第84話:雨音を楽しみますわ!
強い雨が屋根を叩く午後、麗奈は書庫で本を開いていました。
しかし、同じ行を三度読み直してみても内容が頭に入ってきません。
「雨音が気になりますの」
「うるさいですか?」
「いいえ。むしろ、少し落ち着きますわ」
麗奈は本を閉じ、窓辺へ移動しました。
庭の木々が雨に濡れ、ガラスを細い水の筋が流れています。
「雨の日は、何もできないと思っていましたの」
「以前はずっと家にいたのに?」
「それとこれとは別ですわ!」
小春が温かい飲み物を持ってきました。
橘も仕事を終え、少し離れた椅子へ座ります。
三人はしばらく、何も話さず雨音を聞きました。
「こういう時間も、悪くありませんわね」
「静かですね」
「小春が余計なことを言わなければ、もっと静かですの」
「いま話し始めたのは麗奈さんですけど」
その直後、廊下の向こうでノアが大きなくしゃみをしました。
さらにシロが棚の本を一冊落とします。
「……静かな屋敷は無理ですわね」
「普段どおりでよろしいかと」
橘が答えました。
麗奈は窓の外を見ながら、小さく笑いました。
雨が少し弱くなると、軒下へ鳥が避難してきました。
麗奈は窓を開けようとしましたが、橘に止められます。
「驚かせてしまいます」
「では、ここから見守りますの」
三人と二匹は、しばらく同じ方向を眺めました。
静かではありませんでしたが、不思議と落ち着く午後でした。




