悩んでたのに時間置くとどうでも良くなることってあるよね
夏休みに入り数日が経った。
私は今日も自室の机で頭を唸らせている。
机は窓側に置かれているためレバートリー家のお庭が一望できる。
(カイニスをパーティに招待かぁ。
婚約破棄することはまだ両親には伝えられないからカイニスを誘わないことは不思議に思うよなぁ、でも来てもらっても話すことないし気まずいし…というかそもそもシンシーリアの誕生日パーティに彼は参加したのだろうか?)
すでにリリィとポーテルドとペペローメの3人には招待状を出し終わっているがカイニスにはまだ出さないでいる。
「ねぇ、ティナ、去年の誕生日ってどんなふうにしたっけ?」
ティナは私の紅茶が冷えていると新しい紅茶を淹れている最中だった。
「お嬢様のお誕生日パーティですか。それはとても素敵なものでしたよ。お友達を何十人もお呼びになり豪華なプレゼントをいくつも頂き、私達も料理や装飾によりに腕をかけました。」
「そう、えっとアルファランス様はどうだったっけ?覚えてなくて…」
「お嬢様…アルファランス家の御子息様のことは旦那様と奥様に言わないのですか?」
ティナは学校でも授業中以外はずっと私のそばにおり、もちろんカイニスとのやり取りの時にもそばにいたので1年後に婚約破棄をすることを知ってる。
ティナはずっとシンシーリアとカイニスの関係を心配していたらしい。
私が婚約破棄を伝えた際、ティナは慌てるどころか賛成してくれた。
「私はアルファランス家の御子息様とのご決断よろしかったと思います。私はお嬢様がお幸せになることが一番の幸せです。お嬢様はまだまだお若いのですからゆっくり考えてもよろしいかと思います。」
「ありがとう、ティナ。私もティナには幸せになって欲しいわ。」
「お嬢様……」
ティナは感動したのか目に涙を浮かべている。
そんな空気が恥ずかしくなったので話を戻すことにした。
「それで、去年のアルファランス様の様子ってどんなだったかしら?」
「アルファランス家の御子息様はパーティに遅れて参加をされお嬢様にプレゼントを渡したらすぐお帰りになりました。」
一応婚約者として誕生日パーティには出席したのか。
しかし相変わらず素っ気なく誕生日パーティに参加することなくさっさと帰ってしまうとのこと。
カイニスから来年もらったプレゼントを見ると毎年宝石で作られたアクセサリーだった。
(これもきっとカイニスが選んだんじゃないんだろうな。)
大切に保管されてたアクセサリーを片付けて一度リフレッシュしようと部屋を出る。
部屋から出て庭でも見ようと階段を降りようと歩いてるところ玄関から大声が聞こえた。
「嫌だぁぁぁぁ!
久々に家族が揃ったんだ!休暇申請は出してんだ!休ませろおおお!!!」
「何言ってんですか!あんな休暇申請受理されてるわけないでしょう!!
何ですか、親子水入らずで過ごすため二ヶ月間休暇なんて!長すぎます!
もう十分お休みされましたでしょう!
さぁ早く行きますよ!!」
お父様が柱にしがみつきお父様の部下っぽい人々のうち1人がお父様の足を引っ張って引き剥がそうとしている。
周りの人々はよく見る風景なのか特に慌てることもなく、お母様はというと扇子で口元を隠しながら笑っている。
馴染みのある雰囲気の中、私だけついていけない。
私はお父様を引っ張っている茶髪でキリッとした顔立ちの青年を指さしティナに尋ねる。
「ティナ、お父様を引っ張っている方は誰?」
「あの方はサンドリック・ルモエア聖騎士です。
マルーンイーグル聖騎士団の聖騎士、つまり旦那様の部下でございます。」
マルーンイーグル聖騎士団は4つある騎士団の中の一つ、主に国民を守るため町の至る所まで警備するのが仕事だ。
栗色の騎士隊服の左胸に名前の通りわしの絵が描かれている。
「そうなんだ…
って、え⁈お父様って聖騎士なの⁈」
私の大声に気づいたのかお父様が私を見つけまたまた大きな声を出す。
「シンシアちゃん!!
聞いてくれよ!部下がしっかりしてないせいで家族水入らずの時間を邪魔しようとしてるんだ!」
「騎士団長しかできない仕事が溜まってるんですよ!」
「そんなもの副団長にでもやらせとけ!権限は渡してある!というか今渡した!
シンシアちゃんからも言ってくれ!お父様を取らないでって!!」
お父様が聖騎士団などころかその1番トップ、騎士団長ということに驚きを隠せない。
(家では親バカな一面しか見てなかったから全くわからなかった!)
