喧嘩上等
庭で私とカイニスがお茶をしていたところで最初に私を屋敷に案内してくれたアルファランス家の執事がやってきた。
カイニスの隣に立ち、私に聞こえないぐらいの声で話すとカイニスが少し眉を寄せる。
「すまない、少し用事が出来た。少し待っててくれるか?」
「あ、それなら私はこれでお暇いたしますわ、カイニス様はお仕事にお戻りください。」
「それでは私が応接室まで案内いたします。おぼっちゃまはお先にお戻りに」
執事は私の話に聞く耳を持たず提案をしてきた。ここの屋敷に仕えている者はシンシーリアを馬鹿にしているのだろうか、確かにここに働いている人たちの主人といえばはカイニスの方ではあるが客人であるシンシーリアの意向を無視するのは癪に障る。
「分かった。シンシーリア、暇であれば屋敷を見て回っていてもいい。ではまた後で。」
そういうとカイニスは足早に屋敷に戻っていく。
執事はカイニスの後姿が見えなくなるまで見送るとやっと私の方を向き直る。
「それではシンシーリア・レバートリーお嬢様、応接室まで案内いたします。」
「・・・・・。」
何事もないかのように私を案内しようとするジジィに怒りどころか呆れた。
貴族どころか貴族と関わりある人間もなんと面の皮が厚いことか。
私は椅子から立ち上がらないで残っていた紅茶を飲み続ける。
「いえ、カイニス様から言われたように少しこのお屋敷を見て回ろうと思います、まだお庭を見きれていなかったので散策した後お屋敷に戻ります。執事さんはお先にお戻りくださって結構です。」
「・・・カイニスおぼっちゃまは本日のお食事をとても楽しみにしておりました。そのためにお仕事も他の日にずらされて・・・どうか最後までお付き合いください。」
「・・・・・。」
このジジィは何を言っているのだろうか、カイニスに対して怒っているのではない、ここに仕えている者たちの態度に怒っているのだ。
メイドたちからの侮蔑の視線、初めに出された渋い紅茶、シンシーリアを無視する態度、すべてカイニスが気づかない程度に私に嫌がらせてしてくる
まるで私に帰れと言っているような態度をしてくるくせにカイニスのためにここにいろだと?
矛盾しているではないか。
挙句にここのメイドたちのトップでもある野郎が自分に責がないような言い分。
前世でもいたな、あれは高校2年生の文化祭での出来ことだった。前日に文化祭でだす食料が届かないということが発生した。
発注担当は私と他数名だった。
先生と他の同じクラスの生徒に問い詰められたところ文化祭のリーダーである一人の女生徒が私たちをかばってくれたというのは表面上、実際はその女生徒が発注をするのをずっと止めていたのだ。
あまり早く発注をすると食料が腐ってしまうのではないか、置き場所がないのではないかと私たちがいくら当日までに間に合わなくなるといってもお構いなしだった。
結局発注しても当日までに間に合わないという事態に陥った際にはまるで私たち発注係に非があるような言い方をしながらかばった。
彼女はリーダーとしての役目を全うし、私たちは発注することもちゃんと出来ない役立たずというレッテルを貼られた。
私はそんな彼女の行動に呆れながら言い訳するタイミングも掴めなくただ皆に謝ることしか出来なかった。そして急いで次の日の材料を買いに向かったがリーダーである彼女は普通に家に帰っていた。
今頃彼女はどうしているだろうか、相変わらずうまく世渡りをしているだろうか、それとも誰かが彼女の偽善に気づいているだろうか、今となっては知る由もない彼女の事を思い出す。
「カイニス様に対してはなんとも思っておりません。ただアルファランス家に仕えている者たちがたった一人の客人もまともにもてなせないことに呆れていただけです。
あなたたちが私にいい印象をお持ちでないことはわかりますが私はまだカイニス様の婚約者なのですよ?
