第65話:お屋敷で泳ぎますわ!
「せっかくですから、泳いでいきませんこと?」
アリサにそう誘われた麗奈は、首を傾げました。
「泳ぐって、どちらで?」
「当家のプールですわ」
案内された先を見て、麗奈はしばらく黙りました。
そこにはホテルの施設としか思えないほど広い屋内プールがありました。
大きな窓の向こうには庭園が広がり、プールサイドには休憩用の椅子やテーブルまで並んでいます。
「これをご家庭のプールと呼びますの?」
「ほかに何と呼びますの?」
「民間公共施設」
「私の家ですわよ」
用意されていた更衣室で水着に着替え、麗奈はプールサイドへ出ました。
少し遅れて、アリサも姿を見せました。
「お待たせしましたわ」
麗奈はアリサを見ました。
次に、自分の胸元を見ます。
もう一度、アリサを見ました。
「……意外と持っていますのね」
「何をですの?」
「何でもありませんわ」
「こちらを見て言いましたわよね?」
「気のせいですの」
アリサが麗奈の視線を追い、すぐに意味を理解しました。
「麗奈さん、まさか……」
「何も言っていませんわ!」
「比べましたの?」
「比べていません!」
「声が大きいですわよ」
「あなたが聞くからでしょう!」
麗奈は逃げるようにプールへ入りました。
勢いよく泳ぎ始めます。
しかし、十メートルほど進んだところで急激に速度が落ちました。
「……麗奈さん?」
「少し、休憩しますわ」
「まだ始まったばかりですわよ?」
「水との親睦を深めていますの」
アリサは優雅なフォームで隣まで泳いできました。
「泳ぎは苦手ですの?」
「苦手ではありませんわ。速くないだけですの」
「それを苦手と言うのではなくて?」
「言いませんわ!」
アリサが先へ泳ぎ始めました。
麗奈も負けじと追いかけましたが、差は広がる一方でした。
ようやく反対側へ着いたころには、麗奈は壁に両腕をかけて息を切らしていました。
「アリサさん……体育も得意ですのね……」
「当然ですわ」
「全部できるの、腹が立ちますわね……」
「素直に褒めてくださってもよろしくてよ?」
「褒めていませんの!」
その後、麗奈は浮き輪を借りました。
大きな浮き輪へ身体を預け、水面を漂います。
「こちらの方が優雅ですわね」
「泳ぐのを諦めただけでしょう?」
「優雅さを選んだのですわ」
アリサが浮き輪の端を軽く押しました。
麗奈はゆっくりとプールの中央へ流されていきます。
「ちょっと、どこへ送っていますの!?」
「優雅に漂っていらっしゃるのでしょう?」
「戻してくださいまし~~!」
広いプールに、麗奈の声だけがよく響いていました。




