第71話:停電してしまいましたわ!
夜。
麗奈が居間でくつろいでいると、突然、屋敷中の明かりが消えました。
「ひゃあっ!」
暗闇の中で、麗奈の声が響きました。
「停電のようです」
橘の落ち着いた声が聞こえます。
「分かっていますわ! 急に消えたから驚いただけですの!」
「怖いんですか?」
小春の声も聞こえました。
「怖くありませんわ!」
麗奈は立ち上がろうとしました。
直後、膝をテーブルへぶつけました。
「痛いですわ!」
「動かない方がいいですよ」
「先に言いなさいな!」
橘が懐中電灯を点けました。
暗闇の中に、白い光が浮かびます。
麗奈はすぐさま橘の近くへ移動しました。
「随分近いですね」
「明かりがこちらにあるからですの」
窓の外を見ると、近隣の家も暗くなっています。
屋敷だけの故障ではないようです。
「復旧まで少しかかるかもしれません」
橘は非常用のランタンをいくつか用意しました。
薄い明かりの中、三人は居間に集まりました。
「せっかくですから、何かお話でもしません?」
小春が提案しました。
「では、怖い話を」
「嫌ですわ」
麗奈が即答しました。
「怖くないんですよね?」
「停電中に怖い話をする必要がありませんの」
「怪談の定番ですけど」
「定番に従う義務はありませんわ!」
そのとき、廊下の奥から物音がしました。
ごとり。
麗奈の肩が跳ねました。
「いま、何かいましたわよね?」
「シロでは?」
「シロなら、もっと静かに歩きますの」
再び物音がしました。
今度は少し近づいています。
麗奈は無言で橘の袖をつかみました。
「お嬢様?」
「離れないでくださいまし」
「怖いのですか?」
「護衛を求めているだけですの!」
橘が廊下を照らしました。
光の先から、大きな影が現れます。
「ひっ!」
次の瞬間、巨大なノアが勢いよく駆け寄ってきました。
停電で不安だったらしく、麗奈へ身体を寄せます。
「ノアでしたの……」
麗奈は胸をなで下ろし、その大きな頭を抱えました。
「あなたも怖かったのですわね」
ノアは嬉しそうに尻尾を振っています。
直後、電気が復旧しました。
明るくなった居間で、麗奈は橘の袖を握り、ノアへ抱きついた状態になっていました。
小春がその姿を見ます。
「随分厳重な護衛ですね」
「念には念を入れましたの!」




