レバートリー家
地獄の3日間の補習も終わり私は無事夏休みに入ることができた。
馬車に揺られティナと一緒にシンシーリアの両親が住んでいるレバートリー家に帰っている最中だ。
高橋 果奈としてのシンシーリアは両親に会うのは2回目である。
長い間馬車に揺られ、少し疲れながらもやっと家が見えてきた。
赤茶色のレンガで作られた大きなお屋敷で小さな窓がいくつも張られている。
お庭には沢山の赤い花がバランスよく植えられておりとても綺麗だった。
火魔法の一家だから少しでも魔力が増えるようにという願掛けみたいなものだろうか。
荷物をティナに持ってもらいお屋敷の中に入る。
「おかえり!愛しのシンシーリア!全然会えなくってお父さんは悲しかったよ!」
赤茶色の髪を一つに後ろでしばってあり、髭は綺麗に整えられてある。
睨みつけているような小さい黒目をもつ一見怖そうな顔つきのシンシーリアの父親が我が子にしか見せないだらしない顔で出迎える。
「シンシアちゃん!おかえりなさい!長旅で疲れたでしょう?お茶でも飲んでゆっくりして!」
こちらも真っ赤な髪で切長の目をもち一目で綺麗とわかる女性が私に抱きついて頬にキスを大量にする。
言うまでもなくこちらはシンシーリアの母親である。
「ただいま、お父様、お母様……」
熱烈なお迎えに若干引かざるを得ない。
「いいなぁ!お父さんもシンシアにおかえりのチューがしたいよ!」
(やめてもらいたい)
慣れないキスにひきつった笑顔をしつつ、ハンカチで頬をぬぐうように拭く。
「暑かったので汗をかいておりますので今はやめといたほうがよろしいですわ」
「なに?シンシアちゃんの汗なんてご褒美じゃないか!」
断れることもできなく父親からのキスを受け入れることになった。
ここにきて初めて知ったがシンシーリアの両親は親バカだったらしい。
一人娘のシンシーリアが何をしても可愛いらしく欲しいものはなんでも与え甘やかして生きてきた。
(カイニスルートのシンシーリアが平民落ちされただけで済んだのもこの親のお陰だろう)
他2人のルートの際は動くことも容易ではなくてもカイニスに婚約破棄された時はきっと裏で頭を下げたりと一生懸命動いてくれたに違いない。
そんなことしてしまったら2人のイメージが貴族の中で悪くなることは私でもわかる。
そんな親を持つシンシーリアは幸せ者だったと思うし、実の親でなくても2人にそんな悲痛な未来を背負わさないと誓う。
2人に居間に連れて行かれると止まることのないトークにお茶を飲む時間さえ与えてくれなかった。
何時間にも及ぶトークからも解放された私は自分の部屋に向かった。
シンシーリアの部屋は整理整頓がされてさっぱりとされている。大きな天蓋付きのベッドが部屋の四分の一を占領し、その反対にはフカフカのソファに大理石でできたテーブルが前に置かれている。
カーペットもカーテンもソファもベッドも全体的に青く統一されていた。
ある人の瞳の色をイメージしているのがわかるような部屋に少し呆れた。
(ここまで執着するなんて)
私は大きめな机の席に着き一息つく。
机には何冊かの難しい本が置いてある中で一つ外装がキラキラと光り、見る角度で色が変わる本を見つける。
パラパラとめくると中身はお姫様と勇者が出てくるお伽話の絵本だった。
内容はとてもありきたりだった。
1人のお姫様が悪いものに連れて行かれ幽閉されているところを1人の勇者が助け、のちに2人は結婚する。
私はパタリと本を閉じ、夕ご飯の時間になるまでベッドの上でしばらく眠った。
「そういえばシンシア、今年のパーティはどうするの?」
夕食の時間となりメインのステーキを食べているところ私の目の前に座っているお父様が話しかける。
「パーティとは?」
口に運ぼうとしてたお肉はフォークから落ち、私は口を開いたままの恥ずかしい姿を見せる。
しかしそんな私に両親は何も言わない。
「シンシアちゃんのお誕生日会よ、今年は誰を呼ぶのかしら?」
シンシーリアは夏生まれだったのか、しかし困ったものだ。
私はシンシーリアの記憶を持ってない、去年シンシーリアがどんな誕生日会をしたのか、誰を呼んだのかなど全く知らない。
ティナに言って去年がどういった催しだったなど、誰を呼んだのかさりげなく聞けば教えてくれると思うが私はシンシーリアの真似をしたいわけでは無い。
シンシーリアではあるが本来のシンシーリアとして生きようなどこれっぽっちも思ってない。
うーむ、と少し悩んでやはりこれしかないなと思った。
「今年は少ない人数でやろうと思います。
お父様とお母様、私のお友達数名を呼んでパーティを行いたいと思います。
1人はリリィと言ってホワイトローズ聖騎士団の見習い騎士です。もう1人はポーテルド様、商家の生まれで面白い話をいつもしてくださいます。そしてペペローメ様、困ってる私をいつも助けてくださるんです。」
前世の頃もやっていた。
家族では母親が作ってくれたご飯にいつも帰りが遅い父親がその日は定時で上がり、その途中で買ってきてくれたケーキでお祝いをした。
友人たちとはお菓子などを大量に買ってワンホールのケーキを直接食べてくだらない会話をする。
そんな些細だけど大事な1日となるのが私にとっての誕生日というものだ。
仲良く無い人たちに祝ってもらって盛大にすることなどない。
2人は一度お互いの顔を見つめ、私の方を再度見つめる。
ゆっくりとお父様が話す。
「…シンシアがそれでいいならお父さんは何も言わないよ。」
「えぇ、とっても楽しいパーティになりそうだわ。だけどシンシアちゃん、1人足りないわよ。」
「はい?」
お母様がニコニコとこちらを見つめる。
「婚約者のカイニス様。もちろん呼ぶわよね?」
「あ、」
忘れてた。
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