私がただ黙ってその風景を見てるとお父様を引っ張っている男性、サンドリックがこちらをぎろりと睨みつけてきたがそれも一瞬のこと、他の仲間たちにも協力してもらいやっとのことで柱から引き剥がせたお父様を馬車にいれ連行していった。
一連の騒ぎが終わった後、私は上の空のまま庭を散歩していた。
すると1人の男が近づいてくる。
見ると先ほど私を睨んだサンドリック聖騎士だった。
「シューデン騎士団長から本日お嬢様を護衛するように仰せ仕りました。サンドリック・ルモエアと申します。」
家の中にいるのに護衛など必要だろうか、相変わらず過保護だなと思いつつサンドリックに話しかける。
「ありがとうございます。サンドリック聖騎士はなんの魔法が使えるのですか?」
サンドリックは少し驚いた様子だがすぐ表情を戻す。
「風魔法です。」
「そうなんですね!リリィと一緒ですね!」
「リリィとはどなたの事をおっしゃっているのでしょう?」
「リリアン・バルトラです。ホワイトローズ騎士団の見習い騎士をしています。ご存知ですか?」
「えぇ、存じております。彼女の剣技と魔法の才能は群を抜いております。私達、聖騎士でさえ敵わないものもおるかもしれません。歴代稀にみる聖騎士になるでしょう。」
「そうなんですね!さすがリリィ!」
リリィが褒められると自分のことのような嬉しくなった。
ニコニコしながら庭を眺めているとサンドリックが何やら言いたそうな顔でこちらを見ている。
「…なにか?」
「いえ、失礼ながらお嬢様がリリアン・バルトラと仲が良いわけがないと思っておりまして。」
「なぜ?」
「彼女はその、平民ですから…」
夏休み前のパーティでもリリィが言っていたがシンシーリアは平民に対して壁を作っていた。
平民に対して良くも悪くも何もしなかった。
居ないもののように扱い視野に入れようともしなかった。
シンシーリアはきっと平民の聖騎士団に対しても同じように扱ったのだろう。
サンドリックがどこか私に対して冷たいと思ったのもそれが理由だ。
国民を守る聖騎士団のトップである父親を持つ子供が、平民を視野に入れていないとなるときっとシンシーリアはマルーンイーグル騎士団からいい印象を持たれていないだろう。
しょうがないな、と思いつつ今後は度々我が家に来るであろうマルーンイーグル騎士団に親切にしていこうと思った。
「………そういうの気にしなくなっただけです!
今まで失礼な態度をとってしまいごめんなさい。」
ペコリと頭を下げるとサンドリックは「私が団長に怒られてしまいます」と慌てはためいており私は笑ってしまった。
その姿をぽかんとみるサンドリック。
「そうだ!今日一日私の護衛ということなら私の稽古相手をしてくれない?」
「け、稽古ですか?」
「えぇ、ちょっと待ってて!」
そういい、サンドリックを置いてけぼりにして一度家に入り私は動きやすい格好に着替えてきた。
「ちょうどだし、私の剣の稽古してくれない?
いつもリリィが教えてくれてたんだけど夏休みに入って1人でやってたから。」
私は白いパンツに風通しの良いシャツに着替えて戻ってきた。
手には細くできた剣、レイピアを持ってきた。
錆などどこにもなく綺麗なシルバー色で鍔には細かく赤い宝石が彫り込まれてある。
手をかける場所は飴細工のようなリングがつけられている。
シンシーリアの部屋の片隅に埃がたかっていたのを見つけて夏休みの間、このレイピアで稽古をしていたためすっかり愛着が湧いた。
「レイピアですか、お嬢様持てるのですね…」
「?何言ってるの?」
どんだけか弱い女の子だと思われているのだろうか。
いつも荷物などは侍女のティナが持っているため剣など持てないと思われていたということだろうか。
「いえ、しかしシューデン騎士団長はこのこと知っているのですか?お嬢様が稽古していることを…」
「えぇ、ちなみにこのレイピアはお父様が護身用としてくれたのよ。だから大丈夫」
シンシーリアが中等部に入った際、心配性であったシンシーリアのお父様が護身用としてレイピアを渡したがシンシーリアは一度も触れることなくずっと片隅に置物のように置いといていた、とレイピアを見つけた時ティナから聞いた。
護身用としてくれたのであれど使い方がわからなければ使えない。そのために稽古をしてもらっているといえばお父様もお母様も納得してくれるだろう。
そこから夕方になるまでサンドリックとの稽古は続いた。
ティナが淹れてくれた冷たいお茶を飲み何度か休憩したもののすぐに稽古に戻るというのを繰り返した。
サンドリックはやはり実践があるためリリィから教わる基礎というよりも実践をイメージした稽古内容であった。
そんな庭の様子に気づいたのかお母様が日傘を差しつつ、メイドたちにテーブルと椅子を持って来させ遠くからちょこんと見守ってきた。
お母様が来たのに遅れながら気づき一緒に休憩を取ったりもしたが、私が稽古をつけてもらってることに怒ることはせず、むしろ休憩から稽古に戻るときに「頑張ってね」と声をかけきてくれたぐらいだった。
ティナから夕飯の時間と言われやっとサンドリックとの稽古が終わった。
私はすでにクタクタで汗まみれだったがサンドリックは汗ひとつかいていない。
「やっぱりサンドリック様は体力がありますね、長い間稽古をしてましたのに汗もかいてないなんて」
「いえ、そんなことありません。私は顔に汗が出ないだけです。服はびしょびしょですよ」
サンドリックが後姿を見せると背中は汗でびっしょりで服の色が変わっていた。
私たち2人は疲れ切っていたのかそんなことで笑い合った。
「今日はありがとうございました。
もし嫌でなければまた稽古をつけてくださいませんか?」
「嫌なわけありません。私なんかで良ければこれからもお嬢様にお付き合いいたします。」
「約束ですよ」
私はサンドリックに小指をつきだす。
「これはなんですか?」
こちらには指切りというものがないらしい。
私は簡単に説明するとサンドリックは理解したのか私と同じように小指をだし、指切りを交わした。
夕飯の前にベタベタの体を洗い流し、急いでダイニングルームに向かった。
お父様は朝から連れていかれたまま帰ってきていなかった。
お母様と女子トークを楽しみつつ美味しく夕食をいただいた後、私は自分の部屋のベッドにダイブする。
体は疲れ切っており目を閉じるとすぐに眠りにつきそうだったがカイニスへの招待状を書いてないことを思い出し疲れ切っている体を無理やり起こした。
机に着き、またカイニスへの招待文を考えようとしたが頭が全く動かなかった。
私は考えるのをやめ、自分の気持ちを正直に込めた手紙を送ることにした。
カイニスの名前を書き、ティナにその手紙を渡すとまたベッドにもダイブし、いつの間にか深い眠りについていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。




