第69話:仕事もちゃんとしていますわ!
ある日の午前、屋敷へ一台の車がやってきました。
降りてきたのは、スーツ姿の男女二人でした。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「遠いところ、ご足労いただきましたわ」
いつになく落ち着いた麗奈の声に、小春は目を瞬かせました。
二人は以前、麗奈が制作したサービスを買収した会社の担当者でした。
新しい機能について相談があるそうです。
応接室へ通された麗奈は、資料へ目を通しながら、次々と質問を投げかけました。
「この仕様では、利用者が増えた際に処理が集中しますわね」
「やはり、そこが問題になりますか」
「現状の構成を残すのであれば、こちらを分離した方がよろしいですわ。費用は多少増えますけれど、後から直すより安く済みますの」
普段の麗奈からは想像できないほど、話が速く進んでいきます。
資料の不備もすぐに見つけ、代案までその場で示していました。
扉の外で飲み物を準備していた小春は、橘を見ました。
「お嬢様、ちゃんと仕事できるんですね」
「できなければ、あれほどの金額で買収されてはいません」
「普段も少しくらい、あれくらいしっかりしてくれたらいいのに」
「仕事と生活は別なのでしょう」
打ち合わせは一時間ほどで終わりました。
担当者たちは何度も頭を下げ、屋敷をあとにしました。
玄関で見送った麗奈は、車が見えなくなった途端、肩を落としました。
「疲れましたわ……」
小春が近づきます。
「格好よかったですよ」
「当然ですわ」
「見直しました」
「いままでどう思っていましたの?」
「屋敷を勢いで買って、説明書を読まずに困るおっちょこちょいな人」
「おっちょ……間違ってはいませんけれど!」
橘が資料をまとめながら口を挟みました。
「先ほどのご説明は、大変分かりやすかったです」
「橘まで珍しいものを見たように言わないでくださいまし」
「褒めております」
麗奈は照れ隠しに髪を払いました。
「わたくし、やるときはやる女ですの」
「では、こちらもお願いします」
小春が一枚の紙を差し出しました。
通信課程の提出期限が記された通知です。
麗奈の表情が固まりました。
「……こちらは、明日まで?」
「はい」
「まだ何もしていませんわ」
「やるときはやるんですよね?」
麗奈はそっと紙を小春へ返しました。
「今日はもう十分やりましたの」
「駄目です」
「仕事と勉強は別ですわ!」
「さっき橘さんが言ったのと、意味が違います」




