第7話:庭園を散歩しますわ!
我が屋敷には、広大な庭園があります。
購入ページには、そう書いてありました。
実際には、庭というより森でした。
腰ほどの雑草。
伸び放題の木。
何かが潜んでいそうな茂み。
「風情がありますわね」
「遭難しそうです」
小春が申します。
「自分の屋敷の庭で遭難するわけありませんでしょう?」
「昨日、庭師を呼ぶ場所を探していた橘さんが、二十分戻りませんでした」
「広大な庭園の証ですわ!」
わたくしは日傘を差し、庭へ踏み出しました。
優雅に歩く。
静かに微笑む。
小鳥のさえずりへ耳を傾ける。
これぞ、お嬢様の朝ですわ。
「お嬢様、足元」
「きゃあっ!」
木の根につまずきました。
おもわず日傘を手放してしまいました。
どうにか転倒は免れましたが、今度はドレスの裾が枝へ引っかかりました。
「ちょっ、取れませんわ!」
「動かないでください」
「この庭、わたくしに敵意がありますの!」
「庭は何もしてません」
「では枝に命じて放しなさい!」
「落ち着いてください。枝に命令は通じませんよ」
小春が裾を外します。
わたくしは咳払いし、再び歩き始めました。
「庭師を雇いますわ」
「予算は?」
「甲冑を売りますの」
「昨日、絶対に必要だと」
「守護騎士には、別の戦場へ向かっていただきますわ」
「中古扱いなので、半額以下だと思います」
「なぜですの! 一晩しか働いていませんわ!」
「お嬢様を一度襲っています」
「あれは誤解ですの!」
そのとき、茂みが揺れました。
「何かいますわ」
「猫じゃないですか?」
「いいえ。このような古い屋敷に棲むものといえば……魔獣ですわ!」
わたくしは小春の背後へ隠れました。
「お嬢様、前へ」
「あなたはメイドでしょう? 主人を守りなさいな!」
茂みから、一匹の小さな白猫が現れました。
「猫ですね」
「……最初から分かっていましたわ」
白猫はわたくしの足元へ近づき、ドレスへ泥の足跡を付けました。
「わたくしのドレスがぁっ!」
猫は気にせず、庭の奥へ消えていきました。
わたくしは泥だらけの裾を見下ろしました。
「捕らえなさい!」
「どうするんです?」
「名前を付けますわ!」
「飼うんですか?」
「べつに気に入ったわけではありませんの!」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次話の投稿は、本日の18時です!




