公爵家の圧力
「すごい・・・これが建国祭なのね・・・!」
私は今、目の前にある風景に目を輝かせている。
学校の授業も無事に終わり、週末となり私たちは建国祭が行われている町に向かった。
少し前にさかのぼり、動きやすい服装に着替えて待ち合わせである校門前に向かうとそこにはすでにカイニス、リリィ、ポーテルドがいた。
カイニスはいつもより煌びやかな服装は抑えて、質素な服装で来ているが生地からして高級な服だろう。
ポーテルド様も自分の家の商品を着て来ており、リリィは聖騎士団の制服ではなく女の子らしい服装でいつものように長い髪を後ろに結んでいる。
私は一番最後に来たことを謝る。
「遅れてすみません。」
「いやいや、待ち合わせ時間より早いよ、むしろ俺たちが早く来てただけで、でも正直、シンシーリアが早めに来てくれて助かったよ。」
「?」
ポーテルドがすこしやつれているように見えるが気のせいだろうか。
実際、シンシーリアが来る前の3人の空気はすこぶる悪く、ポーテルドが空気を和ますためカイニスに話しかけても全くキャッチボールというものをしてくれなく、リリィはというといきなり割り込んできたカイニスに対して警戒心を隠していなかった。
彼女はシンシーリアを心配しての警戒だったためポーテルドもあまりきつく言えなかった。
「気にしないで。さぁ、早くいこう。」
残念ながらペペローメは別の用事があるということで一緒に町を回ることが出来ないため、私たちはカイニスが準備してくれた馬車に4人だけで乗る。
馬車の中で揺られる中、私はリリィに話しかける。
「そういえば私、リリィの私服初めて見るかも!私の誕生日パーティーの時も聖騎士団の服装で来てたし。」
「あの時はシューデン聖騎士団長もいたから挨拶もかねてあの服装で行ったんだ。」
「そうだったんだ、私服もとっても似合っててかわいいね!」
「そ、そう?」
褒められたリリィは少し頬を赤く染める。
いつもはパンツ姿なのに今日はふんわりと広がったスカートを履いている。
ウエストはリリィの細い腰を目立出せるようにきっちりしまっており、女性でも目を奪われてしまうスタイルだった。
「シンシアも相変わらず綺麗ね、白いワンピースがよく似合ってる。」
私の今日の服装はというと、羽のように軽いワンピースに腰に大きい黄色いリボンを付けた簡単な服装だった。
簡単とはいったもののワンピースの生地をよく見ると細かな刺繡が入っているため高価なものであることは変わりない。
今日もリッティが一生懸命考えてコーディネートしてくれたので文句の付け所がない仕上がりとなった。
「アハハ、ありがとう、ほら見て、この前リリィがくれたペンダント、今日もしてきたんだ。」
私は誕生日の時にリリィがくれたバラを形をしたネックレスを胸元から出して見せた。
「ありがとう、ペンダント、よく似合ってるよ。」
「あーあ、なんだか二人だけの空気になってない?俺たちも混ぜてよ」
そこでポーテルドがニヤニヤしながら割って入ってくる。
「俺もプレゼントに帽子あげたのにさー、リリアンだけずるいよ。」
「ポーテルド様からもらった帽子は今日のような人が多い日に被っていったらなくした時、見つからなそうで嫌だったんですよ。別の時に被っていきます。」
「そう?ならいいけど。楽しみにしてるよ。」
「そういえばポーテルド様は夏休みなにをされてたのですか?」
カイニスはお父様の仕事の手伝い、リリィは聖騎士団としてずっと王宮に仕えていただろうから予想はつくがポーテルドは言うならば商人の息子、家のお手伝いをするか遊んでいたかのどちらかだろう。
「ん?もちろん家の手伝いだよ、貴族の方たちに買ってもらうためにいろんな令嬢の相手をしていたよ。」
相手をしたということはデートをしたということだろうか?
