第96話:息が合いすぎですわ!
ローゼンコール聖歌隊の最初の練習日。
居間の家具を端へ寄せ、中央へ椅子を並べました。
麗奈、小春、アリサ、アリサの姉、弟が横一列に立ち、橘はピアノの前へ座っています。
「では、始めますわ!」
「曲は決まりましたの?」
アリサが尋ねました。
「まだですわ」
「何を始めるのですの?」
「練習ですの!」
「曲がなければ練習できませんわ!」
麗奈は少し考えたあと、テレビで聞いた合唱曲を提案しました。
しかし、題名を覚えていません。
「最後が、とても大きな声になる曲ですの」
「それだけでは分かりません」
橘が答えました。
「途中で静かになりますわ」
「大抵の合唱曲にありますね」
「では、小春。何か知りませんの?」
「学校で歌った曲ならいくつか」
「それにしますわ!」
「まだ曲名も言ってませんけど」
結局、小春が知っている曲から一つ選び、橘が伴奏を確かめることになりました。
橘が最初の音を鳴らすと、小春はすぐに小さく旋律を口ずさみます。
橘が少しテンポを変えると、小春も自然に合わせました。
「そこ、少し速い方が歌いやすいです」
「では、こちらで」
「はい」
短いやり取りだけで、二人の間では話が進んでいきます。
麗奈はその様子を見ながら、じっと目を細めていました。
「またですわ」
「何がですの?」
アリサが尋ねました。
「橘と小春ですの。あまりにも息が合いすぎていますわ」
「以前から一緒に働いているのでしょう?」
「それだけとは思えませんの」
麗奈は声を潜めました。
「もしかすると、お二人は――」
「何を話していますの?」
小春が振り返りました。
「何でもありませんわ!」
練習が始まると、今度は麗奈とアリサが張り合い始めました。
「わたくしの方が声が通っていますわ!」
「大きいだけでは合唱になりませんの!」
「アリサさんこそ、格好をつけすぎですわ!」
「正しい姿勢ですわ!」
二人の声がどんどん大きくなります。
「お二人とも、周囲の音を聞いてください」
橘が演奏を止めました。
「合唱は競争ではありません」
「ですが、団長として――」
「副団長として――」
「役職もいったん忘れてください」
二人は同時に黙りました。
小春と弟は笑いをこらえています。
アリサの姉だけは楽しそうに拍手しました。
「とても賑やかな聖歌隊ですね」
「まだ聖歌は一曲も歌っていませんけれど」
小春が言いました。
「名前は聖歌隊ですの!」
麗奈は胸を張りました。
練習の終わり頃には、全員の声がようやく少しだけ揃いました。
「最初にしては、悪くありませんわね」
「ほとんど橘さんのおかげです」
小春が言うと、橘は何も言わずに楽譜を整えました。
その直後、小春が橘の横へ行き、譜面を一緒に覗き込みます。
二人はまた、何も言わずに次の練習箇所を確認していました。
麗奈はその姿を見ながら、小さく頷きます。
「やはり、ただならぬ関係ですの」
「まだ言っていますの?」
アリサの声は、完全に呆れていました。




