これって初デートですか?
夏休みに入り数日が経ち、カイニスは涼しく快適な自室で父親の仕事を毎日手伝っている。
すると扉をノックの音が聞こえ入るように指示をするとカイニスが生まれる前からここで執事をしているセドリックが入ってきた。
髪の毛はすでに白髪となっているが背筋は衰えることなく伸びており、まだまだ現役の執事としてこの家の管理をしてくれている。
「おぼっちゃま、シンシーリア・レバートリーお嬢様からお手紙が届いております。」
中等部に入った頃から「おぼっちゃま」と呼ぶのをやめてほしいと何度か言ったが、セドリックからは「私にとっておぼっちゃまは永遠におぼっちゃまですよ。」と相手にされたことがなかったのでその呼び名でずっと呼ばれ続けている。
カイニスはセドリックから手紙を受け取り中身を取りだす。
「夏なのでシンシーリアお嬢様のお誕生日パーティの招待状でしょう。
今年もこちらでプレゼントを選んでおきましょうか?」
そう言うセドリックの声もカイニスには届いておらず、手紙を確認したと思うとまた封筒の中身を確認し、他にもなにか入ってないか隈なく探している。
「………おぼっちゃま?」
いつもなら招待状にさっと目を通し、プレゼントは全てセドリックが勝手に決めていいと告げると旦那様から頂いてる業務に入ってしまうのに今回はシンシーリアお嬢様からの手紙をずっと見ている。
手紙の内容が多いから読むのに時間がかかっているのかと思ったが手紙は一枚しか入っていなかった。
例年のシンシーリアお嬢様のお手紙はいつもおしゃれに細工されており、香水をかけられフローラルな匂いがしたが今回はそのようなことをしておらず、薄緑色のとても質素な手紙であった。
「例年のお誕生日パーティの招待状ですよね?
プレゼントはネックレスなどにしておきます。」
いつもと違うカイニスに違和感を感じながら話を進めようとするとカイニスがやっと口を開いた。
「いや…招待されなかった」
「はい?」
カイニスは一枚の手紙を離さない。
それは確かにシンシーリア・レバートリーからの手紙である。
その内容は、
「 」
白紙であった。
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私はあれからサンドリックに稽古つけてもらっており、サンドリックが勤務でいない日はレバートリー家の警護をしにきてくれる他の騎士団に稽古をつけてもらっていた。
このひと夏で私は剣の技術がだいぶ上達し、騎士団達にも普通の男性なら1人で余裕で倒せるとまで言われた。
しかし魔法の方は相変わらずダメだった。
騎士団達にも何度も教えてもらったが一向に上達しなかった。
聞くと魔力量と魔法の力が一致しない、なにか鍵をかけられていると言われた。
私が転生者で本来の体の持ち主ではないからとも思ったが騎士団達にそのような事言えるはずがなく、スランプ気味ということで言葉を濁した。
あれ以降お父様は一度も家に帰ってきていないが、騎士団達とはすっかり打ち解けることができ、休憩時間やお母様と一緒に取り、夜遅くなったら一晩泊まってから帰るように手厚く歓迎した。
するとある時、騎士団達からレバートリー家の護衛の担当になったときはご褒美だと聞き嬉しくなった。
今日も朝早くからサンドリックに稽古をつけてもらっているとレバートリー家のメイドの1人からお客様が来ていると言われた。
(誰だろう?リリィは夏休みはほとんど騎士団としての仕事があるって言ってたしあるとしたらポーテルド様かな?
新しい商品でも紹介しに来たのかな?)
身体は汗をかいていたが待たせるのも悪いと思ってひとまず広間に向かう。
すると広間にはすでにお母様がおり、私に気づくと手を振る。
「シンシアちゃん!」
お母様の近くにすらっとした男性が立っているのは気づいたが遠すぎて顔がよく見えない。
小走りで近づいてやっと男の正体がわかった。
(嘘でしょ?)
