第70話:お姉さんらしくしますわ!
小春が十六歳だと知ってから、麗奈は妙に世話を焼くようになっていました。
「小春、重そうですわね。持って差し上げますわ」
「大丈夫です」
「遠慮しなくてもよろしくてよ」
「これ、空のかごですけど」
「……では、持つ必要はありませんわね」
別の日には、外出する小春へ声をかけました。
「暗くなる前に帰ってきなさいな」
「近所の店へ行くだけです」
「知らない方について行ってはいけませんわよ」
「子ども扱いしないでください」
「十六歳はまだ子どもですの」
「麗奈さんも二年前まで十六歳でしたよね?」
「わたくしは精神的に成熟していましたわ」
小春は黙って麗奈を見ました。
「何ですの、その目は」
「別に」
「言いたいことがあるなら言いなさいな!」
さらに麗奈は、昼食後に一冊の本を持ってきました。
「こちらを読んでおくとよろしいですわ」
「何の本ですか?」
「お嬢様としての心得ですの」
「いりません」
「将来、役に立つかもしれませんわよ?」
「何になる予定なんですか、私」
小春は本を麗奈へ返しました。
その拍子に、棚の上へ置かれていた箱がぐらりと揺れます。
麗奈の頭上へ落ちかけた箱を、小春が素早く受け止めました。
「危ないですよ」
麗奈は固まりました。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「いまのは、わたくしがお姉さんらしく助ける場面だったのではなくて?」
「助けられていましたね」
「やり直しますわ」
「箱をもう一度落とすんですか?」
「危険ですから駄目ですの!」
そこへ橘が通りかかりました。
「何をされているのですか?」
「お嬢様が、お姉さんになろうとしています」
「なっていますわ!」
「成果は?」
「まだ途中ですの!」
小春が小さく笑いました。
麗奈はむっとしましたが、すぐに顔を背けました。
「……困ったことがあれば、頼ってもよろしくてよ」
「はい。そのときはお願いします」
素直に返されると、麗奈の方が戸惑いました。
「本当に頼ってもいいんですよね?」
「も、もちろんですわ」
「では、明日の朝は自分で起きてください」
「それは別の方へ頼ってくださいまし!」
「何も頼れないじゃないですか」




