お久しぶり、学校
楽しかった夏休みはあっという間に終わってしまった。
マルーンイーグル聖騎士団達の稽古の元、きっちり2か月間しごかれた私はシンシーリア・レバートリーに転生して、強風でも吹いたら簡単に飛ばされそうだった体も筋肉が付いてしっかり体格も引き締まり、動きやすくなった。
むしろ前世の頃の私よりも体の動きがよいのは魔力のおかげだろうか。
夏休みの間、沢山の招待状をもらったが一度も顔を出すことをしなかった私は学校にきて久しぶりに同い年の子たちと顔を見合わせた。
夏休みが終わっても相変わらず暑さがおさまることもないため、学校指定の夏用の制服を着て登校し、
変わることなく私はリリィと行動を共にしており時にペペローメ様やポーテルド様と会話を楽しんだ。
しかし変わったことが一つだけあった。
「夏休みは終わったっていうのに相変わらず暑いですねー。」
その日も私はリリィと共に食堂でお昼ご飯を食べていた。
運動するようになってから食べる量が増え、仲良くなった食堂のおばちゃんに量を多めに頼むようになり、今日の唐揚げ定食も普通の人たちより唐揚げが多く入っているのは秘密だ。
「特にここの食堂は暑いわね、魔石の効果があまり効いてないみたい。」
リリィは額に汗を流すがその姿も絵になっている。
リリィが男だったら私はきっとタオルを渡していたに違いない。
そしたらまるで恋愛漫画のワンシーンのようだろう。
「魔石にひびが入ったらしいよ、そのせいで効果があまりないみたい。」
その隣に座っているポーテルド様も少し汗をかきながら説明する。
ポーテルド様は自分の商会の商品を貴族の方たちに紹介することも多いため、いろんな方と食事をとっている。
しかし今日は平民の食堂に来て私たちと食事をとっている。
聞くとたまには商売を抜きにして落ち着いて食べたい時もあるということらしい。
「そうなの?だからこんなに暑いのね・・・魔石はいつ交換するのかしら?」
「早くても今週中だって。」
「えぇそうなんですか!?遅すぎますよ・・・エアコンの修理なんか言えばすぐにでも直してくれるのに・・・」
「えあこん?」
聞きなれない言葉にリリィが頭をかしげる。
「・・・・え?」
うまい誤魔化しが思い浮かばなかったため私はしらを切ることにした。
「そ、そんなことより夏休みも終わって楽しいことがないですねー!
なにか楽しいことってありますか?」
リリィはまだ怪しんでいたがポーテルド様が私の質問に答えてくれる。
「そういえば来週、建国祭があるけどみんなは行くの?」
「建国祭?」
「そ、この国が出来たことを祝う建国祭。2日間行われるんだけど町の人々も年に一度の楽しみのため屋台とか広場で芸をしたり一年で一番盛り上がるんだよ、貴族の方もけっこう来てる方が多いんだ。」
思い出した!
乙女ゲームのシナリオでもあった主人公と攻略相手がその時初めてデートを行うのであった。
建国祭に行ったことがない攻略相手は町の様子に驚き、慣れている主人公に手を引っ張られるという、いつもと立場が逆転するシナリオでお姉さん心をくすぐられたのは私だけではないはず。
自分はゲームの主人公ではないため同じ気分を味わうことは出来ないがそれでもお祭りと聞くと心が躍る。
「ぜひ!行きたいです!」
この世界に来て町に行ったのはカイニスと夏休みに一度行ったきりであった。
何度か行こうと思っていたが稽古だったりこの世を知るための勉学をしたりなどで時間がなかった。
こちらに来て楽しい出来事は沢山あったが、屋台や芸など庶民的な出来事はまだ一度も出来ていなかったためぜひ味わいたい。
「ねぇリリィ一緒に行けない?」
「ちょうど今週は一日だけお休みもらえてたからその日でよければ大丈夫だよ。」
「ほんと!ポーテルド様は?」
「一日ぐらいなら空いてるよ」
「ではみんなで行きましょう!ペペローメ様も誘ったら来るかしら?」
私は今週末が来るのが待ちきれなくなった。
屋台も出ることだしお腹がいっぱいになるまで食べ尽くそう。
屋台になにが並ぶか楽しく想像していたらそこに思いがけない声がかかった。
「では馬車は私が用意する。」
「・・・・・・」
そう、夏休み明けてから変わったことが一つ。
それは学校でカイニスが一緒に行動するようになったことだ。
別のクラスでかつ生徒会長をしているため日々忙しいはずだが時間が合えば必ず私の所にやってくるようになった。
昼食の時でさえも今まで一度も使わなかったはずの食堂を利用して私たちと食事をする。
初めは自分で料理を選び、運ぶということを知らなかったカイニスは食堂のいたるところで悩み立ち止まり、周りの人たちを困らせていたため私が引っ張って教えなければならなかった。
いつもは遠巻きにしか見れなかったカイニスが近くにいるということで周りの人たちもカイニス様に近づきたくてしょうがなく見れる。
しかしカイニスは私のそばから離れないため距離が一向に近づかない、という流れだ。
リリィも初めはこの状況が一体なんなのか聞きたそうにしていたが私だって分からないものを答えられるはずもなく不服そうではあるがこの状況を受け入れたように見える。
私は驚いたように目を開いてカイニス様に質問する。
「カイニス様も来られますか?」
「あぁ、」
確か攻略相手が建国祭に行くのは主人公とが初めてのはずだ。
それにカイニスは建国祭に興味があるわけではなく、主人公と一緒にいたい、という理由で建国祭に参加するはずだ。
今年行かれてしまうとストーリーに影響が出てしまうかもしれないし、なにより主人公がいないのに楽しいはずがないだろう。
「でも(主人公がいないので)つまらないかもしれませんよ?」
「(あなたがいるのに)つまらないはずがないだろう。」
どういうことだろうか?ゲームの中ではスカして興味がないとか言っただけで本当はお祭りが好きなのだろうか?
まぁカイニスが行きたいというのであればこれ以上言うことはないため私はその日の予定を立てた。
その裏でポーテルドがリリィにこそっと話す。
「ねぇ、この二人、お互いの意図分かってないよね?」
「うーん、そんな気がする、でもいいんじゃない?シンシアがいればきっと楽しいし。」
リリィは二人の関係に特に興味がないのかサラッと答える。
周りからの視線を集めきっている完全無欠の公爵家の跡取りと貴族令嬢とは思えない行動ばかりする友人が合わさったらどんなことが起きるのか、ポーテルドは今後の行方が楽しみで仕方なかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




