↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/100

第63話:招待が来ましたわ!

 朝食を終えた麗奈の前へ、橘が一通の封筒を差し出しました。


 厚手の白い封筒には金色の縁取りがあり、中央には九条院家の紋章が押されています。


「九条院家から、ご招待状が届いております」


「アリサさんのお屋敷なら、以前うかがいましたわよ?」


「今回は本邸だそうです」


 麗奈の手が止まりました。


「……本邸?」


「以前のお屋敷は、学校へ通うための別邸とのことです」


「……あれが別邸でしたの!?」


 十分すぎるほど立派だった屋敷を思い出し、麗奈は招待状へ視線を落としました。


『麗奈さんを、九条院家の本邸へご招待いたしますわ』


 日時や服装、迎えの車が到着する時刻まで、隙のない文字で記されています。最後には、九条院アリサの名が流れるような筆跡で添えられていました。


「友人を家へ招くだけで、ここまで大ごとにしますの?」


「九条院家ですので」


「その一言で何でも済ませないでくださいまし」


 指定された日の午後。


 屋敷の前へ現れた黒塗りの車に乗り、麗奈は九条院家の本邸へ向かいました。


 やがて車は、高い塀に囲まれた巨大な門の前で速度を落としました。


 門が左右へ開きました。


 そこから先にも、長い並木道が続いていました。


「以前のお屋敷より、門から建物までが遠くありませんこと?」


「あちらは別邸ですので」


 運転手が穏やかに答えました。


「別邸という言葉を便利に使いすぎですわ!」


 窓の外には整えられた庭園が広がり、その奥には噴水や温室まで見えます。


 しばらく進んで、ようやく本邸が姿を現しました。


 麗奈は黙りました。


 左右へ長く広がる白い建物。何本もの柱が並ぶ正面玄関。広い階段の上には、使用人たちが整列しています。


「……学校ではありませんの?」


「九条院家の本邸でございます」


 車を降りた麗奈へ、使用人たちが一斉に頭を下げました。


「ようこそお越しくださいました。一ノ瀬麗奈様」


 声まできれいに揃っていました。


 その中央で待っていたアリサが、満足そうに微笑みます。


「お待ちしていましたわ、麗奈さん」


「ずいぶん大げさなお出迎えですのね」


「普段どおりですわよ?」


「これが普段ですの?」


 玄関へ入るだけでも、数人の使用人が静かに動きます。


 麗奈は圧倒されていることを悟られまいと、いつも以上に胸を張りました。


「まあ、立派なお屋敷ですこと」


「ありがとうございます」


「わたくしの屋敷も、負けてはいませんけれど」


「そうですの?」


「……広さと人数以外は」


 アリサの目がわずかに笑いました。


「いま笑いましたわね?」


「笑っていませんわ」


「絶対に笑いましたわ!」


「玄関で騒がないでくださいまし」


 そのとき、奥から柔らかな声が聞こえました。


「まあ。本当に麗奈さんなのね」


 現れたのは、アリサより少し年上の女性でした。


 整った顔立ちはよく似ていますが、アリサよりもずっと穏やかな雰囲気をまとっています。


 その隣には、小学生くらいの男の子が静かに立っていました。


「姉ですわ」


「九条院家の長女です。いつもアリサがお世話になっています」


 姉は優しく微笑み、麗奈へ頭を下げました。


「こちらこそ、アリサさんには日頃から大変お世話を――」


「お姉様、余計なことは言わなくてよろしいですわ」


「まだ何も言っていませんよ?」


「これから言う顔をしていましたの!」


 姉は困ったように笑いました。


「アリサから、麗奈さんのお話はよく聞いているの」


 麗奈はすぐさまアリサを見ました。


「何を話していますの?」


「大したことではありませんわ!」


「ずいぶん楽しそうに話していますよ」


「お姉様!」


 アリサの声が少しだけ子どもっぽくなりました。


 その横で、弟が小さく頭を下げました。


「はじめまして。一ノ瀬さん」


「まあ、ご丁寧に。麗奈でよろしくてよ」


 男の子は少し緊張しているらしく、姉のそばから離れようとしませんでした。


 麗奈は一瞬考えたあと、少しだけ腰を落として目線を近づけました。


「わたくしも初めてのお屋敷で緊張していますの。ですから、お互いさまですわね」


 男の子は驚いたように目を上げ、それから小さく笑いました。


「はい」


「麗奈さん、子どもの扱いには慣れていますのね」


 アリサが不思議そうに言いました。


「田舎では年下の子も多く――」


 麗奈の言葉が止まりました。


「田舎?」


「何でもありませんわ!」


 麗奈は勢いよく立ち上がりました。


 姉は何も追及せず、ただ柔らかく微笑んでいました。


「では、まずは中をご案内しましょうか」


「わたくしが案内しますわ」


 アリサが姉より先に麗奈の隣へ立ちました。


「お姉様は弟をお願いします」


「はいはい」


 姉の返事が、妙に楽しそうでした。


 麗奈はその様子を見て、アリサへ顔を寄せました。


「お姉様には頭が上がらないようですわね」


「そのようなことはありませんわ!」


「声が大きいですの」


「麗奈さんのせいでしょう!」


 本邸の広い玄関に、アリサの声がよく響きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。