第99話:わたくしは完璧なお嬢様ですわ!
麗奈が目を覚ますと、見慣れた天井ではありませんでした。
白く美しい天井には細かな装飾が施され、窓から差し込む朝日が大きな部屋を照らしています。
「お目覚めでございますか、お嬢様」
寝台の周りには、何人もの使用人が並んでいました。
麗奈が起き上がると、すぐに着替えが運ばれ、髪が整えられます。
鏡に映った麗奈は、見たこともないほど完璧なお嬢様でした。
「本日のご予定でございます」
差し出された予定表には、勉強、乗馬、茶会、慈善活動が隙間なく並んでいます。
「すべてこなせますわ」
麗奈はそう答えました。
なぜか、本当にできる気がしました。
勉強では一問も間違えません。
紅茶も完璧に淹れられます。
背筋を伸ばして歩いても転びません。
午後に訪れたアリサも、感心したように頷きました。
「見事ですわ、麗奈さん。もう何も教えることはありませんわね」
「当然ですわ」
麗奈は優雅に微笑みました。
何もかも、思い描いていたとおりでした。
しかし、屋敷は妙に静かでした。
「小春はどこですの?」
尋ねると、小春が部屋へ入り、深く頭を下げました。
「こちらにおります、お嬢様」
「……それだけですの?」
「ほかに御用がございますか?」
小春はいつものように言い返しません。
少し離れた場所には、橘が立っていました。
「橘」
「はい、お嬢様」
「わたくしの襟は曲がっていませんこと?」
「完璧でございます」
橘も近づいてきませんでした。
庭へ出ると、ノアは大人しく伏せています。
麗奈を見ても、飛びついてきません。
シロも逃げず、決められた場所で静かに座っていました。
「皆、今日はどうしましたの?」
誰も答えません。
何も壊れません。
誰も騒ぎません。
麗奈は完璧なお嬢様として、完璧な屋敷の中央へ立っていました。
「……何か足りませんわ」
その瞬間、遠くから小春の声が聞こえました。
「麗奈さん、起きてください!」
続いて、顔へ大きな何かが押しつけられます。
「重いですわ!」
麗奈が目を開けると、ノアが寝台へ前脚をかけ、大きな顔を覗き込んでいました。
「ようやく起きましたね」
小春が呆れています。
「朝食が冷めます」
橘はいつもどおり、扉のそばに立っていました。
足元では、シロが麗奈を避けるように部屋を出ていきます。
「……いつもの屋敷ですわね」
「当たり前です」
麗奈はノアの頭を押し返しながら、小さく笑いました。
「こちらの方が、よろしいですわ」
「何の話ですか?」
「夢の話ですの」
麗奈は寝台から降りました。
完璧ではありません。
静かでもありません。
それでも、こちらの方がずっと落ち着きました。




