第74話:優しいお姉様に甘やかされますわ!
弟を迎えに来た九条院家の姉は、少しだけ麗奈の屋敷へ寄ることになりました。
「素敵なお屋敷ですね」
「分かりますの!?」
麗奈は勢いよく身を乗り出しました。
「古い部分を残しながら、少しずつ手を入れているのでしょう?」
「そうなんですの! 何でも新しくすればよいというものではありませんのよ!」
素直に褒められた麗奈は、先ほどまでより明らかに機嫌がよくなっています。
「麗奈さんは、よく頑張っていますね」
「そ、そうですの。わたくしは日々――」
「実際に頑張っているのは橘と私ですけど」
小春が静かに言いました。
「いまは黙っていなさいな!」
姉は楽しそうに笑い、麗奈の前へ焼き菓子を一つ置きました。
「たくさん召し上がってくださいね」
「子ども扱いしていませんこと?」
「嫌でした?」
「……嫌とは申していませんわ」
麗奈は焼き菓子を受け取りました。
姉が麗奈の髪についていた糸くずまで取ると、麗奈は固まりながらも、されるがままになっています。
その様子を見たアリサが、少しだけ眉を寄せました。
「お姉様、麗奈さんばかり構いすぎではありませんこと?」
「アリサもお菓子を食べますか?」
「そういうことではありませんわ!」
麗奈はにやりと笑いました。
「もしかして、嫉妬していますの?」
「していませんわ!」
姉がアリサの頭も優しく撫でます。
「アリサも、いつも頑張っていますよ」
「お、お姉様。人前ではやめてくださいまし」
急におとなしくなったアリサを見て、麗奈は口元を押さえました。
「笑わないでくださいまし!」
「笑っていませんわ」
「絶対に笑っていますわ!」
その後も姉は、麗奈の皿が空けば菓子を足し、紅茶が減れば声をかけました。
「まだ食べられますか?」
「少しくらいなら……」
「麗奈さん、さっきからずっと少しくらいと言っていますよ」
小春が指摘しました。
「お姉様が勧めてくださるから、断るのも失礼ですの!」
「では、こちらもどうぞ」
「いただきますわ」
即答でした。
帰り際、姉は麗奈の両手を包むように握りました。
「また当家へも遊びに来てくださいね」
「え、ええ。もちろんですわ」
車を見送ったあと、麗奈はしばらく玄関に立っていました。
「ずいぶん懐いていましたね」
「懐いてなどいませんわ!」
「お菓子を5つ食べていましたけど」
「それとこれとは別ですの!」
麗奈はそう言いながらも、姉からもらった小さな包みを大切そうに抱えていました。




