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Speed Runaway  作者: バベル
第一章指名手配
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第一章③

2人は先頭の車が見える場所まで移動する。貴樹は心臓が破裂しそうだった。少なくとも数人がこの付近で自分達を探しているからだ。いつ鉢合わせしてもおかしくない。

 (どうした? 顔が引きつっているぞ……楽しめ)

 小さく抑制の無い声で、そんな事を言われ、さらに顔を引きつらせる貴樹。どこに楽しめる要素があるんだと呟いて。

「ここで待っていろ」と言われ、従う以外に方法が無く待っていた。一瞬だけ置いていかれるかもっと思ったが黙っていた。分からなかったからだ。あの先の車に乗っている人達が自分を害そうとしているのかが。先は恐怖心と疑問で頭がいっぱいになっていたが、自分に向けて撃たれたと思った銃音は相手が麗菜に撃った。すると、自分の方が悪に付いて行っているのではと思ったからだ。それでも、付いて行けるなら行くしかないとも思っていた。彼女との行動を少しでもしてしまっている限り自分も彼女の仲間と思われる可能性が高い気がしたからだ。

 貴樹には自身の安全を守るべき方法も正義も分からない。

 1つだけ分かっているのは『分からない』事だけだった。

 低姿勢を維持し先頭の車に近づく麗菜。 そこからは一瞬の出来事だった。車に残っていた者達は自身が襲われるなど、全く考えていなかったのだろう。突然開けられたドアに驚き顔を向けると銃を額に押し付けられ、麗菜の怒声に慌てて、飛び降りる。素早く乗り込んだ麗菜が車を少し斜めに前進させ、貴樹を拾う。助手席に乗ったと同時に銃声が響く。

「――――ッヒ!!」

「貴樹落ち着け、上等な防弾ガラスが付いてるぞ」

 言って、窓をコンコンと叩く麗菜。それに貴樹は怯えを交えた声で叫ぶ。

「良いから!早く出してくれ!!」

「オーライ!!」

 返事と共にアクセルが思いっきり踏み込まれた。シートに身体がのめり込んだと思える程の衝撃。息が詰まりそうになったが、貴樹の目の前にさらに大きな恐怖が目に入る。後ろから追いかけている車とは別のグループらしき車3台が貴樹達の進路を塞ぐ。

「おいおい、通行の邪魔だろうが!!」

「ええ~~~~!?」

 止まる気配もなく。それどころか、アクセルを踏みさらにスピードが上がる。必死に頭上の掴みをつかんで、衝撃に備える。恐怖から、思わず目を瞑る。しかし、想像した衝撃はこなかった。変わりに軽い浮遊感が貴樹を襲う。おそるおそる、目を開ける。すると、元工場の建物の壁に左側の車輪をくっつけ、本来車が通れない脇道を疾走する。

「流石に特殊車体、最高な乗り心地だな。分かるか貴樹? この車の車種はオリジナルだぞ」

 言いながら、今から鼻歌でも歌いだしそうな顔をする麗奈。

「何でそんなに楽しそうなんだよ!! つうか目が笑って無いんだよ!!」

「クック。今死ぬ。すぐ死ぬ。その瞬間が最高じゃないか」

「く、狂ってる!! もう~嫌だ~!!」

「あっはっはっは」

 片輪がようやく地面に付いた時には周囲に車はいなくなっていた。それでも安心は出来ないと貴樹は思う。あのヘリが頭を過ぎる。ヘリで追跡されれば、すぐに捕捉されるのは目に見えている。それはハリウッド映画のスパイモノで知識として、貴樹の中にあった。

「……」

 口に出した事を貴樹は無言で頭を抱えて後悔する事になった。今まさに前方から、ヘリが低空飛行でやってきたからだ。

「――――っチ!!」

 舌打ちと共に身体が横に流される。再び細い脇道に入ったからだ。しかし、これで貴樹が知っている限り、出口からは遠ざかった。ヘリは出口から遠ざける為に前方から向かって来たのだろう。このまま、廃工場跡で逃げ続ければ、捕まるのも時間の問題だろう。

「こ、降参しよう!! 謝って丸く収めてもらおう? な? それが1番いいだろ?」

 貴樹はそう言ったが、麗奈は舌打ちと共にアクセルを踏み続けながら、青い目を貴樹に向ける。

「2人も殺しておいてか?」

「お、俺は関係無いだろ!?」

「くっくっく。それを説明してみるか? そうだな。私の『女』を賭けても良い、十中八九拷問だ」

「な! 何で!? そんな事される――――」

 それ以上の言葉は続かなかった。貴樹の額に銃口が向けられたからだ。

「奴らは探し物をしている。それを『君は』持っていない。それが理由。分かったらその口を閉じろ。私は君のおかげで、助かって、目的を果たせた。だからお礼に連れているんだ。選ぶと良い。私の言葉が嘘だと思うなら、降りてみるか?」

「……」

 心臓の鼓動が自分の耳で聞こえている様な錯覚を起こす。7月の季節通り暑く、自身も汗まみれだ。だけど貴樹は寒かった。銃に恐怖した訳では無い。彼女の目に恐怖したのだ。

 同じ人間だと貴樹には思えなかった。こんな、冷たく暗い目を貴樹は初めて目にする。身体が自然と震え出す。貴樹も思ったが又、彼女も自分を人間だと認識していないのだろうと分かる。だが、そんな目をした彼女が言うからこそ、ここで彼女と離れる危険を考えてしまう。停止した思考の中、その沈黙を肯定と考えたのか麗菜は銃を懐に戻した。

「……悪かったな」

 それは何を指したのか分からなかった。銃を向けた事か、巻き込んだと思って言ったのか。それでも、それを言った彼女の瞳は、自分と同じ人間だと思った。

 車内は沈黙だった。お互いに話す事が無い。そんな静寂の中、麗菜は車を止め、貴樹に急げと言いながら、地面のマンホールの蓋を開けた。


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