第一章 ②
人の気配を感じない暗闇を麗菜は、目的があるかの様に掛けて行く。女性とは思えない程の速さ。運動が苦手では無い男子の貴樹。しかし、付いて行くのが精一杯だった。
決して大きな道を通らずに本当の建物の隙間の隙間を掛けて行く。数分近く走り、息が上がりそうになった時、彼女は足を止めた。突然止まった麗菜の横に貴樹が追いつくと麗菜は貴樹の首元を勢い良く引いた。
(ちょ! いきなり何すんだよ!?)
その麗菜の雰囲気から大きな声では無く彼女の耳元で抗議する。どうやらそれは正解だったらしい。
(無駄に大きい背を隠せって意味だ)
麗菜は貴樹の耳元で囁く様に先程の三日月の様な、スカルの様な笑みをして、貴樹に言う。貴樹はそこで気づいた。自身は180㎝を越える身長だ。しかし、麗菜はどう見ても、平均した女子よりも胸も背も小さい。頭を抑えるのは無理だと思って首元を掴んだらしい。
そして、首で大きいメイン道路を指す。道路の真ん中に数台の車が止まっている。その車を見て、貴樹は息が止まる。黒塗りの車は明らかにそちらの方々の様に思え、何より、運転席に座っているのは、暗い夜の中なのに何故かサングラスをしていた。
「どうやら、残っているのは、運転する者のみで、残りは捜索に向かっているみたいだな。……我々は運が良い」
麗菜はスカルの様な笑顔を張り付ける時は、口調が変わるのだと貴樹は思った。しかし、それよりも口元は笑っているのに瞳は笑っていないのが余計に怖いと貴樹は思う。
「運が良いって?」
息を呑んで聞くと。
「クックック……ドライブの為には車は必要じゃないか」
その言葉に貴樹に戦慄が走った。確かに麗菜の言う通り、ドライブとは英語で車を運転する事である。従って車は必要だ。しかし、それは誰の車なのか?
「1番前の奴を頂くか」
そう言って、周り込む為か腰を落としたまま、すり足で移動を始める麗菜。その行動を貴樹は麗菜の袖を掴む事で止めようとする。正気の沙汰だと思えないからだ。
「こ、殺されるんじゃ……」
言葉を出すと暑い夏の夜だが冷たい汗が額に流れる。短い人生の中で初めて『殺される』んじゃないかと思える。しかし、麗菜は違う。青い瞳は感情の1つも思い浮かばせない。口元の笑みで笑っているかの様ではある。
恐怖。
自分とは圧倒的な異質な存在。
人はそれを獣。
いや、怪物と呼ぶだろう。
それでも、貴樹の心には恐怖以外のものが確かにある。
彼女の美しさが恐怖心を薄める。それがどんなに危ない思考なのか分かっていてもだ。貴樹は既に魅せられ始めている。
非日常に咲く金色の青い花に。