ポーテルドはカイニスとは違うタイプのイケメンだ。貴族令嬢がポーテルドに現を抜かすのも仕方がないだろう。
ポーテルドはそれを逆手にとって自分の商品を勧めたということだ。
まだ子供なのに大人のようなやり方をするポーテルドを逆に尊敬する。
「さすがですね、ポーテルド様は口が上手いので貴族令嬢方から大層搾り取れたでしょう。」
「搾り取るって・・・・もう少し別の言い方ない?まぁ、そんな俺の口車に乗せられない貴族令嬢もいるんだけどね。」
「まぁ!それは強敵ですね!どこの方ですか?私の知ってる方ですか?」
するとポーテルドは大きく笑う。
私はそれにぽかんとし、リリィは呆れながら笑っている。
カイニスはというと相変わらず無表情だがこちらを見つめてくる。
「それはそうと、貴族令嬢のお茶会に何度か誘われてこんな話を聞いたんだ。」
ポーテルドはひとしきり笑った後、夏休みにあった貴族令嬢のお茶会での噂話を離してくれた。
「あの冷徹なカイニス様がいきなりシンシーリアに夢中になったのは惚れ薬を使ったからだって。」
「なにそれ、ふざけてるわね。」
リリィが怒りの表情をあらわにする。
ポーテルドが悪いわけではないのにポーテルドに怒りをぶつける。
「シンシアがそんな物使うわけないじゃない!元はと言えば婚約破棄をする予定なんだから!むしろ今のこの状況に辟易してるわよ!」
そこまでは思ってないし、本人が目の前にいるのに何たる堂々さ。
カイニスはリリィのそんな態度には気にしていないが気になるところがあったのか私の方に振り向く。
「辟易しているのか?」
「え?いや、そこまで思っていませんよ、驚いてはいますが。」
「婚約者なのだから当たり前だろう。」
どの口が言ってんだ、と思わず言ってしまいそうになり慌てて口を塞ぐ。
「いやいや、俺だってそんな物使っただなんて思ってないし、ありえないとも思っているけどまぁ暇な貴族令嬢たちからしたら二人は話題造りの格好の的ってこと。さらに最悪なことは女性ってのはどうも女性を悪く見立てたいらしい。だからこれからもシンシーリアには良くない噂が立ってしまうんだ。あまり他の貴族令嬢達を野放しにしておかない方がいいよ?」
つまりポーテルドは私がお茶会などに参加して好き勝手にしている令嬢たちに伯爵令嬢としてしっかり牽制しろ、ということらしい。
しかし私は本来、伯爵令嬢ではないため威厳というものは持ち合わせていないし、今ポーテルドから聞いた話もどうも自分の話をされているようには思えなかった。
私としてはやはり本来のシンシーリアの噂のように思えてならない。
困ったように私が顎に手を当てているとリリィがポーテルドを睨みつけながら聞く。
「それよりもあんた、ちゃんとその噂、否定したんでしょうね?」
「勿論だよ、確かにシンシーリアは変わったけどそんなこと絶対しないって。以前より美しくなったシンシーリアにカイニス様が惚れ直しただけだって。」
「惚れられてないわよ!変な噂を流すんじゃないわよ!」
良い噂を流したはずのポーテルドはリリィに襟を掴まれながら叱られ苦しそうにする。
私は慌てて二人のフォローに入る。
「分かりました!近いうちに一度私も貴族の集まりに参加しようと思います!その時にそんなでたらめな噂をしっかり否定してきます!」
なんとかリリィをなだめてポーテルドから手を放してもらう。
そうこうしていると町の中央に着き、馬車は止まる。
私はリリィの手を引っ張って賑やかな場所に向かう。
ポーテルドは安堵したように馬車から降りようとすると中から低い声で引き留められた。
「ポーテルド・グレン」
後ろを振り向くと変わらず無表情でいるはずなのに先ほどとは全く違う雰囲気を持つカイニスがいた。
「その噂を流していた者はどこの家だ。」
「・・・セントリー子爵家のご令嬢です。」
「そうか。」
カイニスはそれだけを言い馬車から降りてシンシーリア達の向かった先を追う。
一人、馬車の中に取り残されたポーテルドは冷汗が流れ、一息入れる。
「まさかそこまで惚れているとは・・・ほんと、一体どんな惚れ薬を使ったんだよ、シンシーリア・・・」
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