかと頼んだら不快なそぶりをすることなくフォークを出してくれた。
「では、いただきまーす!」
箸を綺麗に二つに割り豪快に麺を啜る。
麺にしっかりスープの味が沁み込んでおり喉を通り過ぎた途端にすぐに次の麺をかき込みたくなるほどの病みつきになる味だった。
前世で店を開いても客足が途絶えない店になるに違いない。
私は夢中でラーメンを啜っていたが目の前のカイニスがどうやらラーメンを食べるのに苦戦している。
滑る麺を必死で持ち上がるも啜ることをせずにかみ切るため麺がボロボロになる。
「・・・カイニス様、ここでは私以外見てません。この際、思いっきり麺を啜ってみてはいかがでしょうか?」
「しかし麺を啜るなど」
カイニスはやはり抵抗があるらしい。
麵を啜るなどという行為はマナーがなっていないと思われているのがこの世界だ。
しかし私はテーブルを叩いて抗議する。
「カイニス様!それは違います!ラーメンたるものは!啜ってこそ美味しさが増すのです!啜るからこそ完璧に味を感じることができるのです!飲み物は飲み込むもの、ご飯は噛むものに加え、ラーメンは啜るものなんです!啜るのがラーメンの真の食べ方なのです!」
そう熱く語る私にカイニスどころかここの主人も若干引いている。
そしてカイニスは少しの間ラーメンを見つめ、フォークでラーメンを掴みあげると思いっきり啜った。
「・・・本当だな、こうした方が断然美味しいな。」
「!そうですよね!」
気持ちが一緒になったのが嬉しくて私は笑うとカイニスも私を見つめ柔らかく微笑む。
そこから私たちは話すことなくラーメンに夢中になり完食し、リリィ達の元に急いで帰らないといけないと席を立ち主人にお礼を言う。
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした。」
「いや、こちらこそいい食いっぷりを見せてもらったぜ。最初はラーメンのことなんてよく知らないお嬢ちゃんたちが興味本位で来たのかと思ったがこんなにもラーメンの事を理解しているなんて。
俺の負けだぜ・・・」
「なにを言っているのですか!あのような味を出すのは至難の業だったと思います。きっと沢山の修行をしたのでしょう!私は感動しました、ここであのようなラーメンに出会えるとは!感服です!」
私たちはそれ以上何も言わずお互いの手を強く握った後、別れを告げた。
その間、カイニスは2人が何を言っているのか全く理解できていなかったが手を握っている2人を見て少し主人に嫉妬した。
勿論、この後のラーメン屋はカイニスとシンシーリア、2人の顔面の効果でこの町一番の売り上げをたたき出したのは別の話。
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