第95話:気を遣っていますわ!
翌朝から、麗奈の態度は明らかにおかしくなっていました。
「小春、こちらは橘へ頼まなくてもよろしいの?」
「何がですか?」
「その……何か、二人でなさることはありませんの?」
「掃除ならあとで一緒にしますけど」
「そういう意味ではありませんわ!」
小春は不思議そうに麗奈を見ました。
そこへ橘が紅茶を運んできます。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます。ですが、こちらへ置いたら、すぐ小春のところへ戻ってよろしくてよ」
「小春は洗濯物を干しておりますが」
「では、お手伝いなさいな!」
「いつも手伝っております」
「そうではなくてですの!」
麗奈は言葉に詰まりました。
本人たちが隠している以上、自分から触れるべきではありません。
そう考えた麗奈は、何とか自然に二人きりにしようとし始めました。
「橘、小春と買い物へ行ってきてくださいまし」
「必要なものは昨日購入しております」
「では、追加で何か買ってきなさいな!」
「何をでしょう」
「二人で考えてくださいまし!」
昼には、二人へ同じ休憩時間を与えました。
午後には、庭の確認まで二人一緒に行かせました。
しかし、戻ってきた二人はいつもどおりでした。
「何もありませんでしたの?」
「庭の東側に少し雑草が増えておりました」
「そうではありませんの!」
麗奈は焦れったそうにテーブルを叩きました。
「お嬢様」
橘が静かに尋ねます。
「朝から、なぜ私と小春を二人きりにしようとなさるのでしょう」
「それは……」
麗奈は二人を見比べました。
小春も橘も、本気で分かっていない顔をしています。
「わたくしは、気を遣っていますの」
「何にですか?」
「お二人の関係にですわ!」
しばらく沈黙が落ちました。
小春がゆっくりと橘を見ます。
橘も小春を見ました。
その自然な視線の交わし方に、麗奈はまた顔を赤くしました。
「やはり!」
「やはり、とは?」
「昨日、台所で、とても親しげにしていたでしょう!」
「頬に小麦粉がついていたので、取ってもらっただけです」
「それだけですの?」
「それだけです」
小春はきっぱり答えました。
「では、あの笑顔は?」
「橘さんが昔の話をしたので、笑っただけです」
「昔の話?」
「はい」
「どのような?」
「それは言いません」
「なぜですの!?」
「恥ずかしいからです」
小春は少しだけ笑いました。
橘も、ほんのわずかに口元を緩めます。
麗奈は再び二人を見比べました。
「……やはり、何かありますわね」
「ありません」
「ございますでしょう!」
「ありません」
二人の返事はぴったり重なりました。
麗奈は目を細めます。
「息まで合っていますの」
「長い付き合いですので」
橘が答えました。
「どれくらい長いのですの?」
「かなり長いです」
「ますます怪しいですわ!」
麗奈の疑いは、まったく晴れませんでした。