長身で程よく筋肉がついている体つき、サラサラの黒髪、健康的で肌荒れも見当たらない肌、吸い込まれそうな濃い青色の瞳。
見間違えるわけがない、シンシーリアの婚約者、カイニス・アルファランスである。
カイニスが一体何の用だろうか。
結局私はカイニスを誕生日パーティに誘わないことにした。しかし手紙を出さないとお母様にバレてしまうと思い、招待状を送ったふりをした。
きっとカイニスも例年イヤイヤ、シンシーリアの誕生日パーティに参加していたのだろうから今年は参加しなくていいという意味で手紙にはなにも書かないままカイニスに送った。
お父様とお母様にはカイニスが用事があってどうしても来れなくなったと誤魔化せばいいと思っていた。
すでに1年後に婚約破棄をするということはカイニスも承知の上である。
私の手紙の意図も読み解いてくれるだろうと思ったのだが違ったのだろうか。
今の私が汗だくなのを思い出し、匂わないか気にしつつカイニスとお母様の元に向かう。
「お久しぶりです。アル…カイニス様。
今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「先日頂いた誕生日パーティの招待状の件で、残念だが私はその日外せない用事でどうしても行けないのです。ですから本日、2人でお祝いをしたく伺いました。」
あの手紙でどうしてそのような解釈をしたのだろうか。
カイニスの顔を窺ったがやはり無表情で何を考えているのかわからない。
「いえ、けっこ…
「よかったじゃない!シンシアちゃん!
夏休みなってから一度もカイニス様に会えていなかったのでしょ?楽しんできてらっしゃい!」
私が断ろうとする前にお母様が口を挟んでくる。
「いえ、でも私今すごく汗かいておりまして準備に時間がかかってしまいますよ」
「問題ない。何時間でも待つ。」
カイニスまでもがこう言ってしまってはもう断ることは出来ない。後は絶たれてしまった。
私は少々お待ちくださいと告げると急いで部屋に戻り体を流して出かける準備をする。
お母様がいる中でカイニスを待たせることなどできるわけもなく、私は急いで準備したためせっかく体を流したのにまた汗が流れた。
カイニスが乗ってきた馬車にエスコートされつつ中に入って数十分、私たちは今町に向かってる。
侍女のティナや警護のためについてきている騎士団は違う馬車に乗って後ろから私たちの馬車を追いかける。
カイニスと2人きりの馬車の中は夏なのにとても涼しく快適であった。
(なんでこんなに涼しいんだろ?普通密閉してるんだからサウナみたいにならないのだろうか?)
寮から家に帰っている時の馬車もそうだったがまるでエアコンがついているかのように涼しかったのを憶えている。
私がその原因を見つけるべくキョロキョロしているとカイニスが声をかけてくる。
「なにをしている?」
「あ、いや、外は暑いのにここの中が涼しいので何でかなと思い…」
するとカイニスは馬車の天井を指さす。そこには青色の宝石が組み込まれている。
「氷の魔法石を組み込んでいる。夏だから涼しくなる程度に設定している。」
前世のようにエアコンなどのような機械をみかけることが少ないのは魔法による力で補えているからなのだろう。
私は綺麗に輝いている魔法石をマジマジと見つめた。
あれ一つでいくらぐらいするのか気になった。
「あなたの家の馬車は天井に魔法石を組み込んではいないのか?足元か?」
自分の馬車と違う所に興味を示したと思ったのか的外れな質問を投げかけてくる。
「え?あぁ、そうですね、私の家の馬車と違くて気づきませんでした、アハハ…」
これ以上深掘りしないで欲しく適当に誤魔化し場を濁した。
またお互い沈黙となりこのまま何もせずただ座っているのは気まずいため、扉についているカーテンを開け窓の外の景色を眺め気を紛らわす。
「町に行く際だが、家名で呼ぶのは避けてもらいたい」
「なぜですか?」
「……。私たちは婚約者だ。距離のある呼び方だと周りのもの達が勘付き、良くない噂が立つかもしれん。」
「なるほど。じゃあ仲がいいアピールでもしときますか。ダーリンとハニーとかどうですか?」
ふざけて冗談を言い空気を和ませようとしたがカイニスは至って真面目に考えると、真剣にこちらを見つめる。
「わかった」
「………………冗談ですよ」
本物の貴族相手、ましてや冗談とは縁がないようなカイニスに言うものではなかったと反省する。
お互いの名前は普通にカイニス、シンシーリアと呼ぶように決定した。
いつも読んでいただきありがとうございます。




