第72話:女所帯でしたわ!
停電の翌朝。
麗奈は庭でノアの毛をブラッシングしていました。
「昨日は怖かったですわね」
ノアは地面へ伏せ、気持ちよさそうに目を細めています。
そこへ小春がやってきました。
「ノア、昨日はずっと麗奈さんを探していましたよ」
「当然ですわ。わたくしの忠実な番犬ですもの」
「女の子同士、仲がいいですね」
麗奈の手が止まりました。
「女の子?」
「ノアですよ」
「ノアは雄ではありませんの?」
「雌ですけど」
麗奈はノアの顔を見ました。
大きな身体。
太い脚。
低く響く鳴き声。
「……ノアも女性でしたの!?」
「雌です」
橘まで庭へ出てきました。
「聞いていませんわ!」
「聞かれませんでしたので」
「ま、またぁ!? またそれですの?」
麗奈は立ち上がり、庭を見回しました。
麗奈。
小春。
橘。
ノア。
全員、女性でした。
「この屋敷には、殿方が一人もいませんの!?」
「シロは雄ですよ」
小春が答えました。
「猫は数えていませんわ!」
ちょうどそのとき、シロが窓辺へ姿を見せました。
以前、麗奈が女の子だと思い込み、お嬢様用の衣装を用意した雄猫です。
麗奈はシロを見ました。
次にノアを見ます。
さらに橘を見ました。
「この屋敷、性別が紛らわしすぎませんこと!?」
「お嬢様が勝手に勘違いしているだけです」
橘の指摘がぐっさりと突き刺さりました。
「橘は執事服ですし、ノアはこんなに大きいですし、シロはこんなに可愛いのですのよ!」
「見た目で決めつけるのはよくないですよ」
小春が正論を言いました。
「小春だけは見た目どおりですわね」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですの」
小春が無言でブラシを奪い、麗奈の髪を乱すように動かしました。
「何をしますの!」
「見た目を変えています」
「やめなさいな!」
ノアが楽しそうに立ち上がり、二人の周囲を走り始めました。
騒ぎを嫌ったシロは、窓辺から静かに姿を消しました。
橘だけが、いつもどおりの表情でそれを眺めています。
「結局、この屋敷で一番落ち着いている殿方はシロですわね」
「猫ですけどね」
「分かっていますわ!」




