第一章 ⑤
「身体が臭い」
3時間ばかり下水道の中を歩き続けた麗菜と貴樹。身体からは思わず鼻が曲がりそうな匂いを発していた。自分の身体の匂いを嗅ぎながら、家に連絡を入れたいと貴樹は思う。
しかし、麗菜の行動によって視界が止まる。
「ちょ! ちょっと!?」
スッと自然に腕を組まれ動揺する貴樹。顔が見えない麗菜に動揺の声を上げた。だが、女性とは思えない力でグイグイと貴樹は引っ張って行く麗菜。その先を見て、貴樹はさらに動揺する。貴樹達が歩いているのは裏通り。道を1つ違えば、人通りが多く飲み屋の多い通りになる。その裏通りに洋風なお城が建っていた。
「え? ナニ!?」
「……」
麗菜は視線を下げたままである。表情が読めない。貴樹は動揺したまま、初のラブホテルへと入ってしまった。
ロビーに入ると人が受付をしている訳では無く、部屋の内観とボタンが設置している。
それを迷いもなく麗菜がボタンを押した。
『愛と罰のSM部屋』そう書かれた部屋を。
2人はそのまま、目的の部屋へと向かう。途中階段に晴天人形が置かれていたのを麗菜が拾う。その行為をラブホテル……女の子と腕を組んで歩く行為自体が初めての貴樹はそれが当たり前なのか? っと絶賛混乱中だった。
その晴天人形を部屋のドアノブに括り付けて、2人は部屋へと入って行った。
「シャワーを浴びてくるわね」
そう言って、シャワー室へと向かった麗菜。言葉使いと麗菜の発する雰囲気から安全なのだと感じた。しかし、貴樹は立ち尽くして、呆然とし、緊張で身体がガチガチだった。部屋の中は、貴樹にとってカオスだった。人が5人は寝れる大きなベット。これは、貴樹にも分かる。しかし、人の頭の少し上に手首を括り付ける為なのか手錠が吊るしてあり、木製の馬が部屋の中央に置いてあった。ウロウロと熊の様に何度も歩いて部屋を往復する。
(落ち着け!! 落ち着け俺!!)
取りあえず、気持ちを切り替えようとソファーに座り、テレビのスイッチを入れた。すると、貴樹の知っているバラエティーなどではなく、茶の間で流れれば家族全員が気まずい雰囲気になる様なアダルトな映像が大音量で流れた。
(ええ~!? こんなんテレビでやってたっけ!?)
大慌てで、貴樹はテレビのスイッチを切り、シャワー室を見る。麗菜は気付いていないらしく出て来ない。ゴクっと唾を呑み込む。
「ちょ……ちょっとくらい大丈夫だよな」
音量を小さくして貴樹はそれを見入る。興味深々な年頃なのだ。仕方ないんだ。そう思いながら。部屋で家族が寝入った後に部屋でヘッドホンを付けて見る時の今、入って来られたら死ねる、時の様な興奮があると思う。
少しの間、見入っているっと突然、後ろから抱きしめられる。心臓が大きく跳ねた。少しの期待はあったが、いざこの状況になるとビビってしまう。
「で、出会ったばかりなのに?」
そう言った後も貴樹の胸板、太ももっと手がさすられていく。視線はテレビから離れられ無い。今の自分の顔は真っ赤だと見なくても分かり、相手の顔を見られない。そして、耳たぶを軽く噛まれ、ブルっと身体が震えた。
そうなると先人の有り難い言葉が頭を過ぎる。
いつやるの? いまでしょ!! っと。
「ちょ、ちょっと待って!! キスからだろ!?」
初めはキスじゃ無いのか? っと童貞の覚悟の出来た、貴樹は妙に順序に拘り、勢い良く振り向いて、相手の肩を掴んだ。
だが、
肩を掴まれた相手は麗菜では無い。むしろ女でも無い。全く知らないおっさんの顔が真近に迫り、黒髪の長い髪を後ろで縛り、油ぎったデコが見える。そのおっさんはあろうことか口を蛸にし、目を瞑っていた。あまりの事に一瞬思考が止まってしまい、一拍おいて、声が出る。
「ぎゃ~~~~~~!!」っと。
ほぼ同時にシャワー室の扉が勢い良く開かれる。
布1つ纏わない、均整の取れた(胸は小さい)裸体のまま、麗菜がシャワー室から飛び出す。裸体もあり、その手に構えられた銃もあり、貴樹は再び叫ぶ。
「きゃ~~~~~~!!」っと。
おっさんは両手を上げて、溜め息と共に麗菜に言う。
「ホワイトモンキー、人を呼んでおいて、銃を向けるって、どう言う事なの?」
銃を構えたまま、麗菜が言った。
「……私にホワイトモンキーと言うのは止めろと何度言わす」
静かに、しかし、明らかに怒気の含んだ声音。裸体と構えられた銃、さらに麗菜のその瞳を貴樹は直視出来ずに視線を逸らす。自分の精神がもう少し弱ければ、おしっこをもらしていたっと思いながら。
目の前のおっさんには、麗菜の放つ恐怖も関係無いのか、両手を上げたまま、立ち上がる。
「じゃあ、ジャップでいいのかしら? ……で? いつまで銃を向けるの? 私は客人よ?」
「客人なら客人らしく振舞え、チャンコロ。アブノーマルな趣味もいいが、私に迷惑を掛けるな。豚」
自分の腹に視線を向けて、
「あら、口の悪い女」
正面に立っていた貴樹が顔を見ると少しへこんだ様に見えた。どうやら気にしている様である。
「私の性別とこの血を馬鹿にするのは許さないっと前に言ったはずだろ? あ?」
おっさんの後頭部に銃口を押し付けた。
「はいはい。分かったわ。このくらいでいいでしょ?」
言って、振り返る。
「ちょっと、汚い裸を見せないでくれる。汚らわしい」
麗菜の身体が汚い? っと思う貴樹。そんな訳が無いだろうっと思わず視線を向けて、明るい場所で見た麗菜の身体は貴樹が恥ずかしがる事を忘れるくらい傷だらけだった。そう、今日や昨日出来た傷では無い傷が。唾を呑む貴樹。その貴樹に一瞬視線を向けた麗菜。
「コレは私の誇りだ」
そう言う。傷が誇りになる理由が貴樹には分からない。もっと聞きたいっと思ってしまう。しかし、おっさんは興味が無かったのか話しを変える。
「ちょっと有名人の身体に興味があったのよ」
そう言って、貴樹に視線を向けた。貴樹は「俺?」っと自分を指さして、目を丸くした。




