第79話:ノアを淑女にしますわ!
庭でノアを眺めていた麗奈は、あることを思いつきました。
「ノアも女の子ですもの。もう少し淑女らしくしてもよいのではなくて?」
ノアは大きな口を開け、のんびりあくびをしています。
「本人は気にしていないと思いますよ」
「だからこそ、わたくしが教えて差し上げますの」
麗奈は特注の大きなリボンを用意しました。
淡い桃色のリボンを首へ結ぶと、ノアは嬉しそうに尻尾を振ります。
「まあ。可愛らしいですわ!」
麗奈はさらに歩き方まで指導し始めました。
「もっと静かに歩きなさいな。淑女は地面を揺らしませんの」
ノアが一歩進むたび、庭の土がわずかに沈みます。
「身体の大きさは変えられませんよ」
「気持ちの問題ですわ!」
麗奈は見本を見せるため、背筋を伸ばして歩きました。
「このように、優雅に――」
その瞬間、ノアが嬉しそうに飛びつきました。
「きゃあっ!」
麗奈は芝生へ倒れ込みます。
「ノア! 淑女は人へ飛びつきませんの!」
「麗奈さんも、アリサさんへ飛びかかる勢いで言い返してますけど」
「口だけですわ!」
騒ぎを聞いた橘が庭へ出てきました。
「随分と可愛らしくなりましたね」
「でしょう?」
麗奈は芝生に寝転んだまま、満足そうに答えました。
「ですが、お嬢様の方が泥だらけです」
「ノアを淑女にしようとして、わたくしが野生へ戻りましたわ……」
麗奈は起き上がり、もう一度ノアへ向き直りました。
「次はお座りの姿勢ですの。前脚を揃えなさいな」
ノアは素直に座りましたが、その大きな尻尾が左右へ激しく動き、近くの鉢を倒しかけます。
「尻尾も優雅に!」
「そこまで制御できないと思います」
小春が鉢を避難させました。
しばらく練習した結果、ノアが覚えたのは、麗奈が「淑女」と言うと座ることだけでした。
「十分な成果ですわ」
「意味は分かっていないでしょうけど」
「形から入ることも大切ですの!」
麗奈自身も、形からお嬢様を始めたことを、小春はあえて指摘しませんでした。




