第64話:女の子のお部屋ですわ!
九条院家の廊下を進みながら、麗奈は何度も周囲を見回していました。
どこまで歩いても、磨き上げられた床と高価そうな調度品が続いています。
「お手洗いへ行ったら、戻ってこられなくなりそうですわね」
「案内を呼べばよろしいでしょう?」
「自宅で案内を呼ばなければならない時点でおかしいですの」
やがてアリサが、一枚の扉の前で足を止めました。
「こちらが、わたくしの部屋ですわ」
「アリサさんのお部屋……」
扉が開きました。
麗奈は一歩踏み入り、動きを止めました。
白と淡い桃色でまとめられた室内には、大きな天蓋付きのベッドが置かれていました。
窓辺には花が飾られ、棚には本や小物が整然と並んでいます。甘すぎず、子どもっぽすぎず、それでも誰が見ても少女の部屋だと分かる空間でした。
麗奈は小さく息を吸いました。
「……いい匂いがしますわ」
「あまり香りまで確認しないでくださいまし」
「女の子のお部屋という感じがしますの」
アリサが怪訝そうに眉を寄せました。
「麗奈さんのお部屋も、女の子のお部屋でしょう?」
「そういう意味ではありませんわ」
麗奈は部屋の中央まで進み、改めて周囲を眺めました。
「わたくし、初めて女の子のお部屋へ入りましたわ」
「麗奈さんも女の子でしょう?」
「それは分かっていますの!」
「小春さんのお部屋には?」
「入りませんわよ。人の部屋へ勝手に入る趣味はありませんもの」
後日、その言葉を自ら破ることになるとは、このときの麗奈は知る由もありませんでした。
アリサはベッドの横に置かれたソファへ腰を下ろしました。
「どうぞ」
麗奈も隣へ座りました。
思っていたより距離が近いです。
すぐ横からアリサの髪がふわりと香り、麗奈はなぜか背筋を伸ばしました。
「どうしましたの?」
「何でもありませんわ」
「先ほどから妙に緊張していますわね」
「していませんの!」
麗奈は視線を逸らし、棚の上に置かれた写真立てを見つけました。
幼いアリサが、泥だらけの服で満面の笑みを浮かべています。
「……これは?」
アリサの顔色が変わりました。
「見てはいけませんわ!」
すぐさま写真立てを伏せました。
「いまのアリサさんですの?」
「違いますわ!」
「どう見ても同じ顔でしたわよ?」
「別人ですわ!」
「では、なぜ隠しますの?」
「うるさいですわね!」
先ほどまで完璧に整っていたアリサの部屋に、初めて大きな声が響きました。
麗奈はにやりと笑いました。
「安心しましたわ」
「何がですの?」
「この部屋にも、ちゃんとクソガキが住んでいるようですもの」
「誰がクソガキですの!」




