第68話:小春の年齢を知りましたわ!
その日の午後、麗奈は小春へ書類を書かせていました。
温泉設備の工事に関する申請で、屋敷の使用人についても簡単な情報が必要らしいのです。
「氏名と生年月日を、こちらへお願いしますわ」
「分かりました」
小春は迷いなく記入していきました。
麗奈は何気なくその紙を受け取り、書かれた数字を見ます。
もう一度見ました。
「……小春」
「はい」
「こちらの生年、間違っていますわよ」
「合っていますけど」
「合っていますと、あなたは十六歳になりますわ」
「十六です」
麗奈は紙から顔を上げました。
「十六?」
「はい」
「わたくしより二つ下ですの!?」
「そうですね」
「そうですね、ではありませんわ!」
「年齢を聞かれたことがなかったので」
最近、どこかで聞いたような返答でした。
「この屋敷の人間は、聞かれなければ何も教えない主義ですの!?」
「隠してはいませんよ」
「わたくし、てっきり同い年か、少し年上だと思っていましたの!」
「どうしてですか?」
「落ち着いていますし、わたくしよりしっかりしていますもの」
「それは年齢の問題じゃないと思います」
「どういう意味ですの?」
小春は答えませんでした。
麗奈は改めて小春を見ました。
いつも容赦なく注意してきて、仕事も手際よくこなし、ときには麗奈の面倒まで見ています。
それが、自分より二歳も年下でした。
「では、わたくしがお姉さんですのね」
「年齢だけなら」
「その一言は必要ありませんわ!」
麗奈は椅子から立ち上がり、胸を張りました。
「今後は、わたくしを頼ってもよろしくてよ」
「何を頼ればいいんですか?」
「何でもですわ」
「朝起こすのも私ですし、ご飯を用意するのも橘さんですし、片づけるのも私たちですけど」
「精神的な部分で頼りなさいな!」
「具体的には?」
麗奈は言葉に詰まりました。
「……悩みを聞くとか」
「あります?」
「ないのですの?」
「いまは特に」
「一つくらい作ってくださいまし!」
「悩みを作らせないでください」
麗奈はしばらく考え、戸棚から菓子を取り出しました。
「では、こちらを差し上げますわ」
「ありがとうございます」
「年下には優しくするものですの」
「昨日まで普通に取り合っていましたよね?」
「今日から変わりましたの!」
その夜。
冷蔵庫に取っておいた麗奈のプリンを、小春が食べてしまいました。
「年下だから許してください」
「それとこれとは別ですわ!」
屋敷中に麗奈の声が響きました。