今からカイニス様の部屋に行きこのような扱いを受けたとカイニス様に伝えてもいいのですよ。」
私は立ち上がり少し狼狽しているように見える執事の前に立つ。一瞬見えたメイドたちの顔は真っ青だった。
「ただの世間知らずなお嬢様だと思って馬鹿にしてる?あんたがどれだけカイニス様のこと溺愛して大事にしているのか知らないけどこっちだって婚約者なんて願い下げなのよ。今すぐにでも婚約破棄しても構わないのだから。」
そういうと私は執事とメイドを残しティナと共にテラスを後にした。
「お嬢様!先ほどはとてもかっこよかったです!」
テラスから離れ公爵家の庭を散策しているとティナが高揚しながら話しかけてくる。
「ありがとう、ティナもごめんね、ここは居づらいよね。私がやらかしたばっかりにここに来る羽目になっちゃって・・・」
「いえ!私はお嬢様がいればどこにでもついていきますよ!」
私がシンシーリアの体に入った始めはシンシーリアの行動一つ一つにおびえていたが今ではそんなことなく言いたいことははっきり伝え、時よりこのように羨望のまなざしを向けてくる。
私はティナに地面に腰かけようと伝えるとティナはハンカチを地面に敷き私が座れるところを作ってくれた。
お礼をいい隣同士にすわり、今思えばティナの話を聞いたことがなかったのでこれを機に聞くことにした。
「ティナは伯爵家に仕えて何年?」
「3年となります。お嬢様が中等部に入るために侍女として入りました。」
「そっか、お家は?夏休みも一度も帰ってないよね?」
「私の家は平民でした。父は酒に酔い毎日私に暴力をふるい、母はそんな私を助けてくれませんでした。」
ティナはぎゅっと袖の部分をつかむ。
そういえばティナは真夏でもずっと長袖を着ている。
「この服の下には今でもその傷跡が残っております。私はそんな家族から逃げたくて一心不乱に家から飛び出しました。そんなボロボロになった私をシューデン伯爵が道端で見つけてくださり、お嬢様の侍女として雇ってくださいました。」
シンシーリアのお父様はこの国の民を守る仕事をしているためその警備をしている最中にティナを見つけたのことだ。
意識が混濁しているティナをなにも言わずに屋敷に連れて帰り手当てをしたという。
回復したティナに事情をきくとその場でレバートリー家で仕えるように言った。
そのためティナは帰る家がなく、レバートリー家に恩があり一生仕えると誓った。
「そっか、辛い思い出なのに話してくれてありがとう。」
「いえ、滅相もありません!むしろ幻滅しないのですか・・・?」
「え、なんで?」
「私は家族を、しかも私を産んでくれた親を見捨てたのです。軽蔑いたしませんか?」
「え?うーん、ダメなことなのかな?家族ってさ、どんな状況でも一緒にいなきゃいけないものなの?
産んでくれたから一緒にいるんじゃなくて、一緒にいたいから一緒にいるのが家族なんじゃない?
自分の人生の邪魔をしてくる人間なら親でもなんでも振り払っていいと思うけどなー」
ここの世界ではどうなのかわからないが私としての考えは前世から変わらない。
前も今も私は家族に恵まれているがそれは幸せなことであって普通の事ではないことを。
親と仲良くない子、親が嫌いで離れたくて上京してきた子、片親の行方が何年も知らない子など沢山いた。
しかしその子たちはそれが不幸だと思っていることのが少なく自分が決めた人生であるとむしろ生き生きしていた。
確かに家族との関係で悩んでいる子もいたがそれも悪いと思わない。
自分で悩み、自分で決めそれが後悔しない選択であるのであれば。
「ティナは今幸せじゃない?」
「そんなはずがありません!私はレバートリー家に仕えてからやっと人生に光が見えました。その前までは生きた屍のように日々父からの暴力が収まるのだけを待っていました。今以上の幸せなどあるはずがありません・・・!」
「それならなにも問題ないよ。ティナが決めてそれが幸せであるのならば。
あっ、でも一つだけ、今が一番幸せだなんて思わないで。ティナはこれからもっと幸せになるんだから。」
「・・・お嬢様は達観しておりますね、他のお嬢様とは違う、貴族でいらっしゃるのに私たち平民の目線からも見ておられるようで・・・」
「そっ、そうかな??」
ティナからの言葉にドキッとするが笑って誤魔化した。
箱入り娘である貴族のお嬢様らしくなかったということだろうか。
「私は一生、シンシーリアお嬢様についていきます。」
「アハハ、ありがとう。でも私に付いてくると逃亡者になるかもよ?」
「レバートリー伯爵家のお嬢様がそのようなことになるはずがありません。それにもしそうだとしても私も付いていきます!私なしでお嬢様が生きていけるわけありませんから!」
「そっか、じゃあその時はよろしくね。」
その後、私とティナは夕日が落ちるごろまでたわいもない話で楽しんでから屋敷に戻った。
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