6. カラ
ごうごう。
向こうで、誰かがすすり泣いている。
ごうごう。
目の前で、狂ったように何かを叫びながら、瓦礫に手を伸ばす人がいる。
ごうごうごう。
あちらこちらで上がる火の手。
炎の勢いは、未だ衰えず。
ごろん、と何かが転がってきた。
それを目にして。
それが何かを認識して。
そこで、はじめて理解した。
これは、ゲームじゃない。
物語の世界じゃない。
これは、現実である、と。
真の意味で。
身をもって。
やっと、理解したのだ。
♢♢♢
私たちを襲ったのは、元冒険者からなる盗賊集団らしかった。
我々3人は罪人よろしく縄で繋がれ、歩かされている。
しかも、どうやら襲った理由、特になし。
イライラしていたら、そこに人がいたんで殴りましたレベル。
そんな無差別に人を攻撃する奴らだというのに、強いなんて反則だろう。
キーは神殿総本山で小隊長を務める聖騎士だ。
弱いわけがない。
聖騎士が剣をふるうのは魔物相手。
対人戦闘は戒律により許可されていない。
それは旅に出る前に聞いていた。
それでも正当防衛は認められているし、そんなに簡単に倒せる人物ではないはずだ。
そのキーに気配を悟らせず、パーティにおいてヒーラーポジションのセイを一撃で昏倒させた。
そして、キーを赤子の手をひねるようにポイッ。
戦闘力が高く、通り魔をするような人たちを野放しにしたら…ダメだろう。
セイとキーによると、ファンタジー設定でよくあるように、冒険者はギルドにより管理されている。
一攫千金を狙える職業。
名誉や権力といったものにも手が届く。
さらに、身分を問わない。
なろうと思えば、誰もが冒険者になれる。
だが、ギルドの管理は厳しく、決して甘い世界ではない。
だというのに、夢を見る者も少なくはないのだ。
さて、そんな冒険者だが。
各国の法律とは別に、世界共通のギルド法により管理されている。
それも魔術による徹底管理。
記録魔術によって、ギルド法に反する行為をしてしまえば隠すことは不可能。
秒でギルド本部にバレるという。
そして、その罰は重いもの。
ちょっとした違反でも、すぐに冒険者の資格剥奪。
資格がなくなると、ギルドの管理からは外れる。
しかしながら、今度は別の制約が付く。
管理されていなくとも、本人の首に証が残るのだ。
資格剥奪を示す刺青が。
魔術によって彫られているため、自力では消すことができない。
一目で違反してクビになったことがわかるなんて人権もくそもないが、こちらでは問題にならないようだ。
だが、このおかげで襲撃者が元冒険者であることがわかった。
まずい。
歩かされているうちに気がついた。
ところどころにある小屋に見覚えがありすぎる。
なんといっても、さっき通って来たばかり。
これ、カラの村に向かっているんじゃないか?!
じりじり、と焦りがつのる。
土地鑑のある2人は、とっくに気がついていたようだ。
真っ青になって、何とか縄を切れないか緩められないか、と隙を伺っている。
しかし、縄抜けしようにも隙を見せない。
些細な挙動も見咎められる。
正当防衛は許されていても、できる限り対人戦闘を避けたいのが聖職者というもの。
だが、こんなにも村を襲う気満々であれば、おとなしく捕まってなどいられない。
最終的に、強硬手段に出た。
魔術で縄を切り、セイとキーで突撃。
ちなみに。
私は浄化以外、全く役に立たないので縄に繋がれたままだった。
縄をとくほうが危ないとのこと。
しかしながら、やはり盗賊集団は強かった。
最初に襲われたときは、無力化を目的とした攻撃だったようで2人とも軽傷だった。
私にいたっては、無傷。
短剣を突きつけられただけだったから。
だが、今回はダメだった。
反抗しないよう、完全にボコボコにされたのである。
2人とも、あちこち殴られ、手足の骨を折られ、道中に打ち捨てられた。
すでに動けない状態だというのに、ご丁寧に監禁用の結界魔術まで使う徹底ぶり。
その間、私は見ているだけだった。
見ていることしか、できなかった。
彼ら2人の、縄をとくほうが危ないという判断は正しく、私のみ無傷のまま村へ連れて行かれたのである。
♢♢♢
そして、いま。
ここには、地獄がひろがっている。
彼らの視界に入った村人は、容赦なく斬り捨てられた。
腕に自信があったであろう者も、奮闘むなしく散っていった。
家の戸や窓を壊され、金目のものは奪われた。
家屋は、いたずらに魔術で吹っ飛ばされたり、火をつけられたり。
そんな状況でも、私は何もできなかった。
目の前で消える命を、見ているだけ。
自分も同じ運命を辿ることになるのかと震えながら。
目を開いていることが精一杯だった。
最低かもしれないが、盗賊集団が私を殺さず、かつ村に放置して去って行ったとき、安堵した。
縄で拘束されたままではあったが、それでも助かったと思った。
そして、周囲を気にする余裕が戻ってきても、相変わらず動くことなどできなかった。
茫然と立ち尽くすだけ。
もしや、悪夢を見ているのではないか?
そんな気分だったのだ。
それほど、村は酷い状態だった。
ごうごうと燃え盛る火。
壊され、瓦礫の山となった家屋。
そこらで倒れている村人たち。
すでに息がない者も多い。
そんな中、1人の男が叫び声をあげながら、右足を引きずりつつ、倒壊した家屋に近づいていく。
足だけではない。
頭からも大量に血を流している。
しかし、自身の怪我に気をつかう様子はない。
やがて家屋に到着した彼は、必死で瓦礫の山をかき分けた。
ひとつ瓦礫を掴んでは投げ、またひとつ掴んでは投げる。
何かを叫びながら。
ひとつ、こちらに転がってきたものがある。
ありふれた容器。
木の板の蓋。
投げられた衝撃のためか、少し蓋がずれた。
微かに銀杏の匂いが漂う。
昨夜、見たもの。
それは、甕だった。
そして、男が狂ったように叫び続ける、言葉。
その、意味。
それが、人の名前だと気がついてしまった。
彼は妻と子の名を呼んでいる。
その名には覚えがあった。
昨日、会ったから。
「コクト!!
どこだ、返事をしてくれ!!」
意志を宿した黒い瞳。
研究について、あつく語る様子。
これからが楽しみな未来ある少年。
少年の姿が、フラッシュのように脳裏に浮かんで消えた。
その瞬間は。
それは、立っていられないほどの衝撃だった。
突然、濁流にのみこまれたような。
私の頭は。
いま、ようやく。
全てを現実として理解した。
いつまでも。
いつまでも。
子の名を呼び続ける男の声が、耳から離れなかった。
甕から目をそらすことも、できなかった。
だんだん視界がぼやけてきても。
目から溢れるものが、とめどなく頰を濡らしても。
私の耳は男の声を拾い、目は甕を捉え続けていた。
最初は、5・6話完結の話にしようと思っていました。
無理でした。
この時点で、書きたいテーマのさわりしか触れられてません。
それで、20話以内で完結できればと予定を立てました。
無理でした。
ということで。
24話完結となります…。




