第81話:執事服を着てみますわ!
橘が執事服を整える姿を見て、麗奈は尋ねました。
「その服、そんなに楽ですの?」
「はい。仕事には適しております」
「わたくしも着てみますわ」
「なぜですか?」
「着れば、橘がそれを選ぶ理由が、分かるかもしれないでしょう?」
橘は予備の執事服を用意しました。
麗奈が着替えて居間へ現れると、小春が目を丸くします。
「意外と似合っていますね」
「意外とは余計ですわ!」
麗奈は満足そうに袖を眺めました。
「確かに動きやすいですわね」
「では、仕事をしてみますか?」
橘が盆を差し出しました。
麗奈はカップを載せ、慎重に歩き始めます。
数歩進んだだけでカップが揺れました。
「こ、これは床が悪いですの」
「おかしいですね……ここは修理したので平らなはずですけど」
ようやくテーブルへ着くと、麗奈は大きく息を吐きました。
「ただ運ぶだけで、こんなに神経を使いますのね」
「お嬢様は普段、受け取るだけですからね」
「感謝していますわよ!」
「初めて聞きました」
「心の中では毎日申していますの!」
麗奈は自分の袖を見ました。
「これを着ているから格好いいのではなく、橘が着て働いているから格好いいのですわね」
「ありがとうございます」
橘が頭を下げます。
麗奈は自分で言った言葉に照れ、視線を逸らしました。
「……やはり、わたくしはドレスの方が似合いますわ」
「仕事をしなくて済みますから?」
「似合うからですの!」
その後、麗奈は掃除にも挑戦しました。
はたきを持って棚の上へ手を伸ばしましたが、勢い余って埃を自分へ落とします。
「けほっ、けほっ……!」
「動きやすさだけでは、仕事はできません」
橘が静かに言いました。
「分かっていますの!」
夕方には、麗奈は執事服のままソファへ沈み込んでいました。
「橘は毎日これをしていますのね」
「はい」
「……本当に、いつもありがとうございます」
今度は照れ隠しではなく、麗奈は素直に頭を下げました。
橘はわずかに目を細めました。
「どういたしまして、お嬢様」




