第80話:唯一の殿方ですわ!
麗奈は窓辺で眠るシロの前へ座りました。
「シロ。この屋敷で唯一の殿方として、責任を持っていただきますわ」
シロは片目だけを開けました。
「猫に何の責任を持たせるんですか?」
「屋敷の殿方代表ですの」
「代表して何をするんですか?」
「皆を守るとか」
シロは再び目を閉じました。
「やる気がありませんね」
「英気を養っていますの」
麗奈は小さな蝶ネクタイを用意しました。
「これなら殿方らしくありませんこと?」
近づけた瞬間、シロは前足で麗奈の手を払いました。
「なぜですの!?」
「嫌なんですよ」
「殿方としての自覚が足りませんわ!」
シロは小春の足元へ逃げました。小春が抱き上げると、すぐにおとなしくなります。
「わたくしが用意したのですのよ?」
「麗奈さんの気持ちが重いんじゃないですか?」
「蝶ネクタイ一つですわ!」
「殿方代表の責任まで押しつけていますけど」
そこへノアが入ってきました。
シロは棚の上へ逃げます。
「女性に追われて逃げるとは、情けない殿方ですわね」
「ノアが大きすぎるだけです」
麗奈は棚の上を見上げました。
「やはり、殿方代表は荷が重かったようですわね」
シロは返事の代わりに、大きなあくびをしました。
麗奈は蝶ネクタイを諦め、代わりに小さな名札を用意しました。
『屋敷唯一の殿方 シロ』
「それ、どこへ付けるんですか?」
「寝床の前ですの」
名札を置くと、シロは一度だけ匂いを嗅ぎ、そのまま前脚で倒しました。
「反抗期ですの?」
「もとからこうでしたよね」
翌朝、名札はノアの寝床まで運ばれていました。
「シロが自分で持っていったんですかね」
「殿方の責任をノアへ押しつけましたの!?」
真相は分かりませんでしたが、名札はその日から撤去されました。




